だから、十把一絡げではなく・・・
先日の本ブログのエントリ「中小企業労働問題はどこへ行った?」
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/post-f79a.html
が、元リクルート編集長の中村昭典さんのブログに取り上げられました。
http://blogs.itmedia.co.jp/akinori/2011/01/441-70e3.html(【4.41倍】就活生は中小企業に目を向けろ、は正しいのか?)
そこで中村さんが主張されていることにはまったく同感です。
>要は、企業規模で優劣を、○×を決めるのではなく、ちゃんと中身をみましょうね、という、申し訳ないくらい当たり前の話なわけです。で、現状確かなことは、一部の大企業(そう、大企業全部じゃないのよね)に応募が集中し、その逆で、求人意欲はあるけれど、知名度も低くて採用予算も少ない中小企業には、応募者が少ない。これだけが事実なのです。なのに、何となく、応募者が多い会社=いい会社だと思い込んでみたり、みんなが並んでいる会社=いい会社だと錯覚してしまったり。
ただ、そこでの、私のエントリの取り上げられ方が、必ずしも悪意からではないのですが、ややもすると誤解を招きかねない点もあるように見受けられましたので、念のため、私の上記エントリの趣旨を敷衍しておきます。
>・・・・・・これは労働法学者の濱口桂一郎氏のブログからの引用ですが、数的不均衡という視点だけで中小企業への応募を勧めるのはどうかと、一石を投じています。
たしかに仰る通り、大企業に比べて不安定な要因が中小企業に多いことは事実。濱口氏が指摘されている以外の視点、たとえば大企業に比べて公開されている情報が少ない、福利厚生面の諸制度が整っていない、といった側面も、中小企業への応募が増えない要因になっているでしょう。
ただ、中小企業を十把一絡げに考えて、ダメだよと考えるのは、やっぱり乱暴な気がします。中小だって、大手にはない機動力だったり独自性だったりを持って、とっても元気よくがんばっている企業がたくさんある。従業員数が少ないということは、その分大変だという見方の一方で、自分に任される仕事の裁量が大きいことが多々ある。できあがっていない組織ゆえに、柔軟だったり、制約が少なかったりという側面だってある。
逆にいえば、知名度があっても、業績が下り坂で負債が積み重なり、残念ながら今は経営状況が芳しくない大企業だってある。組織ができあがっており、安定感がある一方で、自由度が低いということもあるでしょう。
いや、まったくその通りだと考えています。だからこそ、中村さんが引用された部分の後で、このように書いたつもりなのですが・・・。
>もちろん、現実の中小企業にはさまざまな企業がありますが、不完全な情報をもつ市場のプレイヤーが「統計的差別」に走りがちであることは、労使いずれの側についてもおかしなことではありません。重要なことは、学生が「統計的差別」に陥ることなくより完全情報に近い状態で選択しうるような労働市場メカニズムの確立であり、それは商業主義的な就活産業などに任せておいて可能になるものではないでしょう。
「統計的差別」ということばがわかりにくかったのかも知れませんが、これは雇用における差別現象を分析するときに使われる労働経済学の用語で、たとえば女子学生は一般的に結婚したり出産したりするとやめる傾向が高いという統計的事実があると、個々の女子学生の中にはずっと働き続けるつもりの意欲満々の人がいくらでもいるのに、企業側は「どうせ女だからやる気はないだろう」と見てしまうという現象を指します。一種の偏見なのですが、マクロの統計的には正しいことをミクロの個別労働者に当てはめて判断してしまうことで生じてしまう偏見ということですね。
学生が中小企業を避けたがるのは、企業が女子学生を避けたがるのと同じような意味での「統計的差別」だろうという趣旨であり、ですから、それでいいというようなつもりはまったくなく、むしろだからそうすべきかを問うた文章であった(少なくともそのつもり)はずなのに、「中小企業を十把一絡げに考えて、ダメだよと考えるのは、やっぱり乱暴な気がします」と書かれると、いささか気落ちしてしまいます。
で、むしろ最後のところで申し上げた「重要なことは、学生が「統計的差別」に陥ることなくより完全情報に近い状態で選択しうるような労働市場メカニズムの確立であり、それは商業主義的な就活産業などに任せておいて可能になるものではないでしょう」というところが言いたいところで、やはり企業からお金をもらって宣伝するための就活産業では、その中小企業が本当に働きがいのあるいい中小企業なのか、それとも使い捨て型のブラック企業なのかきちんと情報を届けることは難しいのではないか、という点を指摘したつもりです。
そこの情報流通メカニズムがきちんと働くことによって、学生の方も安心して「いい中小企業」を目指すことが可能になるのではないかというような趣旨が、上記短いパラグラフの中に入っていたのだということを念のため追記させていただきたいと思いました。
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