池田信夫氏の詭弁術
さて、下記エントリの高橋洋一氏と
>著者(高橋洋一氏)とは経済産業研究所の同僚だったころからほとんど意見は同じで・・・
>先日のニコ生では、著者も「労働市場などの構造問題については池田さんと意見は同じだが・・・
と、そのアンチ労働主義において熱烈なエールの交換を繰り広げている池田信夫氏が、みごとな第1法則及び第2法則の実例を展開しています。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51601521.html(コメント欄)
>私は契約社員に対する厚労省の規制が雇用を減らしてさらに悲惨な結果をもたらすと批判しているのに、この御用学者はその論点にはふれないで、OECDが「有期労働者の保護」を求めているというトンチンカンな反論をしている。
契約社員の雇用を「一時的な業務」に限定する「入口規制」は彼らの雇用を減らし、正社員にするよう強制する「出口規制」は規制を恐れる企業が契約社員の雇用を減らす結果になるだけで、「有期労働者の保護」にはならない。こんなことは1+1=2ぐらいわかりきった話。算数もできない御用学者が、労組の機関紙で彼らに媚びを売る図は醜い。
最後のところの第3法則全開の台詞はいつもながらですが、それは読者の彼の人格への信頼感がどうなるかというだけのことなので、ここではスルーしておきます。
池田氏にはいつものことながら、彼は「スウェーデンは解雇自由だ!」とか、「OECDは有期労働者の保護ではなく、正社員の解雇規制緩和だけを求めている」という、それ自体としては価値判断抜きの事実認識として真偽が判定できる命題の形で自分で提起しておいた問題を、自分で勝手に「そもそも労働者保護は正しいか間違っているか」という価値判断命題にすりかえてしまう傾向があります。
ひとつ、他分野で例を挙げましょう。ある教祖様が「神は存在する!」と主張し、信者たちがそれに唱和している限り、それはそれでしゃあない話ですが、もしその教祖様が「あのドーキンス博士も神は存在すると述べた!」などと虚偽を騙りだしたら、「いや、あんたが神を信ずるのは勝手だが、ドーキンス博士はそんなことは言っていないぞ」ときちんと事実を指摘しなければなりません。
池田信夫氏の「第2法則」とは、まさにこの種の虚偽が多いのです。
これに対して、「いや、ドーキンス博士がどう言おうが、神は存在する!」と熱烈な信者が信ずるのはもうどうしようもありません。そこまで面倒見られません。しかし、「第2法則」によって、「あのドーキンス博士までが神の存在を信じているのであれば、やはり神を信ずるべきかなあ」と思わず考えてしまう善男善女がいるとすれば、「いや、ドーキンス博士はそんなことは言っていないぞ」と指摘することには一定の意味がありましょう。
私のやっていることはしょせんその程度のことでしかありませんが、それにしても、「あのスウェーデンが首斬り自由というのなら、やっぱり池田信夫氏は正しいのかなあ」とか「あのOECDがそこまでいうのなら、やはり池田信夫氏を信ずるべきだろうか」などと思いまどう善男善女の皆さまに、より的確な判断材料を提供するという作業にも、それなりの意味はないわけではなかろうと考えているわけです。
その意味では、私の書いた記事は始めから池田信夫イナゴ諸氏を「改宗」させることなど目的としていません。熱烈な信者は、いかにスウェーデンの解雇法制の詳細を目前に示されようが、OECDの報告書の記述を並べ立てられようが、そんなものととは何の関係もなく、始めから池田信夫氏の一言一句を崇拝することに決めているのですから、何を書いても徒労です。
おそらくこのエントリに対しても、教祖池田信夫氏を始めイナゴ諸氏がますますボルテージを上げて誹謗中傷を加えてくるでしょう。そんなことは分かっています。
大事なのは、実際にスウェーデンの解雇法制はどうなっているか、OECDの報告書はどういうことを言っているかという事実命題に関心を持ち、それによって判断しようと考えている健全な読者の皆さまに、きちんと事実の真偽が伝わることです。その事実認識の上で、読者がいかなる価値判断をするかは、いうまでもなく読者一人一人に委ねられています。本ブログは得体の知れない教団のたぐいではありませんので。
以下、事実認識レベルの問題としてお読み下さい。
https://www.joho.or.jp/report/report/2010/1010report/p30.pdf(スウェーデンは解雇自由だって!?)
>たとえば上武大学教授の池田信夫氏は、2009年に桜プロジェクト「派遣切りという弱者を生んだもの」というテレビ番組の中で、「僕の言っているのに一番似ているのはスウェーデンなんですよ。スウェーデンてのは基本的に解雇自由なんです。いつでも首切れるんです、正社員が。
>前半は明らかなウソである。
その証拠はスウェーデンの労働法規を読めばわかる。幸いスウェーデン政府は法律をすべて英訳してくれているので、誰でもアクセスできる。
解雇法制は1982年の雇用保護法に規定されている。客観的な理由のある場合には1~6カ月の解雇予告で解雇できるが、労働者が訴えて客観的な理由がないとされれば解雇は無効となり、雇用は維持される。
ただし、使用者の申し出により金銭補償で雇用を終了することができる。
また整理解雇に際しては厳格なセニョリティルールが適用される。
さらに、解雇規制の潜脱を防ぐため有期契約の締結にも客観的理由が必要で、3年を超えると自動的に無期契約になる。解雇自由などといえるところはどこにもない。
http://www.joho.or.jp/report/report/2010/1012report/p30.pdf(OECDが求めているのは規制の緩和だけなのか!?)
> 「厚労省の研究会の鎌田耕一座長(東洋大教授)は、朝日新聞のインタビューに『OECD(経済協力開発機構)は日本には労働市場の二重性があると指摘している』と答えている。これを聞くとOECDは契約社員の規制強化を求めているように見えるが、逆である。OECDの対日経済審査報告書では、『雇用の柔軟性を目的として企業が非正規労働者を雇用するインセンティブを削減するため、正社員の雇用保護を縮小せよ』と書いている。鎌田氏とは逆に、OECDは正社員の雇用規制を緩和せよと勧告したのである」
「逆である」「逆に」を連発しており、どう読んでも、OECDは正社員の規制緩和「のみ」を求め、契約社員の規制強化は否定しているとしか読めません。
これで平然と、「私は元の記事のどこにも「OECDが求めているのは規制の緩和だけだ」などとは書いていない」などとシラを切れるのですから、教祖様というのはいい商売ですね。
>OECDが具体的にどういうことを日本に求めているのか、『日本の若者と雇用 OECD若年者雇用レビュー:日本』から、そのまま引用しよう。
> 「…正規雇用と非正規雇用の保護の格差を減らすという観点で雇用保護規制が改革されうる。これには正規契約をしている労働者の雇用保護規制の厳格性を緩和する一方で、有期労働者、パートタイム労働者、派遣労働者に対する保護を強化することが含まれるだろう。前者の一つの選択肢は、正規契約をしている労働者の解雇事案の解決のため主に判例法理に依存した現在の手続きよりも、より明確で、より予測可能で、より迅速な手続きを導入することだろう。これらの改革措置は労使団体の参加により確かに計画され実施されることが重要であろう。労働市場の二重構造の拡大に対処するため、賃金と各種給付上の差別待遇に取り組む上で、さらにすべきことがある。
たとえば、差別禁止法を施行し賃金その他の手当における差別的慣行を減らしていくことで、非正規労働者を採用するインセンティブを弱めるだろう」
ちなみに、OECD加盟国の大半を占めるEUの有期労働契約に対する規制については、この文章を参照。これが先進国の世界標準といえます。
http://homepage3.nifty.com/hamachan/roujunfixed.html(EU有期労働指令の各国における施行状況と欧州司法裁判所の判例)
いや、もちろん、OECDがどう言おうが、EUがどういう指令を作ろうが、そんな邪教は無視して、ひたすら教祖様の声のみを聞きたがる方々を説得しようなんて大それたことは考えておりません。ただ、事実を侮蔑しない方々に、事実が届けばそれで目的は達せられます。あとは一人一人は自立した精神で考えることですから。
(参考)
>池田信夫氏の第1法則:池田信夫氏が自信たっぷり断言していることは、何の根拠もない虚構である蓋然性が高い。
>池田信夫氏の第2法則:池田信夫氏がもっともらしく引用する高名な学者の著書は、確かに存在するが、その中には池田氏の議論を根拠づけるような記述は存在しない蓋然性が高い。
>池田信夫氏の第3法則:池田信夫氏が議論の相手の属性(学歴等)や所属(組織等)に言及するときは、議論の中身自体では勝てないと判断しているからである蓋然性が高い。
« カラ求人の雇用システム的原因@OECD | トップページ | 求職者支援制度の財源 »
コメント