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2011年1月 7日 (金)

有期労働契約法制の行方

001 労働法令協会から発行されている『労働法令通信』の1月8/18日号の新春特集として、「有期労働契約法制の行方」という巻頭論文を書きました。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/roudouhourei1101.html

1 有期労働契約の歴史
2 有期労働契約法政策の推移
3 有期労働契約研究会報告書の概要
4 EU有期労働指令とEU各国の法規制
5 有期労働契約法制の行方

という内容ですが、このうち最後の節では、拙著のまえがきではありませんが「過度に保守的にならず、過度に急進的にならず、現実的で漸進的な改革」の一つの方向性を打ち出しているつもりです。

>労働政策審議会における議論はまだ始まったばかりであり、その行方を予測することは難しい。ここではむしろ、以上の歴史的経緯やEU諸国の法規制などを踏まえながら、筆者なりの方向性を提示してみたい。
 まず、日本でもEUでも最大の論点である反復更新をめぐる入口から出口に至る規制の是非について考えよう。入口規制の根拠としてよく挙げられるのは、労働契約は無期が原則であり、有期契約は一時的な労働需要に応ずるものに限るべきとの考え方である。しかしながら、上記ドイツやスウェーデンの例を見ると、とりわけ無業・失業状態から安定雇用にステップアップする一段階として有期契約を活用するという観点からの入口規制の規制緩和を行っている。また、フランスの場合も有期契約の締結事由を法律上に制限列挙しているが、失業対策や教育訓練のための有期契約を認めており、これらは事実上出口規制にシフトしていると見ることができよう。
 さらにより根本的な問題であるが、そもそも雇用契約は二者間の諾成契約であり、公的機関への登録等は何ら要しないのであるから、入口規制といえども入口そのもので公的な介入を行うことは実は不可能であるという点を考える必要がある。入口規制を行っているフランスでも、その入口における客観的な理由の欠如を争うのは出口に達したときである。つまり雇止めされて初めて、当該雇用契約が本来有期たりえず無期であったと訴え出ることになる。これらを考え合わせると、欧州労使が妥結した基準であるEU指令が入口規制ではなく出口規制を選択したことの意味を重視する必要があるように思われる。
 次に出口規制をするにしても、その法的効果をどうするかという問題がある。EU各国では、一定期間ないし一定回数更新された場合、有期契約が無期契約に転化するという法的構成をとる国がほとんどである。しかしながら、これをそのまま日本に導入することには大きな問題がある。それは、EU各国はいずれも解雇に正当な理由を要求するという意味において何らかの解雇規制を設けているが、正当な理由なき解雇に対しては金銭補償を認めている国が大部分だからである。ドイツやスウェーデンなどでは、原則は原職復帰と規定しつつも、使用者がそれを拒んだ場合には金銭補償で決着させることとしている。このような諸国では、有期契約が無期契約に転化しても、その転化した無期契約の違法な解雇に対して、初めからの無期契約労働者と同じ金銭補償をすればよいということに過ぎない。
 これに対して日本では、少なくとも判例法理上は違法な解雇の解決は原職復帰のみであり、金銭補償が認められていないので、単純に無期契約に転化させることに難点が生じる。もっとも、労働審判や労働局のあっせん等実際の解雇事案の大部分は金銭補償で解決している実態にあり、むしろ解雇への障壁は欧州諸国よりも低い面すらあるが、建前としての判例法理を前提とする限り、金銭補償の必要もなく雇止めできる状態から一気に金銭補償も不可能な固定状態に移行することには抵抗が大きいであろう。そこで、将来的には無期契約労働者の不当解雇への金銭補償制度の導入を考慮しつつ、当面は有期契約労働者の一定の反復更新の法的効果として、正当な理由なき雇止めに対する金銭補償制度を導入することが適当と考えられる。
 この観点からすると、報告書で述べられている雇止め法理の法制化には消極的にならざるを得ない。そもそも解雇権濫用法理の類推適用という法的処理自体、例外のそのまた例外というきわめてアクロバティックなものであり、法律上にルール化することはきわめて困難であるはずである。
 もう一つの大きな論点である均等・均衡待遇については、報告書のいうパート法方式はそもそも矛盾を孕んでいる。なぜなら、パート法でいう均等待遇の対象者は前提として無期契約か実質無期の労働者に限られているからである。パートタイムであっても有期契約もあれば無期契約もある以上、このような形の概念区分によって均等待遇を均衡待遇と区別することには意味があるといえるが、有期契約のうち無期契約か実質無期だけを取り出すというような概念操作には、もはやほとんど意味があるとは思われない。ここは、まったく別の均等・均衡概念によって対処するしか道はないように思われる。
 EUの有期労働指令は無期契約労働者との均等待遇を義務づけるとともに、具体的な処理方法として「期間比例原則」が規定され、勤続期間に比例した取り扱いを求めている。処遇がなお年功的な面の多い現在の日本では、当面この期間比例原則を活用することで、反復更新による勤続期間の延長に比例した処遇を図っていくことが考えられるのではなかろうか。
 最後に正社員への転換に関して提起されている勤務地や職種限定の正社員を設けることは、より広く日本の雇用システム全体を多様な選択を可能なものにしていくという観点からも、積極的に検討されるべきであると思われる。

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