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2010年12月25日 (土)

三品和広・日野恵美子「日本企業の経営者――神話と実像」

New_2 『日本労働研究雑誌』1月号の特集記事のうち、あまり労働周りで見かけることの少ないトピックを取り扱っているのが、三品和広・日野恵美子「日本企業の経営者――神話と実像」です。

>本稿で神話と断じるのは「日本企業は現場とミドルでもつ」という通説である。この通説は1980年以降の現実を捉え、1990年前後に支配的な地位を獲得したものと思われる。実際に、戦後の日本を1965年、1980年、1995年、2010年という四つの断面で捉え直してみると、1995年以降の現実は通説と適合的であるものの、1980年以前の現実は通説と合致しないことが分かる。その意味で、通説は確立された日本企業が操業運転状態に入った時期を模写するに過ぎず、日本企業が飛躍の基盤を確立した時期を模写しているとは言い難い。さらに売上高ランキング上位50社と電気精密機器業界の全一部上場企業を比較してみると、いわゆる大企業中の大企業を見ているだけでは日本企業の中において創業経営者の果たした役割を過小評価してしまいかねないことがわかる。大企業の中の大企業にしても、高度成長期を牽引した経営者は在任期間が著しく長い。こうした分析を通して、本稿は日本企業の実像を浮かび上がらせる。

わたくしが述べてきたように、1970年代以降、内部労働市場志向の政策が基軸化するとともに、アカデミズムでも内部労働市場中心の理論が権威として確立していったわけですが、それと同時に企業自体の中でも経営者の内部労働市場化が進行していったという、知識社会学と産業社会学双方にとても興味深い知見を示す研究です。

最後の「おわりに」の文章が、著者らの認識をクリアに示しています。やや長めですが、引用。

>日本企業が飛躍の基盤を整えたのは、主に1960年代から1970年代初頭にかけてのことである。その時期に日本企業の経営を担ったのは、大企業中の大企業を除外して考えると、在任期間が10年を優に超える総業経営者が主力をなしていた。さらに、大企業中の大企業にしても、新卒採用された経営者が平然と10年以上は指揮を執っていたのである。日本企業論が台頭する頃には、この現実が変容を遂げており、誤った認識が市民権を得ることになったのは不幸としか言いようがない。日本企業は経営者不在どころか、強大な力を誇る経営者が築き上げたことを、我々は再認識すべきである。

>・・・この相関関係の裏側には、共通のドライバーが存在する。創業経営者が去った後の日本企業では、定期異動と遅い昇進(小池編 1991)を人事制度に組み込むことによって、厳しい社員間競争と、その帰結としての技能形成を促してきた。それは現場とミドルの組織能力(藤本 2003)を高める効果を発揮する一方で、経営者の就任時年齢を確実に押し上げ、在任期間の短期化を招く結果につながった。さらに、経営者になる人まで実務に長ける一方で、経営者としての修養を積む期間と機会は限られたものとならざるを得ない。要するに、日本企業の実態が経営者不在の日本企業論の主張に近づくにつれ、経営者機能の弱体化が進行し、その帰結として経営の戦略性、ひいては収益性に低下が起きたのである。

この手の議論で注意しなければならないのは、事実認識それ自体とそれに対する価値判断をごっちゃにしないことです。

この著者らの議論には、経営者主導の経営が正しいという価値判断が明らかに見られ、それに対して反発を感じる向きも多いと思われますが(私もその価値判断には自分なりの違和感がありますが)、ここで重要なのはそういう価値判断ではなく、歴史的事実認識のレベルにおいて、1970年代初頭までの時期が決してその後の時期に固定的な認識化した意味での「日本的」であったわけではなく、むしろ非「日本的」であったこと、「日本的」になったのは、1970年代半ば以降の時期であったということを、きちんと認識することでしょう。

政策論やアカデミズムについてわたくしが述べてきたことが、経営者の存在形態においても見事に対応しているという事実発見こそが、本論文の示すきわめて重要なポイントです。

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