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2010年12月16日 (木)

中野剛志編『成長なき時代の「国家」を構想する』

699 中野剛志さん編の『成長なき時代の「国家」を構想する 経済政策のオルタナティブ・ヴィジョン』(ナカニシヤ出版)をお送りいただきました。ありがとうございます。「著者一同」と書かれていますが、おそらく本書に論文を寄せ、討議にも参加している萱野稔人さんと谷口功一さんからお送りいただいたものと思います。

http://www.nakanishiya.co.jp/modules/myalbum/photo.php?lid=699

>「豊かさ」とは、「国民」とは、「共同体」とは、「国家」とは――低成長時代を生き抜くための国家と社会、そして経済のあり方をめぐり、新進気鋭の若手思想家たちが縦横無尽に論じる。松永和夫・現経済産業事務次官を交えた座談会も収録

ということで、参加者は次のような豪華メンバーです。

佐藤方宣(大東文化大学、経済思想)
久米功一(名古屋商科大学、労働経済学)
安藤 馨(神戸大学、法哲学)
浦山聖子(日本学術振興会、法哲学)
大屋雄裕(名古屋大学、法哲学)
谷口功一(首都大学東京、法哲学)
河野有理(首都大学東京、日本政治思想史)
黒籔 誠(経済産業省 地域産業政策課)
山中 優(皇學館大学、政治思想)
萱野稔人(津田塾大学、哲学・社会理論)
柴山桂太(滋賀大学、経済思想・現代社会論)
施 光恒(九州大学、政治理論・哲学)
五野井郁夫(日本学術振興会、政治学・国際政治経済学)
安高啓朗(ウォーリック大学、政治学・国際関係学)
松永和夫(経済産業事務次官)
松永 明(内閣官房副長官補付内閣参事官)

目次は次の通りです。


      ――成長という限界  中野剛志

第I部 経済政策のオルタナティヴ・ヴィジョン  中野剛志
     
     一 はじめに
     二 リスクシナリオの設定
     三 経済成長と福利
     四 国内総生産から国民福利へ
     五 生産活動と福利
     六 経済政策を再定義する
     七 まとめ
     【Appendix 1】 政府の大きさに関する補論
     【Appendix 2】 政府の大きさと経済開放度に関する各国比較

第II部 「オルタナティヴ・ヴィジョン」の諸論点

     ■「豊かさの質」の論じ方
      ――諦観と楽観のあいだ  佐藤方宣
     ■低成長下の分配とオルタナティヴ・ヴィジョン  久米功一
     ■幸福・福利・効用  安藤 馨
     ■外国人労働者の受け入れは、日本社会にとってプラスかマイナスか  浦山聖子
     ■配慮の範囲としての国民  大屋雄裕
     ■共同体と徳  谷口功一
     ■「養子」と「隠居」
      ――明治日本におけるリア王の運命  河野有理
     ■オルタナティヴ・ヴィジョンはユートピアか
      ――地域産業政策の転換  黒籔 誠
     ■"生産性の政治"の意義と限界
      ――ハイエクとドラッカーのファシズム論をてがかりとして  山中 優
     ■なぜ私はベーシック・インカムに反対なのか  萱野稔人
     ■低成長時代のケインズ主義  柴山桂太
     ■ボーダーレス世界を疑う
      ――「国作り」という観点の再評価  施 光恒
     ■グローバル金融秩序と埋め込まれた自由主義
      ――「ポスト・アメリカ」の世界秩序構想に向けて  五野井郁夫・安高啓朗

第III部 討議「経済政策のオルタナティヴ・ヴィジョン」をめぐって
     中野剛志・松永和夫・松永明・大屋雄裕・萱野稔人・柴山桂太・谷口功一

     ・成長の意味を問い直す
     ・危機の時代だからこそ根源的な思考を
     ・政治哲学と日本の政治
     ・国家の問題にさかのぼって考える
     ・アメリカのヘゲモニーの終焉
     ・資本主義の新たなるステージ
     ・動揺する国民国家体制
     ・アメリカの覇権衰退の帰結は何か
     ・議論の枠組みの重要性
     ・権力の問題にきちんと向き合う
     ・成長こそ重要だという反論をどう捉えるか
     ・国家は経済にどう関与すべきか
     ・経済のロバストネスと共同体の役割
     ・国際的な競争と国内の国土保全を両立させる
     ・共同体の承認がコミュニケーション能力を育てる
     ・共同体概念を練り直す
     ・共同体の機能をいかに活用するか
     ・経済政策のオルタナティヴ・ヴィジョンのために

     【討議を終えて】
       国家を問い直す  松永和夫
      「強靭な経済社会」の構築に向けて  松永 明

このうち、とりわけ中野さんが執筆しているオルタナティブヴィジョン自体は、じっくりと読み込んだ上でなければうかつに批評しにくいので、ここではとりあえず先日POSSEのシンポジウムで対談させていただいた萱野稔人さんの「なぜ私はベーシック・インカムに反対なのか」を。実はその相当部分は、『POSSE』第8号のインタビュー記事とほぼ同じことを書かれていますが、最後近くで「労働市場からの排除が排外主義を準備するという逆説」という項で、私が「BIが血の論理を増幅する」と述べた点と共通する問題を指摘しています。

最後のところでのこの言葉は、是非拳々服膺される必要があるでしょう。

>ベーシック・インカムの議論を見て思うのは、社会の中で人が生きるということに対する認識がそこではあまりに浅はかだということだ。・・・その認識レベルの浅はかさゆえに、たとえそれが政策として実現されたとしても、そこに込められた正義感を裏切るような結果しかもたらさないだろう。労働からの解放が新しい社会的排除を準備してしまうというのは、その最大の逆効果に他ならない。

>ベーシック・インカムは社会保障をめぐる非常にラディカルな「オルタナティブ・ヴィジョン」として提起されている。しかしそのラディカルさは認識レベルでの短絡さと表裏一体だ。社会や、そこで人が生きるということに対する認識が短絡的だからこそ、一見するとラディカルな主張ができるのである。

>ベーシック・インカムが私たちに教えるのは、社会の「オルタナティブ」を構想するにしても、そういったラディカルなだけの姿勢では何も解決できないし、場合によっては逆効果になることさえある、ということだ。その意味では、ベーシック・インカムをめぐる議論は単なる政策論議にとどまるものではない。そこで問われているのは、私たちが社会を構想する細の基本的な姿勢そのものなのである。

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コメント

フランス経済

最近読んだ本の中に榊原英資著「フレンチ・パラドックス」がある。フランスというと「大きな政府、経済的に非効率」というイメージがあるが、リーマン・ショック以降の世界同時不況にあって、各国がマイナス成長に陥るなかで、フランスは2008年にはプラス、2009年にはマイナスながら2.3%と主要国の中で最も傷が浅く、2010年には再び1.4%とプラス成長に復帰する見込みである。

世界同時不況にあって、危機に対するフランス経済の強さが世界中で注目されることになった。フランス経済の強さの原因として、大きな政府による社会主義的な政策が見直されている。以下、「フレンチ・パラドックス」より社会保障に関連するデータを抜粋する(一部データは筆者が補完)。

 一般政府総支出(GDP比):53%、日本は38%
 社会保障関連の公的支出(GDP比):29%、日本は18%
 国が再分配する前の相対貧困率(注1):24.1%、日本は16.5%
 再分配後の相対貧困率:6.0%、日本は13.5%
 公的年金給付:現役世代の51%、日本は34%
 手厚い家族手当、家族関係給付(GDP比):3.21%、日本は0.81%
 低所得者向けの住宅支援
 失業保険:最大 42ヶ月、日本は12ヶ月
 失業率:8~9%、日本は5%
 15~24歳の失業率:20%前後、日本は9%程度
 国家による民間企業への規制
 公共部門での雇用:就労者の21%
 人口1000人あたりの公務員の数:84人、日本は42人
 社会セクターでの雇用:就労者の12%
 時間あたり最低賃金:8.86ユーロ(130円/ユーロ換算で1152円)
 賃金が最低賃金の1.5倍以下の労働者の割合:6割
 週労働時間(男/女):38時間/36時間、日本は47時間/35時間
 有給休暇取得日数:35日、日本は8.5日
 一人あたりGDP、2009年(購買力平価換算):33.7千ドル、日本は32.8千ドル
 労働生産性の伸び率(2002~2007):1.3%
 平均賃金の伸び率(2002~2007):3.4%
 2008年の合計特殊出生率:2.02、日本は1.37
 有給の出産休暇に加えて有給の育児休暇
 充実した託児施設、学童保育
 幼稚園から大学まで無料の授業料
 中小企業に対する企業救済パッケージ

社会保障の財源
 国民負担率、2007年(注2):61%、日本は39.5%
 租税負担率+社会保障負担率:37%+24%、日本は24.5%+15%
 租税の直間比率(2007年):53/47、日本は72/28
 消費税:20%(食料品に対する税率は5%)、日本は5%
 個人所得税の割合が低い:17%
 控除を加味した実効所得税率は9割の世帯で10%以下
 高い社会保険料:社会保障財源の6割を労使双方で負担
 法人税率は34%と低いが社会保険の雇用者負担が重い
 法人税および社会保険の事業主負担率(GDP比):14.1%、日本は9.3%

高度成長時代、「日本は平等で、格差のない国である」と信じてきた。労働者は終身雇用や年功序列賃金によりその生活が保障され、国民健康保険、国民年金、あるいは失業保険によるセーフティネットが敷かれていた。しかし、1990年代初頭のバブル崩壊以降の長期の景気低迷に苦しみ、日本的雇用あるいは日本のセーフティネットは軋み始めている。

フランスあるいは欧州の社会民主主義的な「大きな政府、社会保障」は米国の新自由主義的な「小さな政府、自己責任」と対照的である。日本は「小さな政府」という点で米国と共通するが、「企業に社会保障を肩代わりさせている」という点で特異である。終身雇用、年功賃金、年金、健康保険、退職金など、社会保障を企業が肩代わりしている。しかし、グローバリゼーションのもとで競争が激化する中で、企業が社会保障を支えきれなくなっている。このような状況にあって日本はどのような選択をすべきか。東アジアの開発独裁的な国家主義(企業主義)は論外だろう。

フランス経済(あるいは欧州の経済システム)は一つのモデルだろう。フランス経済の特徴を以下に列挙する。

(1)欧州の経済システムはその背景にEUの社会憲章がある(詳しくは hamachanの「EU労働法形成過程の分析」による)。フランス経済も社会憲章に則したものである。社会憲章は「労働者の基本的社会権」を規定し、移動の自由、雇用と賃金、生活・労働条件の改善、社会保護、職業訓練、男女機会均等、・・・が謳われている。例えば、「移動の自由」の項目として「家族の同居」を挙げ、その中で、勤務地の選択が労働者の権利として与えられている。「雇用と賃金」では「公正な賃金」を挙げ、それなりの生活水準を維持するだけの賃金を保証するとしている。また、「生活・労働条件の改善」では労働時間など労働条件の改善を求め、有給休暇の権利を規定している。他、いろいろ。

(2)時間あたり最低賃金は8.86ユーロ(1222円くらい)であり、週35時間労働、4.3週/月とすると月あたり18.4万円相当(138円/ユーロで換算)である。日本の時間あたり最低賃金は地方によって異なり平均で730円くらいだから、フランスの最低賃金はずいぶん高水準である。しかも、子供のいる家庭、低所得者、失業者、高齢者に対する社会保障給付が手厚い。フランスでは、賃金が最低賃金の1.5倍以下の労働者の割合が6割近くも占める。多くの労働者は低所得層に属するが、家族手当や子供手当てが充実しているため、それなりの生活水準が保証されている。日本と比べて再分配前の所得格差(労働所得、財産所得)は大きいが、再分配後の相対貧困率は日本より少ない。

(3)フランスでは工場労働者と専門職あるいはマネージャーとの報酬の格差は大きく、階層間でギャップは大きい。階層間で雇用の移転はなく、フランスは階級社会であるといわれる所以である。一方、専門職あるいはマネージャーは、より良い条件を求めて企業間を移動する。労働者階級に属していても高等教育を終了すれば専門職あるいは政府高官になる道は開かれている。キャリアパスの選択にあたって、機会は均等に与えられている。国民の生活水準を保証した上で、生活スタイルの選択は各人に委ねているといえる。

(4)各国の物価水準はOECDが発表する購買力平価で評価できる。2009年の消費者購買力平価は日本が126.3円/$、フランスが0.916ユーロ/$である(購買力平価換算で138円/ユーロ)。直近の為替レートは83円/$、0.75ユーロ/$であるから、1$相当の消費者物価を評価すると、日本の物価は1.52$であり、フランスの物価は1.22$である。米国と比べると日本およびフランスの物価は高く、直近の為替レートで米ドルが過小評価されていることが裏付けられる。金融危機以降の円高を反映して日本の物価はことさら高く、フランスの物価より25%ほど高い。

(5)日本では出生率が下がり続けているが、フランスの合計特殊出生率は2.02である。児童手当が厚く、育児休暇や保育所が整備されているため、女性は働きながら出産や子育てが可能である。また、幼稚園から大学までの教育費は基本的に無料である(一部の私立校では個人負担する必要があるが、日本と比べると遥かに少ない)。

(6)フランス人の労働時間は短く、有給休暇は長期である。ワークライフバランスの意識が徹底しており、企業に滅私奉公するという生き方からは無縁である。(日本と比べて)フランス人の額面の所得はけっして多くはないが、基本的な生活水準は保障されている。フランス人は、長期のバカンスを取って楽しむ余裕がある。ちなみに、パリ-マルセイユ間(距離で東京-広島相当)のTGV(新幹線)の片道料金(早期予約)で22ユーロ(約3000円)くらいからある(注3)。

(7)社会保障が手厚いことのマイナスは、失業率が高く特に若者の失業率が高いという点である。失業率が高いのは、解雇規制に縛られるため企業は雇用を増やそうとしない、失業しても社会保障でカバーされるなどの理由によるのだろう。サルコジ政権はフランス企業の競争力の強化、あるいは失業問題の改善を目指して、初期雇用の導入、雇用規制の緩和、残業規制の緩和、職業訓練の強化、非営利団体による雇用促進などの政策を進めている。

(8)社会保障の負担は、国民の租税負担および社会保障負担による。フランスの租税負担率が37%、社会保障負担率が24%であるのに対して、日本の租税負担率は24.5%%、社会保障負担率15%である。フランスの消費税率は20%であり、直間比率は53:47であるから、間接税の割合が大きい。フランスの法人税率は33%であり日本は40%(法人実効税率)だから日本の法人税率は高い。しかし、社会保障の所得に対する事業主負担はフランスの32%(本人負担9.6%)であり、日本は事業主負担が11%(本人負担11%)である。日本の法人税率は高いといわれているが、社会保障も含む企業負担はフランスの方が大きい。

(注1)世帯の等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯の員数の平方根で割った値が、全国民の可処分所得分布の中央値の半分に満たない世帯の割合

(注2)租税負担および社会保障負担の合計の国民所得に対する割合
国民負担率、2003年(GDP比)はフランス43%、日本25%である。

(注3)フランス国鉄SNCFの時刻表および予約ページより
http://www.voyages-sncf.com/billet-train

とても興味ある本の紹介、ありがとうございます。早速読んでみます!

私は、個人的には、日本が一番参考にできる大国はフランス、小国はオランダだと考えています。オランダは、過去に性別分業のバブル社会だったのに、いったんどん底経済に落ちてから、暮らしのあり方を徹底的に見直して方向転換した、という国であり、かつ、日本と同様、非常に教育に力を入れている国だから、です。日本は、PISAではどうの、という話はありますが、識字率がきわめて高い点では先進国中、群を抜いているはずです。選挙がいまだに「名前を書かせる」方式なのは日本だけだと思いますし、底辺フリーターでもホームレスでも活字を読むのも日本くらいでは、と思います。

で、フランスも、これまで何度かコメントに書かせて頂いて来ましたが、大国では教育先進国です。ただし、教育システムが、ドイツと違って、教育訓練システムとはうまく接合しておらず、教育訓練の充実に苦慮しているのは、日本と似ているのでは、と思っています。フランスの強みは、ほぼ無償の幼児教育から大学教育、でしょうね。あと、(6)にあるような、基本的な生活水準の保障、これは日本と比べものにならないですね。住宅と、それから、注(3)にありますが、交通費でも、えっ、と思うほど違います。こういうベースを考えずに日本で消費税増税はいかがなものか、と、いきなり別な論議にとぶのはやめますが、とりあえず、興味深い本のご紹介、ありがとうございました。

教育について追加

オランダ・フランスと日本の似ている点として、教育水準をあげました。これは、単に、社会保障でも労働でも民法でも、法制度的には日本はとても追いつけない水準の両国と、教育水準だけが似ているというだけでなく、日本が、現在、政策形成において何か使える強みがあるとしたら、教育が普及している、移民が少なく、ほとんど全ての日本人は活字が読める、ということしかない、と思うからです。で、識字からみる教育水準は高いのに、個人でバラバラに独立の意見を持つというよりは、「世論」でまとまりやすい国ですし、個々の政策をこれがいい、あれがいい、というよりも、とにかく、オールリベラルのような世論形成をすれば、その後に個々の政策を論じてゆけるのでは、と考えています。
もちろん、その場合、重要なのはメディアの役割で、BSフジの番組など(話されている内容には多少の感想がありますが)素晴らしいと思います。でも、BSではなく、一般の放送にもっとこういうのが入らないか、とか、新聞がもう少し何とかならないか、とか、メディアの企画とか記者の人たちってほんとはかなりの高学歴層であろうことを考えると、ちょっとため息も出るところです。
で、もちろん、hamachanブログのような、質の高くて、まともなブログもとても重要だと思います。

とにかく、日本で唯一使える国民的リソースは「教育」であろう、と考えています。

「道徳心の高さ」も挙げられるのではないかと思います。一時は世界第二位の経済大国になりましたが、おごることなく、それなりに尊敬もされました。お人好しとも言いますが。つい最近、日本を抜いた某国と対照的です。

とはいえ、ここ最近の、何かあったら足の引っ張り合いになる現状を見ていると、不安になってきますが。例えば、地方分権でなんでもかんでも地方に移管するようなことになったとき、各地方がお互いを尊重しあう関係になれれば結構なのですが、かえって、足の引っ張り合いに始終するのではないかという不安があります。

この前の、仲井眞知事が(米軍基地の移転先の候補として)関空を見学したいと言ったら、橋下大阪府知事が、代わりに神戸空港を推薦してくれたという、心温まる押し付け合いが見られました。

日本の教育水準

“哲学の味方”さんが、日本の強みとして教育水準の高さをあげています。
>教育が普及している、移民が少なく、ほとんど全ての日本人は活字が読める。で、識字からみる教育水準は高いのに、個人でバラバラに独立の意見を持つというよりは、「世論」でまとまりやすい国ですし、個々の政策をこれがいい、あれがいい、というよりも、とにかく、オールリベラルのような世論形成をすれば、その後に個々の政策を論じてゆけるのでは、と考えています。

日本の教育水準が高いという点については賛成します。日本の教育水準は平均的に高く、バラツキが小さいという点で優れいます。ただし、バラツキが小さいということは、超優れた人材が少ないということでもあります。世界中から優れた人材を集め、このような人材を活用するという点では米国が勝っています(英語が世界共通言語であるというのは英米の強みです)。

日本の大学あるいは大学院の教育水準については多少疑問を持っています。世界の大学ランキングによると、上位は英米の大学が占め、東大が24位、京大が25位とのことです。米国で学んだ経験からすると、学生に勉強をさせるという点では日本の比ではありません。1コマ2時間の授業に対して、宿題をこなすのに5~6時間の勉強が必要です。学生が提出したレポートをポスドクの助手が丁寧にチェックします。日本の大学においても学生を徹底的に鍛錬することを期待します。

米国では、オリジナリティが常に要求されます。日本の博士に対応する米国の資格がPhD(Dr of Philosophy)です。博士が「専門分野において博く知識を持つ人」を意味するのに対して、PhDは「独自の思想を持って専門分野を極めた人」を意味します。あるフランス人女性が「ステレオタイプで頑迷な人」を「インテリジェンスの欠けた人」と言及していましたが、なるほどと思いました。日本人は学者や専門家でもステレオタイプな公式を振りまわす人が多いようです。

>バラバラに独立の意見を持つというよりは、世論でまとまりやすい
>重要なのはメディアの役割で、新聞がもう少し何とかならないか、とか、メディアの企画とか記者の人たちってほんとはかなりの高学歴層であろうことを考えると、ちょっとため息も出るところです。

世論でまとまりやすいのは良くもありますが、ポピュリズムに陥りやすいという面もありそうです。マスコミの役割は非常に大きいのですが、日本の報道は画一的でステレオタイプであるように思われます。日本の政治経済が低迷している責任の一端はマスコミにもあります。

テレビもラジオも新聞もすべて同じ会社の系列に属し、しかもごく少数の系列(日経、読売、朝日、毎日、産経)に寡占されているのも不健全です。彼らは、「報道の自由」を主張しつつも、寡占的な権益を守るための「報道の自主規制」を唱え、自由な報道を自ら制限しているようにも思われます。若手の有能なジャーナリストも沢山いるのだと思いますが、官僚を批判するような記事に対しては会社や上司からチェックが入り、自己規制しているのかもしれません。

hiroさんへ

hamachanの場所を借りてやりとりですみませんが、おっしゃること、ほぼ同感です。
もちろん、「世論がまとまりやすい」のは、教育水準というか、識字水準は高いのに、自分で考える能力は低くて世間一般で話されていることに簡単になびくからだ、と思っています。

「自分で考えない」、これは、長いこと、年功序列・終身雇用、第二次大戦後は国にかかわる戦争なし、で平和に、あまりにも安定して過ごしてきたツケではないかと思いますね。
民間企業はそれでも景気による浮沈や、企業内競争もありますが、超安定雇用の公務員や、いったんなったら定年も遅い大学教員あたりが、一番「考えないですむ」業種になってしまったと思います。
地方分権が評判が悪いのも、特に、転勤などもなくて、国家公務員よりも処遇の良かった地方公務員で、あまりにもどうしようもない人が多過ぎる、ということもあるのだろうと思います。

それにしても、というか、だからこそ、というか、格差やグローバリゼーションや国家安全保障問題に対応していくには、これからの日本人は「考える国民」になっていくしか、道はないと思います。

榊原氏「フレンチ・パラドックス」について、追加です。
hiroさんの紹介が良く、かつ、榊原氏のフランス紹介に同感できるところが多いので、この記事と、それから、22日の「ニコ生・・・」のところに、氏のフランスについての記述をかなり援用しました。

ですが、榊原氏の政策提言部分には、とても共感できるところとよくわからないところがありました。
共感できるところは、「大きい政府」の必要性(オビから結論まであちこちに)、地方分権の必要性(p.213-)、サービス業の医療・観光・教育などを中心に内需拡大型の産業振興の必要性(p.185)などです。
一方、よくわからない提言もありました。財源調達には国債発行を(第6章)とか、英語を公用語に(p.194-)などです。
特に、国債については、私が財政問題に疎いのと、現在の日本では逆進的にしか働かないであろうと思われる消費税(ヨーロッパとはタイプが違う)増税よりはいいかと思って「疑問」にとどまっていたのですが、読後、しばらくして、「疑問」以上に「違和感」が膨らみ、その原因に思い当たりましたので、追加です。
私は、消費税増税には反対ですが、ナンデモ反対なわけではなくて、これもヨーロッパに学んで、所得税の累進化の強化、企業、特に大規模企業の社会保険料負担の強化(法人税は減税でいいと思いますが)、そして、基本的には担税力強化(税金を払える人間を増やす、雇用創出です)で、対応すべきだと考えています。消費税は、低所得の若年層や年金生活者が急増しつつあり、かつ、それらの層に、税・社会保険料負担などの所得再配分効果が逆にしか働いていない、どころか、家賃を払うと食費を切り詰めるしかない、とか、医療保険が払えない、という人たちまでいる日本では、貧困層をより貧困に突き落とす方向に、逆進的にしか働かないと思います。
で、国債に戻ってですが、国の財政運営は、国民一人一人が納得して拠出する、税と社会保険料で賄うのが基本だと思います。国債、という借金は、誰がどう負担するのかわからない、という点が最も疑問です。
誰がどう負担するのかわからないが、大量にお金を調達すれば、それで一挙解決、という考え方が、とっぴですが、どう財源調達するのか知らないが、困っている人にお金をばらまけば問題は一挙解決、というベーシック・インカムとも、通底する印象があります。個々の国民の、個人として国の運営に参加する責任が、どちらでも全く無視されている、という印象です。
まとまりませんが、これを書いておかないと、榊原氏グッジョブ、だけでは片手落ちだなと思って、追加しました。

フランスの社会保障負担(補足)

榊原英資著「フレンチパラドックス」は、日本の目指すべきモデルとしてフランスを挙げ、大きな政府による社会保障の充実を提言しています。

日本がフランスのように大きな政府を目指す場合、社会保障の負担が問題になります。社会保障の負担に関して、“哲学の味方”さんは「国債による財源調達」および「消費税による負担増」に疑問を呈されています。

「国債による財源調達」については、現在既にGDPの200%近くの累積赤字を抱える中で、榊原先生が提言される60~70兆円の国債発行は過大だと思います。国債を発行して、社会保障を厚くすることにより、これが消費の拡大(貯蓄に回らないで)につながればGDPも成長するはずです。ただ、単年度の国債発行で社会保障が整備されるはずもなく、これを何年にもわたって続けるとなると我が国の財政が持たない恐れがあります。榊原先生は、「国債は国内の1400兆円以上にもなる低金利の貯蓄によって買い支えられているので心配ない。」としていますが、国民からの借金にかわりはありません。将来の増税を見込んで、社会保障の負担を先取りしようという話でしょう。

「消費税による負担増」については、フランスの租税負担と社会保障負担の割合、直接税と間接税の割合は参考になると思います。フランスの場合を日本に当てはめると、消費税による租税負担とともに社会保障負担を重くしようということになります。社会保障負担は累進性があり、富裕層への負担率が重くなり(但し上限がある)、企業による負担も重くなります。

「消費税の増税は、貧者の租税負担を重くする」から消費税の増税に対して反対という意見もあるかと思います。ただし、フランスのように貧者の生活水準を国が保障するということであれば、国民が均等に消費税を負担しても良い思います。例えば、最低賃金が月額18万円にプラスして子供手当てや家族手当があれば、消費税20%(食料品は5%)は妥当だと思います。最低ラインを保障した上で、消費税を皆で負担するという考え方です。

hiroさん

「社会保障負担」というのは、社会保険料負担のことですね。
日本は、所得税の累進性が低く、社会保険料の企業負担が少なく、消費税が一律の低率で、歳入の低い国だ、ということを、最近、一夜漬けの財政の勉強で知ったところです。榊原氏は、なぜ、財政・税制についても、フランスを参考に、と言わないのでしょうね。いきなり国債になるところがわかりません。
あと、英語を第二公用語に、も、必要なところで必要な手が打てればいいだけの話で、公用語の必要はないと思います。サルコジ大統領の英語は、とてもとても公用語のレベルではないですし(笑、と入れたいくらい、楽しめるものです)。

なお、このブログで、この件については私はこれでけっこうです。

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