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« 組織率と小選挙区制と福祉政策の重点 | トップページ | 『よいスタートを切れる? OECD若者雇用統合報告書』 »

2010年12月22日 (水)

スマイル0円が諸悪の根源

日本生産性本部が、毎年恒例の「労働生産性の国際比較2010年版」を公表しています。

http://activity.jpc-net.jp/detail/01.data/activity001013.html

>日本の労働生産性は65,896ドル(755万円/2009年)。1998年以来11年ぶりに前年水準を割り込み、順位もOECD加盟33カ国中第22位と前年から1つ低下。

>製造業の労働生産性は米国水準の70.6%、OECD加盟主要22カ国中第6位と上位を維持。

>サービス産業の労働生産性は、卸小売(米国水準比42.4%)や飲食宿泊(同37.8%)で大きく立ち遅れ

前から、本ブログで繰り返していることですが、製造業(などの生産工程のある業種)における生産性と、労働者の労務それ自体が直接顧客へのサービスとなるサービス業とでは、生産性を考える筋道が違わなければいけないのに、ついつい製造業的センスでサービス業の生産性を考えるから、

>>お!日本はサービス業の生産性が低いぞ!もっともっと頑張って生産性向上運動をしなくちゃいけない!

という完全に間違った方向に議論が進んでしまうのですね。

製造業のような物的生産性概念がそもそもあり得ない以上、サービス業も含めた生産性概念は価値生産性、つまりいくらでそのサービスが売れたかによって決まるので、日本のサービス業の生産性が低いというのは、つまりサービスそれ自体である労務の値段が低いということであって、製造業的に頑張れば頑張るほど、生産性は下がる一方です。

http://activity.jpc-net.jp/detail/01.data/activity001013/attached.pdf

この詳細版で、どういう国のサービス生産性が高いか、4頁の図3を見て下さい。

1位はルクセンブルク、2位はオランダ、3位はベルギー、4位はデンマーク、5位はフィンランド、6位はドイツ・・・。

わたくしは3位の国に住んで、1位の国と2位の国によく行ってましたから、あえて断言しますが、サービスの「質」は日本と比べて天と地です。いうまでもなく、日本が「天」です。消費者にとっては。

それを裏返すと、消費者天国の日本だから、「スマイル0円」の日本だから、サービスの生産性が異常なまでに低いのです。膨大なサービス労務の投入量に対して、異常なまでに低い価格付けしか社会的にされていないことが、この生産性の低さをもたらしているのです。

ちなみに、世界中どこのマクドナルドのCMでも、日本以外で「スマイル0円」なんてのを見たことはありません。

生産性を上げるには、もっと少ないサービス労務投入量に対して、もっと高額の料金を頂くようにするしかありません。ところが、そういう議論はとても少ないのですね。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/post-2546.html(サービスの生産性ってなあに?)

(追記)

ついった上で、こういうコメントが、

http://twitter.com/nikoXco240628/status/17619055213027328

>サービスに「タダ」という意味を勝手に内包した日本人の価値観こそが諸悪の根源。

たしかに、「サービス残業」てのも不思議な言葉ですね。英語で「サービス」とは「労務」そのものですから素直に直訳すれば「労務残業」。はぁ?

どういう経緯で「サービスしまっせ」が「タダにしまっせ」という意味になっていったのか、日本語の歴史として興味深いところですね。

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コメント

おそらくサーヴィスのもっと古い意味。臣従につながるような意味で、ある意味ただしく使ってしまったのでしょう。

そう言えば、『サンデー毎日』連載の佐高信氏のコラム、現政権の武器輸出解禁批判で井深大氏の発言を枕にしてましたね。で、その中で井深氏が「物をつくるものだけが実業、後は虚業かサービスです」って言ってたのを、好意的に引いているんですよね。

バブル期の実業軽視という文脈での批判なら肯ける面もあるかと思うのですけど、ただサービスを虚業と同じと斬って捨ててしまう姿勢は、今日の様にソリューションが先に在ってモノもサービスもそのためのエクスキューズって現実では「サービスはタダだから、もっと安くしろ!」って暴論にしか繋がらないって気がするんですよ。

そもそも、井深氏って案外ハト派でも無いんですよね。ボーイスカウト団長だった頃には、自衛隊への研修を組もうとしたくらいですから。

例の方がまさにその「間違った議論」を展開されています。
http://www.newsweekjapan.jp/column/ikeda/2010/12/20-3.php

3法則氏の面目躍如:

http://twitter.com/ikedanob/status/17944582452944896">http://twitter.com/ikedanob/status/17944582452944896


>日本の会社の問題は、正社員の人件費が高いことにつきる。サービス業の低生産性もこれが原因。

なるほど、ルクセンブルクやオランダやベルギーみたいに、人件費をとことん低くするとサービス業の生産性がダントツになるわけですな。
さすが事実への軽侮にも年季が入っていることで。

なんにせよ、このケーザイ学者というふれこみの御仁が、「おりゃぁ、てめえら、ろくに仕事もせずに高い給料とりやがって。だから生産性が低いんだよぉ」という、生産性概念の基本が分かっていないそこらのオッサン並みの認識で偉そうにつぶやいているというのは、大変に示唆的な現象ではありますな。

(追記)

http://twitter.com/WARE_bluefield/status/18056376509014017">http://twitter.com/WARE_bluefield/status/18056376509014017


>こりゃ面白い。池田先生への痛烈な皮肉だなぁ。/ スマイル0円が諸悪の根源・・・

いやぁ、別にそんなつもりはなくって、単純にいつも巡回している日本生産性本部の発表ものを見て、いつも考えていることを改めて書いただけなんですが、3法則氏が見事に突入してきただけで。それが結果的に皮肉になってしまうのですから、面白いものですが。
というか、この日本生産性本部発表資料の、サービス生産性の高い国の名前をちらっと見ただけで、上のようなアホな戯言は言えなくなるはずですが、絶対に原資料に確認しないというのが、この手の手合いの方々の行動原則なのでしょう。

サービス産業の労働生産性

hamachanブログ“中野剛志編『成長なき時代の「国家」を構想する』”においてフランス経済の特徴についてコメントしたが、今回のコメントは、その続きでもある。

日本人は教育水準も高く良く働くのに、フランスと比べてなぜ日本の労働生産性が圧倒的に低いのかを問わなければならない。フランス人は週38時間、日本人は週47時間も働くのに、一人あたりのGDPはフランスの方が多い。OECDの統計によると、2009年度の一人あたりGDPは購買力平価換算でフランスは33.7千ドル、日本は32.8千ドルである。

OECDの統計によると、労働時間あたり労働生産性(水準)は米国を100として、フランスは95、日本は66である。働生産性は、単位労働時間あたりの付加価値であり、国民全体の付加価値額(GDP)を国民全体の労働時間で割ることによって評価される。OECDの統計よりフランスおよび日本のブレークダウンを以下に対比する(注1)。

一人あたりGDP(購買力平価換算):
仏/$33,679、日/$32,421
一人あたり労働時間(全労働時間/全国民):
仏/618時間、日/848時間
労働生産性(付加価値額/労働時間):
仏/$54.49/時間、日/$38.23/時間
労働生産性(米国=100):仏/95、日/66

日本生産性本部は「労働生産性の国際比較」で日本の労働生産性がOECD加盟33カ国中日本の労働生産性は22位、先進7カ国では最低であると指摘している(注2)。労働生産性が悪いのは企業努力が足りない、あるいは労働者の働き方に改善の余地があるということなのか?

労働生産性の成長要因として、資本装備率あるいは技術革新や人材育成などの全要素生産性(注3)があるが、経済環境や社会制度によるところが多い。OECDの統計で日本の労働生産性が低くなるのは、円高デフレによると思われる。1985年のプラザ合意で円ドルレートは3年間で250円から125円まで進んだ。ドルベースの輸出価格を据え置いた結果、1ドルあたりの売り上げは250円から125円まで半減したということである。輸出価格の下落を補うために従業員はコスト削減に努めた。これだけの円高に対して貿易収支の黒字が減らないのを見て日本異質論が唱えられた。

通常、これだけの円高に対して利益を確保するために輸出価格を上げざるをえないはずだ。値上げで売上げは減り、貿易黒字が減って、行過ぎた円高は調整されるはずだった。ところが、日本の労働者は生産性を上げてコストを削減した。

輸出価格を値引きしなければ、生産性の向上努力は雇用者報酬の増加として反映されたはずである。しかし、生産性の向上努力で販売価格は低下し、価格の低下はさらなる円高デフレの原因になった。生産性の向上努力が雇用者報酬を増やすどころか、雇用者報酬を減らし、国内の雇用者数を減らした。ここに、企業経済を中心に考え、家計を二の次とする日本システムの弊害がある。筆者は、hamachanブログ“労働基準監督官の新規採用は100人から50人に半減?”において企業中心主義の弊害で労働条件が悪化したとコメントした。企業中心主義の弊害は、労働条件の悪化のみならず円高デフレにも及んでいたのだ。

日本の労働生産性が米国やフランスと比べて劣っているのは、円高デフレによって付加価値の上昇が食われたことによる。プラザ合意以降、購買力平価は1986年の207円/$から2009年の115円/$まで、毎年一貫して円高方向に上昇を続けている。

購買力平価の変化がGDPにどのように影響するのかを(単純化した)仮想的な事例で説明する。199x年の購買力平価を167円/$、日本のGDPを3兆ドルとすると、GDPは円換算で500兆円である。10年後の200x年に米国では3兆ドル相当の付加価値が4.5兆ドルになったとする。200x年の購買力平価を111円/$とすると、米国の4.5兆ドルは円換算で500兆円のままである。米国では経済が1.5倍に成長したのに、日本のGDPは500兆円のままということになる。ある商品Aの価格が、米国では10年間に1.5倍になったのに、日本では変化しなかったということである。以上はGDPを物価の影響からみたものであるが、実質GDPの成長率においても米国は2~3%であるのに対して、日本は1.5~2.5%である。

日本では、内需主導経済への転換の必要性が早くから説かれてきたが、未だに外需依存から脱却できていない。2002年から2007年の景気回復局面で外需の寄与率は40%近くもあり、輸出の寄与率は60%に達している。世界金融危機において、日本の金融機関の痛手は少ないはずなのに、最も深刻なダメージを受けたのは日本経済である。2009年、日本のGDPギャップは30兆円近くに達し、実質GDP成長率は-5.2%に沈んだ。日本の経済基盤は外需依存の脆弱なものだということである。

竹中「構造改革」は、正規社員と非正規社員という雇用の2極化をもたらしたが、大企業(製造業)と中小企業の間に労働生産性の格差をもたらした。大企業(製造業)はリストラによる効率化や海外事業展開を進め、2000年以降、労働生産性を大幅に向上した。しかし、国内に残ったサービス業あるいは中小企業の労働生産性は低いままである(注4)。

労働力調査によると、製造業の雇用者数は1990年に27%であったが2009年には18%と約3分の2まで減っている。また、雇用者数の約70%は従業員が500人以下の中小企業である。大企業が製造拠点を海外に移し産業の空洞化が進行する中で、国内雇用の受け皿でもあるサービス業および中小企業の労働生産性を上げなければならない。

サービス産業では全要素生産性(TFP)を上げる必要があるが、「IT化、技術革新、人材育成、経営の効率化・・・等々」など企業努力を求める議論が大半である。しかし、全要素生産性を上げるためには「規制緩和、労働法制度、金融緩和、少子化・・・等々」などの社会制度のデザインあるいは経済政策はもっと重要である。しかし、社会制度のデザインや経済政策は閉じた専門家集団で議論され、業界団体もからんで、生産性向上とは無縁なものになりがちである。医療、福祉、保育、雇用・・・等々、このような事例はいくらでもある。

日本ではサービスに対する需要が育たないことも、外需依存の経済から脱却できない理由の一つである。1990年代、内需を創出し景気を刺激するために30兆円近くの公共投資が10年間続いた。そして今、管政権は「コンクリートから人へ」というキャッチフレーズのもと新たな公共投資政策を行おうとしている。医療、福祉、保育、雇用・・・等々、1990年代とは対象はことなるが、公共投資である。しかし、1990年代の教訓から学ぶならば、政府主導のアドホックな公共投資において、その政策が正しいという保障はない。むしろ、家計を豊かにすることで消費者主導で需要を自律的に育てようという考え方もあるだろう。

(注1)OECD.StatExtracts/ Productivity Levels/ Breakdown of GDP per capita in its componentsによる。http://stats.oecd.org/Index.aspx?datasetcode=SNA_TABLE1

(注2)OECDは労働生産性を単位労働時間あたりで評価しているのに対して、日本生産性本部は就業者一人あたりで労働生産性を評価している。

(注3)経済成長率のうち労働や資本以外の生産性要素の成長を一まとめに括って全要素生産性という。

(注4)経済産業省編「サービス産業におけるイノベーションと生産性向上に向けて」より

労働生産性の国際比較

OECDの統計(注1)より、フランス、日本、米国の労働生産性を比較する。労働生産性(時間あたり)はGDP(購買力平価PPP$で換算)を国民全体の投入労働時間で割った値で評価される。国民総投入労働時間のカウント方法が変わったため、OECDの統計には2009年の労働生産性しか記載されていない。1995年/ 2000年/ 2007年/ 2009年の労働生産性をGDP、人口、労働時間(就業者あたり)より外挿して評価する。

労働生産性PPP$:1995年/ 2000年/ 2007年/ 2009年
フランス:$32.0 / $39.4 / $53.3 / $54.5
日本:$28.7 / $31.9 / $41.0 / $38.2
米国: $31.4 / $42.0 / $58.2 / $57.4

相対的労働生産性 米国=100:1995年/ 2000年/ 2007年/ 2009年
フランス:101.9 / 93.7 / 91.7 / 94.9
日本:91.6 / 75.9 / $70.5 / 66.6
米国:100 / 100 / 100 / 100

一人あたりGDP、PPP$:1995年/ 2000年/ 2007年/ 2009年
フランス:$20,214 / $25,272 / $33,301 / $33,698
日本:$22,537 / $25,608 / $33,577 / $32,477
米国:$27,605 / $35,050 / $46,337 / $45,674

購買力平価(PPP)は各国の物価を等しくするような、各国通貨の米ドルに対する交換レートである。上の労働生産性の評価において、GDPは購買力平価で換算されている。従って、各国間の相対的なインフレ率(あるいはデフレ)の差による影響は除かれているはずである。デフレの影響を除いたとしても、米国を基準とする日本の労働生産性は年々悪化している。フランスとの比較においても、2009年には日本の労働生産性は$38.2、フランスは$54.5と、その差が開く方向にある。労働生産性の伸び率に差があるのが問題だ。

日本とフランスの労働生産性の違いは、日本とフランスの労働時間の違いによる。少ない労働時間で日本と同じくらいの一人あたりGDPを産出しているから、フランスの労働生産性は高くなる(注2)。2007年の日本とフランスの一人あたりGDPはほとんど同じであるが、フランスの一人あたりの労働時間は少ないため、労働生産性はフランスのほうが高くなる。

一人あたりGDP の比較では、米国は日本およびフランスと比べて大きい。日本とフランスの比較では、1995年から2007年にかけて日本はフランスを上回っていたが、2009年フランスは日本を逆転した。1995年から2009年にかけての一人あたりGDP の伸び率はフランスの1.67倍、米国の1.65倍に対して日本は1.44倍である。GDP の伸び率において、フランスと米国は同等であり、日本だけが劣っている。

また、米国を基準とする労働生産性の比較においても、日本だけが劣っている。一人あたりGDPの伸び率 と労働生産性の伸び率は、ほとんどパラレルである。日本の一人あたりGDP の伸び率が低い理由は、労働生産性の伸び率が低いためである(注3)。

前回のコメントで、「労働者はサービス残業もいとわないで生産性向上に励み、製造コストを削減した」ことを述べた。しかし、製造コストの削減は、製品価格の下落(円建て)、円高(物価の下落は通貨価値の上昇である)、利益の減少、雇用削減、デフレ、さらなる製造コストの削減と悪循環に陥ったのだ。結局、労働者個々の生産性向上の努力は、マクロな労働生産性(OECDデータ)を上昇させるどころか下降させたのだ。

日本のシステムにどこか異常があるのだ。識者は、「新興国とのグローバル競争で、デフレ圧力に晒されているから、さらにコストダウンに耐えられるように輸出競争力を強化しなければいけない」と説く。しかし、90年代においては新興国との住み分けができていたはずであるし、欧米諸国は労働生産性を上げているのだ。労働生産性低下の原因を探らなければならない。

筆者は、労働生産性の伸び率が低い理由として、以下を挙げる。

(1)労働投入効率の悪さ、資本効率の悪さ
(2)家計の弱さ
(3)産業構造の変化(国内製造業、海外移転、グローバル化)に追従できない
(4)サービス産業の労働生産性の低さ
(5)交易条件の悪さ

(注1)http://stats.oecd.org/Index.aspx?datasetcode=SNA_TABLE1
(注2)日本の労働時間統計には、サービス残業の実態は反映されていない。サービス残業を加味すると、労働生産性の差はさらに大きくなる。
(注3)各国通貨で評価すると、インフレ率の差が加味されて、労働生産性の伸び率の違いはさらに大きくなる。

家計

内閣府によるGDP需要項目別時系列表によると、2009年実質経済成長率が-5.2%、輸出寄与度は-4.2%であり、輸出寄与率は81%に達している。日本経済は外需依存であることを示している。

「高度成長期から現在に至る日本経済の推移の中で、経済成長率に対して輸出の寄与率が増加する一方、家計による消費支出の寄与率は減っている。高度成長期において輸出の寄与率が5%程度、消費支出の寄与率が60%程度であったのに対して、2002年から2007年にかけての景気回復期において輸出の寄与率は60%程度と急増する一方、消費支出の寄与率は30%程度まで減少している。GDPの6割以上を占める消費支出の寄与が3割程度であり、GDPの1割程である輸出の寄与が6割にも達している。」(注1)

日本経済は、内需主導経済に転じるどころか、逆に外需主導経済へと加速している。企業の海外進出に伴って、内需で産業の空洞化を埋めなければならないが、家計は弱いままである。新成長戦略は、医療、介護、環境を重点分野としているが、生活水準の上昇なしにこれら内需産業を育てることはできない。内需産業の育成があって生活水準が上がるのではなく、生活水準が上がって内需産業の育成があるのだ。

日本経済を内需主導に転換できなかったのは、あるいはサービス産業の生産性が成長しないのは家計が弱いからである。OECDの統計より、米国(新自由主義経済)およびフランス(社会保障大国)と日本を比較することにより、日本経済の特徴を明らかにする。

(粗)国民可処分所得は企業、政府、家計の各部門に、(粗)調整可処分所得として再分配される(注2)。日、米、仏の3カ国において、各部門への分配(GDP比)を比較する。

(粗)国民可処分所得の分配(2007年、GDP比)
日:家計(73.0)/ 企業(20.2 )/ 政府(8.1)
米:家計(81.5)/ 企業(9.0 )/ 政府(9.3)
仏:家計(81.9)/ 企業(8.7 )/ 政府(9.1)

興味深いのは、米国およびフランスでは再分配後の(粗)調整家計可処分所得は共にGDPの80%以上もあり、各部門への再分配の比率がほぼ等しいことである。日本の場合、家計への分配が少なく、企業への分配が突出している。

次に、各国における(粗)調整家計可処分所得の使用(GDP比)を比べる。

(粗)調整家計可処分所得の使用(2007年、GDP比)
日:現実最終消費(66.4)/ 固定資本減耗(4.3 )/ 貯蓄(1.5)
米:現実最終消費(76.4)/ 固定資本減耗(3.6 )/ 貯蓄(1.5)
仏:現実最終消費(71.7)/ 固定資本減耗(2.5 )/ 貯蓄(7.6)

(粗)調整家計可処分所得(2007年、購買力平価、PPP$)
日($24,518)/ 米($37,768)/ 仏($27,280)

一人あたり現実最終消費(2007年、購買力平価、PPP$)
日($16,280)/ 米($28,855)/ 仏($19,560)

家計固定資本形成(2007年、GDP比)
日 (4.0)/ 米 (6.9)/ 仏(6.9)

現実最終消費は、家計最終消費に加えて政府からの個別消費支出(医療や教育の支給等)を含む消費支出であり、固定資本減耗(原価償却)および貯蓄とともに調整家計可処分所得を構成する。日本の現実最終消費支出はGDP比率においても支出額においても、米国より遥かに小さく、フランスと比べても80%程度に留まる。

さらに、日本の為替レートは購買力平価より高く内外価格差が発生している。例えば購買力平価が115円/$で、為替レートが83円/$だとすると、ニューヨークで83円相当のものが東京では115円で売られていることになる。すなわち、日本の物価は米国の物価の1.4倍にもなるということである。輸出財の価格は市場で調整され83円/$相当で均衡するが、国内のサービス価格は115円/$ということになる。これが内外価格差である。日本の現実最終消費支出はフランスの80%程度に留まるが、内外価格差を考慮すると日本の生活水準はさらに落ちるということだ。

家計固定資産形成は主に、住宅投資である。日本の住宅投資額が米国およびフランスより低いのは、日本の消費が弱いことを示している。また、日本の家計貯蓄はGDP比で1.5%とフランスの7.6%と比べるとかなり低い水準に留まっている。(通常、家計貯蓄率は家計可処分所得に対する比率で表される。家計貯蓄率に換算すると2.6%である。)

日本の家計は年々弱る一方で、企業への分配は増えている。(粗)国民可処分所得の分配、貯蓄、固定資本形成を各部門(家計、企業、政府)等を、以下の時系列で比べる。

(粗)国民可処分所得の分配(日本、GDP比)
1996年:家計(74.7)/ 企業(15.9)/ 政府(9.6)
2000年:家計(75.1)/ 企業(18.2 )/ 政府(7.3)
2007年:家計(73.0)/ 企業(20.2 )/ 政府(8.1)

固定資本形成(日本、GDP比)
1996年:家計(6.8)/ 企業(15.2)/ 政府(6.3)
2000年:家計(5.1)/ 企業(14.9 )/ 政府(5.1)
2007年:家計(4.0)/ 企業(15.8)/ 政府(3.1)

貯蓄(日本、GDP比)
1996年:家計(7.1)/ 企業(3.4)/ 政府(0.5)
2000年:家計(5.4)/ 企業(5.2 )/ 政府(-2.8)
2007年:家計(1.5)/ 企業(7.9)/ 政府(-2.9)

企業貯蓄(2007年、GDP比)
日 (7.9)/ 米 (1.9)/ 仏(0.4)

現実最終消費支出(日本、GDP比)
1996年(63.8)/ 2000年(65.6)/ 2007年(66.8)

最終消費支出(日本、GDP比)
1996年(55.3)/ 2000年(56.2)/ 2007年(57.8)

雇用者報酬(日本、GDP比)
1996年(54.0)/ 2000年(53.9)/ 2007年(51.3)

営業純益(日本、GDP比);法人企業統計調査
1996年(3.0)/ 2000年(4.8)/ 2007年(7.7)

家計における固定資本形成および貯蓄の時系列は、家計が年々弱くなっていることを示している。とりわけ、家計の貯蓄の低下が著しい。これは、高齢化により貯蓄より消費が増えていること、雇用者報酬が下がっていること、によると推測できる。

雇用者報酬が下がり、家計の貯蓄率が下がっているにもかかわらず、現実最終消費支出および最終消費支出はわずかながら伸びている。家計貯蓄を削っても、あるいは住宅投資を抑えても必要不可欠な消費をしている可能性がある。家計に余裕があっての消費支出ではないだろう。

営業純益(GDP比)は法人企業統計調査によるものであるが、OECD統計による日本の企業貯蓄(GDP比)とほぼパラレルである。日本の企業貯蓄率は米国およびフランスと比べて突出している。しかも、営業利益が毎年積みあがっているにもかかわらず、雇用者報酬が下がっているという点も異常である。企業が内部留保を増やし、あるいは海外投資を増やす中で、「産業の空洞化」、「国内投資の停滞」、「非正規雇用の増加」、「新規雇用の削減」、「雇用者報酬の減少」、が進んでいる。内部留保はGDPのフロー勘定からの資金の消出である(その分GDPは減る)。また、日本では海外からの直接投資が流入しないのに、海外直接投資に資金が流出している。雇用が流出する一方ではないか。米国およびフランスでは海外への投資以上に、海外からの投資があるのだ。

政府は、増税をして医療、介護、環境を重点分野として投資を促進し、雇用を創出しようという。新たな産業振興政策である。しかし、家計を豊かにしないでサービス産業の成長はない。政府による裁量的な産業振興政策よりも、規制を緩和し、減税で家計を豊かにする財政政策こそが必要である。財政の悪化を防ぐというなら、資金が漏洩(内部留保や海外投資バランス)する穴を修繕しなければならない。家計を強くすることにより、経済を自律的に成長させるべきである。

(注1)吉川洋、特別講演「日本経済:内需主導の回復、持続的成長の可能性」
(注2)(粗)国民可処分所得は、「海外からの所得以外の経常移転」を除いて国民総所得と同じである。(粗)国民可処分所得は(純)国民可処分所得に固定資本減耗を加えたものである。

国民経済計算

前回までのコメントでOECDの統計(注1)を参照しながら日本、米国、フランスの労働生産性について比較した。OECDのデータで比較することにより、日本経済の特徴を捉えることができた。今回は、さらに詳しく日本、米国、フランスの国民経済計算を比較する。

各国の国民経済計算は、93SNA(System of national account)という世界基準に従って記述され、日本の国民経済計算(注2)も93SNAに従っている。OECDのデータは各国の国民経済計算を集計したものであり、同一基準で作成されているため、国際的な比較ができる。

OECDのデータは、制度部門ごとの勘定が分かりやすく記載され、国民経済の全体像が把握しやすいように記載されている。以下、日、米、仏の2007年度における国民経済を比較する。簡略化するため、制度部門を家計、企業、一般政府の3部門にまとめて記載する。家計は個人企業および民間非営利団体を含み、企業は非金融法人企業および金融機関を含むものとする。データはGDP比で記載する。

GDP支出勘定(総合)................日.........米.........仏
民間最終消費支出..................56.7.....70.1......56.7
政府最終消費支出..................17.9.....15.9......23.0
純国民貯蓄..................................6.5.......1.7...... 6.7
固定資本減耗............................20.8.....12.2.....13.3
総合計.......................................101.9.....99.9.....99.7

GDP支出勘定(制度部門別).....日.......米.........仏
家計..............................................73.0.....81.5......81.9
(民間最終消費支出..................56.7.....70.1......56.7)
(一般政府個別消費支出.........10.1.......6.4.......15.1)
(家計純貯蓄..................................1.5......1.5.........7.6)
(家計固定資本減耗.....................4.3.......3.6........2.5)
(家計小計....................................72.6.....81.6.....81.9)
企業...............................................20.2.......9.0........8.7
(企業純貯蓄..................................7.9........1.9.......0.4)
(企業固定資本減耗...................13.3........7.1.......8.2)
(企業小計....................................21.2........9.0.......8.6)
一般政府.........................................8.1........9.3.......9.1
(一般政府集合消費支出.............7.9...... 9.5........8.0)
(一般政府純貯蓄........................-2.9.....-1.7.....-1.4)
(一般政府固定資本減耗..............3.1.......1.5.......2.5)
(一般政府小計...............................8.1........9.3......9.1)
総合計..........................................101.3......99.8....99.7

上の表はGDPの支出側勘定である。GDPの支出勘定は各部門ごとに消費支出、純貯蓄、固定資本減耗を加えたものである。企業部門は消費支出を持たず純貯蓄あるいは固定資本減耗だけである。

この表で、一般政府個別消費支出は医療保険や介護保険にともなう現物社会給付あるいは教育、保健衛生など消費者に還元される一般政府の支出である。民間最終消費支出は一般政府個別消費支出を合算する前の家計の最終消費支出であり、合算したものが現実最終消費支出である。一般政府集合消費支出は外交、防衛や治安などの公共サービスに関する一般政府の支出である。

支出勘定における家計部門の合算が、家計の調整可処分所得である。家計の調整可処分所得は年金や医療あるいは各種手当てを含んだ家計への最終的な分配であり、日本の家計への分配は米国およびフランスと比べて10%近くも少ない。その分、企業への分配が米国およびフランスと比べて10%以上大きくなっている。

GDPの支出側勘定において、企業部門は消費支出を持たないが、企業は自分自身の貯蓄から、もしくは家計や政府から資金を調達して投資する。企業の純貯蓄マイナス純投資(純固定資本形成)を企業の超過貯蓄という。

2007年の企業の純投資(GDP比)は2.5%であり、純貯蓄は7.9%であるから企業の超過貯蓄は5.4%(約30兆円)にもなる。30兆円もの資金が滞留していることになる。ほぼ需給ギャップに相当する額である。企業が家計から資金を調達して投資するというのが正常な経済の姿であり、フランスの企業超過貯蓄は-2.7%、米国の企業超過貯蓄は-0.6%である。企業に超過貯蓄があるのに、さらに法人税を減税しようという政府案は納得できるものではない。

日本の固定資本減耗は米国およびフランスと比べて7~8%も大きく、過大評価されている可能性がある。日本の過去10年にわたる純投資の累積は、米国およびフランスより少ない。にもかかわらず、日本の固定資本減耗は大きい。固定資本減耗は国民所得を減じ、実質的な経済規模を縮小する。固定資本減耗の過大評価を圧縮することにより、企業の超過貯蓄を有効活用できるのではないか。

次に、GDP生産勘定を日本、米国、フランスで比較する。

GDP生産勘定(総合).............日.......米.........仏
補助金.....................................-0.6.....-0.4......-1.9
雇用者報酬.............................50.8.....56.2......51.4
間接税........................................8.4.......7.3......15.3
粗営業余剰・混合所得..........40.1.....36.8..... 35.2
総合計......................................98.7.....99.9....100.0

GDP生産勘定(制度部門別.......日.......米.........仏
企業付加価値..............................NA......57.7......55.1
(補助金.........................................NA.....-.0.0......-0.9)
(雇用者報酬................................NA.......35.9......35.4)
(間接税.........................................NA.........4.7........3.0)
(粗営業余剰・混合所得...........23.6.......17.1.....17.6)
(小計.............................................NA........57.7......55.1)
家計付加価値..............................NA........30.7......18.9
(補助金.........................................NA......-.0.4.......-0.2)
(雇用者報酬.................................1.8.......10.1........3.3)
(間接税.........................................NA..........2.7........0.8)
(粗営業余剰・混合所得...........13.3.......18.3......15.1)
(小計..............................................NA........30.7.....19.0)
一般政府付加価値......................NA.........11.4.....15.6
(補助金.........................................NA........-.0.0.....-0.2)
(雇用者報酬.................................6.3........10.1.....12.8)
(間接税.........................................NA...........0.0........0.5)
(粗営業余剰・混合所得.............3.2...........1.3...... 2.5)
(小計.............................................NA.........11.4.....15.6)
部門外付加価値..........................NA...........0.0.....10.4
(補助金.........................................NA........-.0.0....-0.7)
(雇用者報酬................................NA............0.0......0.0)
(間接税.........................................NA............0.0....11.1)
(粗営業余剰・混合所得.............NA............0.0......0.0)
(小計.............................................NA.............0.0...10.4)
総合計...........................................NA...........99.8..100.0

この表はGDPの生産側勘定である。GDPの精算勘定は各部門ごとの付加価値を加えたものであり、それぞれ部門における付加価値は雇用者報酬、粗営業余剰・混合所得、および(間接税マイナス補助金)を合算したものである。

この表で、間接税は生産・輸入品に課される税である。雇用者報酬は賃金および雇主の社会保険料負担の合算である。粗営業余剰・混合所得は生産活動に関わる(企業会計でいうところの)営業利益に相当する。この表は付加価値の発生側の勘定であり、法人税や所得税、雇用者の社会負担、あるいは財産所得は、部門間の移転所得として所得の分配勘定に反映される。

家計(個人事業を含む)部門における粗営業余剰・混合所得は、個人企業としての営業余剰および世帯の帰属家賃を含む。持ち家に住む場合は、家賃が発生したとみなして帰属家賃が発生する。家計の消費支出が帰属家賃を含むことにより、実際の消費支出を少なくする。日本と比べて米国およびフランスにおける粗営業余剰・混合所得の割合(GDP比)は大きい。

(注1)http://stats.oecd.org/Index.aspx?datasetcode=SNA_TABLE1

(注2)http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/h21-kaku/23annual-report-j.html

第一次所得の配分勘定

OECDの統計データより、日本、米国、フランスの国民経済計算における第一次所得の配分勘定を比較する。

第一次所得の配分勘定は、各制度部門が生産過程へ参加した結果受取る所得(営業余剰・混合所得、雇用者報酬)や財産所得がどのように配分されるのかを記述する。生産過程で発生した間接税は一般政府に配分され、補助金は一般政府から支払われる。

財産収支(受取と支払)は各部門間の所得の移転を記述し、財産収支の部門ごとの受取と支払の合計の差額が海外純所得になる。そしてGDPと海外純所得の合算が国民総所得である。国民総所得から固定資本減耗を差引いたものが国民所得(市場価格表示)である。

国民総所得=GDP(国内総生産)+海外純所得

第一次所得の配分勘定において、各制度部門(家計、企業、政府)ごとの受取と支払の差額を第一次バランスという。部門別の第一次所得バランスを合算すると国民総所得となる。第一次所得バランスは国民総所得の各部門への配分である。

2007年度(各国通貨)........日....米.....仏
GDP.....................515.5..14.00..1.90
海外純所得.................1.7...0.12..0.02
国民総所得...............532.8..14.10..1.92
(日;兆円、米;10億ドル、仏;10億ユーロ)

2007年度.(GDP比)........日.....米.....仏
GDP...............100.0....100.0....100.0
海外純所.............0.33....0.88....1.21
国民総所得.........100.3....100.8....101.2
固定資本減耗........20.8......11.3....12.1
国民所得...........79.2......88.7....87.9

以下GDP比で表示
一次所得配分(総合).....日......米.....仏
営業余剰・混合所得.....39.0....36.8....35.2
雇用者報酬............51.3....56.2....51.8
間接税................8.4.....7.4.....15.1
財産所得(受取)......24.5....40.3.....41.6
合計...............123.3....140.6....143.7
補助金(支払)........0.6......0.4......1.5
財産所得(支払)......21.2....39.3.....41.1
粗国民総所得.........101.5...100.9....101.2
合計................123.3...140.6....143.7

一次所得配分(家計).....日......米.....仏
営業余剰・混合所得.....13.0....18.3....15.1
雇用者報酬............51.3....56.2....51.8
財産所得(受取).......5.3.....16.4.....8.7
合計................69.7......90.9....75.6
財産所得(支払).......2.8......9.2.....2.0
第一次バランス.......66.8......81.7....73.6
合計................69.7......90.9....75.6

一次所得配分(企業).....日......米.....仏
営業余剰・混合所得.....22.9....17.2....17.6
財産所得(受取)......17.2....22.9.....32.1
合計.................40.1....40.0....49.7
財産所得(支払)......15.8....27.3.....36.4
第一次バランス........24.3....12.7.....13.3
合計................40.1.....40.0....49.7

一次所得配分(政府).....日......米.....仏
営業余剰・混合所得......3.1.....1.3....2.5
間接税................8.4.....7.4....15.1
財産所得(受取)........2.0....1.0.....0.8
合計.................13.5.....9.7....18.4
補助金(支払)........0.6......0.4.....1.5
財産所得(支払)......2.5......2.9.....2.7
第一次バランス........10.4.....6.4....14.3
合計.................13.5.....9.7....18.4

第一次所得配分に関して、日本と米国およびフランスの比較を以下にまとめる。

 雇用者報酬あるいは第一次所得バランスにおいて、米国の家計に対する配分は圧倒的に多い。
 雇用者報酬は、日本とフランスはほぼ同等であるが、第一次所得バランスの家計への配分は日本が66.8%に留まるのに対して、フランスは73.6%である。
 フランスの間接税は15.1%と日本の8.4%に比べてかなり大きいことを考えると、第一次所得バランスの家計への配分の違いは増幅される。間接税は政府から家計に再配分されるからである。
 第一次所得バランスの日本とフランスの家計への配分の違いは、日本では家計における財産所得(受取)が少ないこと、営業余剰・混合所得が少ないことによる。
 第一次所得バランスの企業への配分は、日本の24.3%に対して、米国の12.7%、フランスの13.3%と、日本の企業への配分は圧倒的に多い。
 日本企業の営業余剰・混合所得は22.9%と、米国の17.2%、フランスの17.6%と比べて多い。
 日本企業の営業余剰・混合所得が多いのは固定資本減耗が多いことによる。日本企業の固定資本減耗が13.3%であるのに対して、米国は7.1%、フランスは8.2%である。
 日本の場合、企業の純財産所得(受取-支払)はプラスであるが、米国およびフランスではマイナスである。

所得の第二次分配勘定

これまでOECDのデータをもとに、日、米、仏の国民経済計算を比較してきた。前回、第一次所得の配分勘定を比較したが、今回、所得の第二次分配勘定を比較する。以下記載のOECDのデータは今年2月時点のものであり、現時点のOECDデータと若干異なっているが大枠では大差ないと思う。(大震災の混乱もあり、データの発表を控えていた)

前回のコメントで日、米、仏の第一次所得の配分勘定を、各部門(政府、企業、家計)ごとに比較した。第一次所得の配分勘定において、各部門ごとの第一次所得バランス(固定資本減耗を含む)の総和は国民総所得(GDP+海外純所得)である。

政府の第一次所得バランスにおける主要な所得源は間接税を含むものである。従って、家計および企業の第一次所得バランスは間接税を払った後の所得である。

家計の第一次所得バランスにおける主要な所得源は雇用者報酬である。雇用者報酬は給与所得および社会保障の企業負担部分を含む。第一次所得バランスにおいて、その他の所得源として、営業余剰・混合所得および財産所得がある。

所得の第二次分配において、家計は第一次所得バランスから租税および社会保障負担を政府に払い、政府から現金の給付(年金等)および現物の給付(医療や介護等サービス等)を受ける。家計の調整可処分所得は、再分配した後の家計の所得である。家計の調整可処分所得は、現実最終消費支出と家計粗貯蓄の合算に等しい。

所得の第二次分配において、企業は第一次所得バランスから租税を政府に払う。企業の調整可処分所得は、租税を払った後の企業の所得である。企業の調整可処分所得は、企業粗貯蓄に等しい。

所得の第二次分配において、政府は租税および社会保障負担を受け取り、現金および現物を家計に給付(再分配)する。政府の調整可処分所得は、再分配した後の政府の所得である。政府の調整可処分所得は、集合消費支出と政府租貯蓄の合算に等しい。

2007年度 第二次所得分配(以下GDP比)

第二次所得分配(総合)....................... (日 / 米 / 仏)
国民総所得............................................101.5 / 100.7 / 101.2
直接税(受取).........................................9.5 / 13.7 / 11.4
現実社会負担(受取).............................11.3 / 6.8 / 17.6
帰属社会負担(受取)..............................1.9 / 0.0 / 2.4
現物社会移転以外の社会給付(受取)....14.1 / 12.1 / 19.3
現物社会移転(受取).............................11.3 / 8.2 / 16.4
その他経常移転(受取)...........................7.5 / 1.3 / 8.6
合計........................................................157.1 / 142.9 / 176.8
直接税(支払)..........................................9.5 / 13.8 / 11.3
現実社会負担(支払)..............................11.3 / 6.9 / 17.7
帰属社会負担(支払)................................1.9 / 0.0 / 2.3
現物社会移転以外の社会給付(支払).....14.1 / 12.2 / 19.5
現物社会移転(支払)..............................11.3 / 8.2 / 16.4
その他経常移転(支払)............................7.7 / 2.1 / 9.8
調整可処分所得.......................................101.3 / 99.8 / 99.7
合計.........................................................157.1 / 142.9 / 176.8

第二次所得分配(家計)...................... ...(日 / 米 / 仏)
一次所得バランス....................................66.8 / 81.6 / 73.6
帰属社会負担(受取)..............................0.1 / 0.0 / 0.0
現物社会移転以外の社会給付(受取)....14.1 / 12.1 / 19.3
現物社会移転(受取).............................11.3 / 8.2 / 16.4
その他経常移転(受取)...........................5.2 / 0.2 / 5.8
合計..........................................................97.5 / 102.0. / 115.0
直接税(支払)..........................................5.3 / 10.6 / 8.4
現実社会負担(支払)..............................11.3 / 6.9 / 17.7
帰属社会負担(支払)................................1.9 / 0.0 / 2.3
現物社会移転以外の社会給付(支払).......0.1 / 0.0 / 0.1
現物社会移転(支払)................................1.2 / 1.8 / 1.4
その他経常移転(支払)............................4.5 / 1.2 / 3.2
調整可処分所得.........................................73.0 / 81.5 / 81.9
合計...........................................................97.5 / 102.1 / 115.1

第二次所得分配(企業)...................... ...(日 / 米 / 仏)
一次所得バランス....................................24.3 / 12.7 / 13.3
現実社会負担(受取)..............................1.1 / 0.0 / 1.4
帰属社会負担(受取)..............................1.2 / 0.0 / 0.6
その他経常移転(受取)..........................2.0 / 0.0 / 2.1
合計.........................................................28.6 / 12.7 / 17.4
直接税(支払).........................................4.2 / 3.2 / 2.9
現物社会移転以外の社会給付(支払).....2.4 / 0.0 / 2.0
その他経常移転(支払)..........................1.8 / 0.5 / 3.9
調整可処分所得......................................20.2 / 9.0 / 8.7
合計........................................................28.6 / 12.7 / 17.4

第二次所得分配(一般政府)............... ...(日 / 米 / 仏)
一次所得バランス...................................10.4 / 6.4 / 14.3
直接税(受取).........................................9.5 / 13.7 / 11.4
現実社会負担(受取)............................10.2 / 6.8 / 16.2
帰属社会負担(受取).............................0.7 / 0.0 / 1.8
その他経常移転(受取)..........................0.2 / 1.1 / 0.7
合計.........................................................31.1 / 28.1 / 44.4
現物社会移転以外の社会給付(支払)...11.6 / 12.2 / 17.4
現物社会移転(支払)............................10.1 / 6.4 / 15.1
その他経常移転(支払)..........................1.4 / 0.3 / 2.8
調整可処分所得........................................8.1 / 9.3 / 9.1
合計........................................................31.1 / 28.1 / 44.4

制度部門ごとの調整可処分所得、可処分所得、第一次所得バランス以下にまとめる。調整可処分所得は可処分所得に現物社会移転(医療や介護等サービス等)を加味したものである。現物社会移転は政府から家計に移転される。制度部門ごとの調整可処分所得あるいは可処分所得の合算はGDI(国内総所得)に等しい。

調整可処分所得...................(日 / 米 / 仏)
家計...................................73.0 / 81.6 / 81.9
企業...................................20.2 / 9.0 / 8.7
政府………………………....8.1 / 9.3 / 9.1
合計.................................101.3 / 99.8 / 99.7

可処分所得...........................(日 / 米 / 仏)
家計...................................63.0 / 75.3 / 66.9
企業...................................20.2 / 9.0 / 8.7
政府………………………...18.2 / 15.7 / 24.1
合計.................................101.4 / 100.0 / 99.7

第一次所得バランスは、租税や社会保障負担を政府に支払い、政府から現金や現物の給付を受取る前の所得である。制度部門ごとの第一次所得バランスの合算はGNI(国民総所得)に等しい。

第一次所得バランス............(日 / 米 / 仏)
家計................................... 66.8 / 81.7 / 73.6
企業................................... 24.3 / 12.7 / 13.3
政府……………..………... 10.4 / 6.4 / 14.3
合計………………..………101.5 / 100.8 / 101.2

所得の第二次分配に関して、日本と米国およびフランスの比較を以下にまとめる。

 米国における国民所得の家計への配分は圧倒的に多い。

 可処分所得の家計への配分は、日本63%、フランス66.9%である。可処分所得は第一次所得バランスから直接税および社会負担を支払い、政府からの現金給付(年金等)を受取った後の所得である。

 調整可処分所得の家計への配分は、日本73%、フランス81.9%である。また、企業への配分は日本20.2%、フランス8.7%であり、日本では家計への配分が少なく、企業への配分が際立っている。調整可処分所得は可処分所得に政府からの現物給付(医療や介護サービス等)を合算した所得である。

 直接税(家計および企業の支払)は日本9.5%、米国13.7%、フランス11.4%であり、社会保障負担は日本10.9%、米国6.8%、フランス18.0%である。日本の国民負担は低い。ただし、第一次所得バランス(政府が間接税を徴収した後の所得)の家計への配分は日本が66.8%に留まるのに対して、フランスは73.6%である。

 フランスは日本および米国と比べて、国民負担および社会保障給付が多く富の再分配の割合が大きい。政府からの現金給付(年金等)は日本14.0%、米国12.1%、フランス19.2%であり、現物給付(医療や介護サービス等)は日本10.1%、米国6.4%、フランス15.0%である。

(注1)一般政府は中央政府、地方政府、社会保障基金の3部門から構成される。上記データにおいて、政府は一般政府の意味で記載している。

(注2)「現物社会移転以外の社会給付」は家計に対して現金で支払われる社会給付であり、年金基金による社会給付(年金給付、失業給付等)、無基金雇用者社会給付(退職一時金等)、社会扶助給付(生活保護費、家族手当等)からなる。

(注3)「現物社会移転」は現物社会給付(医療、介護に係わるサービス給付)および個別的非市場財・サービスの移転(保健衛生、保育、教育に係わるサービス)からなる。「現物社会移転」は政府最終消費のうちの個別消費支出である。

(注4)「現実社会負担」は国民健康保険や厚生年金などに対する掛け金であり、雇用者負担分と雇主負担分からなる。現実社会負担」は社会保障基金に支払われ、その支払分は雇用者報酬にまれる。

(注5)「帰属社会負担」は退職一時金など雇主がその源泉から雇用者に支払う給付であり、雇用者報酬にその支払分が含まれる。従って、支払分は第一次所得バランスに含まれるが、所得の第二次分配の「現物社会移転以外の社会給付」にも企業から家計への支払いとして2重計上されている。2重計上を打ち消すために、「帰属社会負担」を家計から企業への所得移転として計上している。

(注6)「その他の経常移転」は制度部門間の経常移転である。具体的には非生命保険取引、罰金、寄付金、負担金等が含まれる。一般政府内において中央政府、地方政府、社会保障基金の3部門間の経常移転は別掲される。

(注7)OECDのデータでは、「所得の第2次分配勘定」に現物社会移転の再分配も含むが、内閣府の国民経済計算では「所得の第2次分配勘定」に現物社会移転は含まない。内閣府のデータでは「所得の第2次分配勘定」のバランス項目が可処分所得であり、現物社会移転を再分配した後の所得を調整可処分所得として記載している。各部門ごとに、調整可処分所得は可処分所得と現物社会移転の合算であり、部門ごとの現物社会移転の合算が政府最終消費の個別消費支出と等しい。

(注8)制度部門ごとの可処分所得の合算および調整可処分所得の合算は等しく、国内総所得(GDI:Gross domestic income)と等しい。GDI はGDPに交易利得/損失を加味した値である。

(注9)GDI はGDPに交易利得/損失を加味した値であり、GDI(国内総所得)とGDP(国内総生産)はほぼ同じである。

(注10)内閣府の国民経済計算では可処分所得および調整可処分所得をネット(固定資本減耗を加えない)で記載しているが、上記データの記載は部門ごとに固定資本減耗を加えるグロスで記載している。

国民負担率

次の表は、財務省が発表している2008年度の国民負担率(=社会保障負担率+租税負担率)の国際比較から、日、米、仏の比較を取り出したものである。

2008年 国民負担率=社会保障負担率+租税負担率
日本………….40.6% = 6.3% + 24.3%
米国………….32.5% = 8.6% + 24.0%
フランス…….61.1% = 24.3% + 36.8%

国民負担率は国民所得に対する社会保障負担および租税負担の割合である。OECDのデータ(2007年度)から国民負担率を計算し、財務省のデータと照合する。ここで、国民所得は市場価格表示の国民純所得(NNI at market price)から間接税を引いた値である。NNI はOECD.statから参照できる。

2007年度 (NNI / 間接税 / 国民所得:現地通貨)
日本(兆円)……………………41.93 / 4.34 / 37.59
米国(10億$)…………………12,396 / 1,027 / 11,369
フランス(10億ユーロ)……..1,665 / 286 / 1,380

2007年度 (国民負担率 / 社会保障負担率 / 租税負担率)
日本……………………..40.1% / 15.5% / 24.6%
米国……………………..34.4% / 8.4% / 26.0%
フランス………………..60.5% / 24.1% / 36.4%

OECDの国民経済計算から類推した国民負担率は2007年度のものであり、財務省のデータは2008年度のものである。またデータ源も違うため、双方に違いはあるが、ほとんど一致する。OECDの国民経済計算から国民負担率を類推することによって、各国ごとの国民負担率の背景にある経済構造の比較が可能である。

日本では、税と社会保障の一体改革が迫られ、国民負担率の問題が議論の俎上に上っている。国民負担率だけを取り出して議論するのではなく、国民負担率の背景にある経済の全体構造を見ながら議論する必要がある。国民経済計算にリンクして国富の分配を議論し、国民負担(租税および社会保障負担)を議論する必要がある。この場合、他国との比較は役にたつだろう。

(注1)租税は第一次所得配分の間接税(消費税、物品税等)と第二次所得分配の直接税(所得税、法人税、資産課税等)の合算とする。

(注2)社会保障負担は第二次所得分配の現実社会負担とする。

財務省による国民負担率(2008年)のデータ、次のように訂正します。

国民負担率=社会保障負担率+租税負担率
日本………….40.6% = 16.3% + 24.3%


再度の訂正です。

2007年度 (NNI / 間接税 / 国民所得:現地通貨)
日本(兆円)……………………419.3/ 43.4 / 375.9

資本調達勘定

今回は、2007年度の日米仏の制度部門別の資本調達勘定(実物取引)を比較する。

hamachanブログに国民経済計算についてコメントをしてきたが、労働関連とかけ離れているのではないかという後ろめたさはあるものの、このような次第になったのは筆者の労働関連に関する素朴な疑問「フランス人は休暇も多く労働時間も短いのに、何故日本の労働生産性より良いのか?」、「日本人は沢山働いているのに、給与は何故上がらないのか?」、「大きな政府のフランスの方が労働生産性はよいのか?」、「何故日本だけ円高デフレが続くのか?」等々から始まっている。「大きな政府、福祉国家」の代表であるフランス、また「小さな政府、自己責任社会」の代表であるアメリカと日本を比較することによって、日本経済の特異性をあぶり出そうというのが、これまでの国民経済計算に関する一連のコメントである。リーマンショックなど2008年以降世界経済は変調をきたすが、変調する直前の2007年度のOECDデータを使って日米仏の経済をスナップショット的に比較している。

資本調達勘定は、今期になされた資本の運用および調達を記述する。運用側の項目として総固定資本形成(固定資本形成および在庫品増加)、土地等の純購入、および純貸出(+)/純借入(-)を記述し、調達側の項目として貯蓄および資本純移転などを記述する。粗固定資本形成は純固定資本形成および固定資本減耗の合算である。また、粗貯蓄は純貯蓄および固定資本減耗の合算である。

ここで、制度部門ごとの純貸出(+)/純借入(-)は、プラスならば純貸出を、マイナスならば純借入を表す。資本調達勘定の各項目に関して、政府、企業、および家計の合算が国全体と等しくなる。OECD統計のNational Accountsでは国内の勘定と海外の勘定は分離されている。

内閣府の統計表一覧に制度部門別の資本調達勘定が載っているが、OECD.statとは(1)国内勘定と海外勘定が統合されている、(2)固定資本形成あるいは貯蓄はネット(純)で記述されている、(3)資産の変動に固定資本減耗は含まれていない、という点で違っている。

2007年GDP (現地通貨)
日本........................................................515.5兆円
米国.......................................................13995 Billion US$
フランス................................................1887 Billionユーロ

国全体(GDP比)................................(日 / 米 / 仏)
粗資本形成..........................................23.7 / 19.1 / 22.0
土地等の純購入.................................0.0 / 0.0 / 0.0
純貸出(+)/純借入(-)......................3.5 / -5.3 / -1.3
資産の変動(小計)............................27.2 / 13.9 / 20.6
粗貯蓄....................................................27.3 / 13.9 / 20.6
資本純移転.........................................-0.1 / 0.0 / 0.0
負債の変動(小計)............................27.2 /.13.9 / 20.6

政府(GDP比)....................................(日 / 米 / 仏)
粗資本形成............................................3.1 / 2.4 / 3.3
土地等の純購入..................................0.4 / 0.1 / 0.1
純貸出(+)/純借入(-)......................-2.4 / -2.8 / -2.8
資産の変動(小計).............................1.1 / -0.2 / 0.7
粗貯蓄.....................................................0.3 / -0.2 / 1.1
資本純移転............................................0.8 / 0.0 / -0.4
負債の変動(小計).............................1.1 / .-0.2 / 0.7

企業(GDP比)....................................(日 / 米 / 仏)
粗資本形成............................................16.5 / 9.8 / 11.8
土地等の純購入..................................0.8 / -0.1 / 0.1
純貸出(+)/純借入(-)......................3.3 / -0.7 / -1.8
資産の変動(小計)............................20.7 / 9.0 / 10.1
粗貯蓄....................................................21.2 / 9.0 / 9.4
資本純移転.........................................-0.5 / 0.0 / 0.7
負債の変動(小計)...........................20.7 / 9.0 / 10.1

家計. (GDP比)...................................(日 / 米 / 仏)..
粗資本形成............................................4.1 / 6.9 / 6.9
土地等の純購入.................................-1.2 / 0.0 / .-0.3
純貸出(+)/純借入(-)......................2.5 / -1.8 / 3.2
資産の変動(小計)............................5.4 / 5.1 / 9.9
粗貯蓄....................................................5.8 / 5.1 / 10.1
資本純移転..........................................-0.3 / 0.0 / -0.2
負債の変動(小計)...........................5.4 / 5.1 / 9.9

海外勘定(GDP比)................................(日 / 米 / 仏)
海外資産の変動................................-4.7 / 5.1 / 1.4

固定資本減耗(GDP比)............ (日 / 米 / 仏)
国全体...................................................20.8 / 12.2 / 12.9
政府........................................................3.2 / 1.5 / 2.4.
企業.........................................................13.3 / 7.1 / 7.9
家計.........................................................4.3 / 3.6 / 2.6

純固定資本形成(GDP比)... (日 / 米 / 仏)
国全体....................................................2.1 / 6.7 / 8.0
政府.......................................................-0.1 / 0.9 / 0.9
企業....................................................... 2.5 / 2.5 / 2.9
家計...................................................... -0.3 / 3.3 / 4.2

純貯蓄(GDP比)....................... (日 / 米 / 仏)
国全体.................................................... 6.5 / 1.7 / 7.7
政府....................................................... -2.9 / -1.7 / -1.3
企業...........................................................7.9 / 1.9 / 1.5
家計...........................................................1.5 / 1.5 / 7.5

資本調達勘定に関して、日本と米国およびフランスを比較する。

 日本は国全体の純貸出(+)/純借入(-)が大きくプラスであり、米国およびフランスはマイナスである。特に米国は大きくマイナスである。一方、海外資産の変動は日本は大きくマイナスであり、米国およびフランスはプラスである。日本では国内から海外に資本が流出し、米国およびフランスでは資本が流入していることを示す。

 Economic Outlook No.88 によると、日/米/仏の経常収支(2007年、GDP比)は4.9/-5.1/-1.0である。国全体の純貸出(+)/純借入(-)は経常収支にほぼ対応する。

 日本は対外資産残高を2000年代初頭より急速に増やしている。日米仏の対外資産残高/対外負債残高/対外純資産残高を比較する(2009年末、IMF為替レートによる円換算、日本銀行のBOJレポートによる)。
日本.....................555 / 289 / 266 (兆円)
米国....................1692 / 1944 / -252 (兆円)
フランス.............628 / 657 / -29 (兆円)
日本の対外資産残高は米国およびフランスより少ないが、対外負債残高が少ないため、世界一の対外純資産残高を持っている。日本の経常収支は黒字であり、毎年対外純資産を積み増している。対外純資産残高が多いということは、海外投資が多く国内投資が少ないということである。円高の原因でもある。円が高くなると、ドル換算の対外純資産残高は目減りする。国内投資の減少、円高による対外資産価値の目減りを考えると、諸外国のように対外資産残高と対外負債残高のバランスをとることが必要である。資本流出→海外純資産増大→円高デフレ→コスト削減圧力(給与減少、非正規雇用増大)→経常収支黒字の悪循環である。海外から投資を呼び込み、国内の雇用機会を増やす必要がある。

 海外資産残高を増やすことにより、所得収支(財産所得による海外からの収入)は増える。2010年の日本の経常収支は17兆円であり、貿易サービス収支の6.5兆円に対して所得収支は11.6兆円と経常収支の7割近くを占める。日米仏の所得収支(2010年)を比較すると、日本の134Billion$に対して、米国165Billion$、フランス48 Billion$である。対外純資産残高に対する、日本の所得収支は低い。米国およびフランスは対外純資産残がマイナスであり、所得収支はプラスである。特に米国の所得収支は大きくマイナスでありながら日本の所得収支より大きい。日本の資産運用効率が悪いということである。

 日本の純固定資本形成(GDP比)は2.1%と米国の6.7%およびフランス8.0%よりかなり少なく、固定資本減耗(GDP比)は日本の20.8%と米国の12.2%およびフランス12.9%より大きい。純固定資本形成が少ないというのは、国内の新規の設備投資が少ないということであり、経済成長が抑制される。また、固定資本減耗が大きいというのは、古い設備を減価償却しながら使っているということである。日本の固定資本減耗が突出して大きいのは、長年のデフレによるところが大きいと思われる。1997年と2007年のGDPを比較すると、日本では10年間にわたるGDPの成長率が0%であるのに対して、米国は約70%、フランスは約50%の成長をしている。米国やフランスでは、過去の減価償却のGDP比が小さくなるのに対して、日本では過去の減価償却が小さくならない。減価償却が大きいため、新規の設備投資が妨げられている。

 日本の企業の純貯蓄(GDP比)は7.9%と米国の1.9%およびフランス1.5%と比べると際立っている。一方、日本の家計の純貯蓄(GDP比)は1.5%とフランスの7.5%と比べると小さい。1990年代以降、家計の貯蓄が減る中で企業は貯蓄を増やしている。

 日本企業の純固定資本形成(純投資)は純貯蓄を下回る貯蓄超過の状態にある。日本企業の貯蓄超過(純貯蓄-純投資、GDP比)が5.4%であるのに対して、米国(企業部門)は-0.6%、フランス(企業部門)は-1.4%である。企業の貯蓄超過は、金融機関の貸出減少につながり、貸出減少分が国債の購入に使われている。

 日本の家計の純投資(GDP比)は-0.3%とマイナスであるのに対して、米国は3.3%、フランスは4.2%である。家計に配分される所得が減少して、住宅購入などの純投資が減少している。家計の貯蓄の減少あるいは純投資の減少は日本の高齢化によるという説もあるが、筆者は企業および家計に対する配分のアンバランスに起因すると考える。家計部門を豊かにしないで、内需の成長は望めないだろう。

国民所得

労働分配率は雇用者報酬の国民所得(要素費用表示)に対する比率で表され、国民負担率は(社会保障負担+租税負担)の国民所得(要素費用表示)に対する比率で表される。日本の労働分配率は、米国やフランスと比べても高いという。今回は、OECDのデータ(OECD.Stat)より国民所得およびその分配を時系列で比較分析する。

国民所得(NNI)は、国民総所得(GNI)から算出される。

NNI(市場価格表示)=GNI-固定資本減耗
NNI(要素費用表示)=NNI(市場価格表示)-(間接税-補助金)
GNI=GDP+海外からの純受取所得

ここで、“海外からの純受取所得”は概ね所得収支に対応する。OECDのデータ(2007年、日本)によると、海外からの純受取所得は約2%(GDP比)、固定資本減耗は約21%、間接税は約8%、補助金は約2%である。内閣府の国民経済計算によるデータと若干違うが、2007年の日本の国民所得(要素費用表示)はGDPの約75%であり、386兆円である。

国民所得(2007年、現地通貨)
日本..........................386兆円 (GDP比75%)
米国......................... 12396 Billion US$ (GDP比81%)
フランス................... 1677 Billionユーロ (GDP比77%)

日米仏における1985年から2008年にかけての国民所得を、2000年基準=0として時系列で評価する。

国民所得(1985 / 1990 / 2000 / 2005 / 2008年)
日 -31.4 / -8.8 / -1.3 / 0.0 / -1.3 / -1.9
米 -58.8 / -43.7 / -27.5 / 0.0 / 25.7 / 40.7
仏 -49.4 / -28.9 / -18.7 / 0.0 / 17.3 / 31.9

日本では、1990年代初頭のバブル崩壊以降、国民所得の伸び率は抑えられ、2000年以降になると国民所得はマイナスの伸び率になっている。

国民所得の低迷は、GDPの低迷によるところが大きいが、固定資本減耗比率の大きさにも注目する必要がある。固定資本減耗の増加は国民所得の減少につながる。

固定資本減耗(国全体;GDP比)
日 14.8 / 16.1 / 18.5 / 19.7 / 20.8 / 21.4
米 11.3 / 11.2 / 11.1 / 11.4 / 11.8 / 12.5
仏 12.2 / 11.9 / 11.9 / 11.8 / 12.5 / 12.6

日本の場合、固定資本減耗が突出して大きい。しかも、年々その規模を増やしている。国民所得(要素費用表示)は、GDPから固定資本減耗および間接税を引いた残差であり、国民(政府および家計)の最終消費支出あるいは貯蓄として消費される。固定資本減耗が増えることによって国民所得は減っていく。

SNAでは、企業部門は消費支出を持たない。企業による付加価値は雇用者報酬や役員報酬として家計に還元され、あるいは租税として政府に還元される。残りの営業純益から配当が払われ、あるいは貯蓄としてストックされる。設備投資は企業のストックあるいは借入から充当され、毎年の減価償却で払い戻される。企業の減価償却(固定資本減耗)は、過去の設備投資に対する自分自身への分配金ともいえる。企業の減価償却は営業純益とともにキャッシュフローを増やす。

企業のキャッシュフロー=減価償却費+営業純益

前回のコメントで、デフレ(注1)が固定資本減耗の増加につながることを述べた。デフレ経済下では、過去の投資に対する減価償却費は、現在の名目GDPに対してその比率が大きくなるからである。1997年と2007年のGDPを日米仏で比較すると、日本では10年間にわたるGDPの成長率が0%であるのに対して、米国は約70%、フランスは約50%の成長をしている。米国やフランスでは過去の投資に対する減価償却費のGDP比率が毎年小さくなるのに対して、日本の固定資本減耗は大きくなる。

一方、固定資本減耗比率の増加はデフレにつながる。GDPの中から減価償却が差引かれて、国民所得が減少すると、国内に流通するお金の量が減少する。その結果、デフレを誘引する。すなわち、固定資本減耗比率の増加とデフレは自己実現的に働く。

日本の固定資本形成(投資)は米国およびフランスと比べると、高い水準を維持しているものの、減少傾向にある。一方、固定資本減耗は増加しているため、純投資(固定資本形成-固定資本減耗)は減少を早めている。1990年にGDP比で16%あった純投資は、2008年には1.9%まで減少している。純投資の減少は、国内の新規事業への投資が減っていることを意味する。純投資の減少はデフレを招き、デフレは純投資の減少を招いている。

固定資本形成(国全体;GDP比)
日 27.7 / 32.1 / 27.9 / 25.2 / 23.3 / 23.3
米 19.7 / 17.4 / 17.7 / 20.0 / 19.5 / 17.7
仏 18.5 / 20.6 / 17.5 / 18.9 / 19.3 / 20.4

純投資(国全体;GDP比)
日 12.9 / 16.0 / 9.4 / 5.5 / 2.5 / 1.9
米 8.4 / 6.2 / 6.6 / 8.6 / 7.7 / 5.2
仏 6.3 / 8.7 / 5.6 / 7.1 / 6.8 / 7.8

ISバランス(粗貯蓄-投資)は、投資と貯蓄のバランスである。各制度部門(家計、企業、政府の合算)ごとのISバランスが国全体のISバランス(超過貯蓄)である。

ISバランスの式: 超過貯蓄(国全体)=経常収支

日本の経常収支は黒字であるから、国全体のISバランスはプラスである。外貨準備高増減を資本収支の一部とみなすと、経常収支と資本収支の合計はゼロになる。経常収支の黒字は対外投資による資本収支の赤字によって、対外純資産を増加させている。

貯蓄超過(国全体;GDP比)
日 4.0 / 1.3 / 1.6 / 2.3 / 3.5 / 1.7
米 -3.1 / -2.5 / -1.7 / -2.2 / -4.7 / -5.0
仏 -1.6 / -0.5 / 1.1 / 2.4 / -0.4 / -0.3

ISバランスの式において、超過貯蓄を民間部門(家計と企業)と政府部門に分解すると、民間部門のISバランス(超過貯蓄)が得られる。次式で財政赤字は政府部門の負のISバランスである。

貯蓄超過(民間部門)=財政赤字+経常収支

財政赤字(国全体;GDP比)
日 1.4 / 2.0 / 4.7 / 7.6 / 6.7 / 2.1
米 5.1 / 4.3 / 3.3 / -1.5 / 3.3 / 6.3
仏 3.0 / 2.4 / 5.5 / 1.5 / 3.0 / 3.3
出所:Economic Outlook No.88

2000年以降、日本の財政赤字は増大し2006~2008年にかけて縮小するがリーマンショック以降の2009年より財政赤字はGDP比で8%台で推移している。ISバランスの式からわかるように、財政赤字は民間部門(家計+企業)の貯蓄超過を促す。バブル崩壊以降、日本では家計が貯蓄を減らす一方、企業が貯蓄を増やしている。財政赤字で政府の借金が企業の貯蓄を増やすと同時に、家計の貯蓄減少が企業の貯蓄を増やしている。

粗貯蓄(企業;GDP比)
日 12.6 / 12.7 / 13.8 / 17.6 / 21.5 / 19.7
米 9.8 / 8.6 / 9.9 / 8.8 / 10.8 / 8.4
仏 6.6 / 9.7 / 9.0 / 10.0 / 9.4 / 9.2

粗貯蓄(家計;GDP比)
日 15.0 / 12.9 / 13.0 / 10.0 / 6.8 / 5.7
米 9.4 / 8.1 / 7.2 / 5.2 / 4.5 / 6.7
仏 9.4 / 8.2 / 10.5 / 9.2 / 9.6 / 10.2

粗貯蓄(政府;GDP比)
日 4.1 / 7.8 / 2.7 / -0.2 / -1.4 / -0.4
米 -2.7 / -1.7 / -1.2 / 3.7 / -0.7 / -3.3
仏 0.9 / 2.2 / -0.9 / 2.1 / 0.3 / 0.6

国民所得は政府、企業、家計に分配される。各制度部門毎の粗貯蓄を比較すると、日本では企業部門に対して所得が過剰に配分されていることが分かる。各制度部門に配分された調整可処分所得(租税や社会保障によって再配分された後の所得)の比較からも、企業部門への過剰配分が明らかである。

調整可処分所得(企業;GDP比)
日 13.3 / 13.5 / 14.5 / 18.2 / 21.4 / 19.8
米 NA / NA / NA / 8.8 / 10.8 / 8.3
仏 6.6 / 9.7 / 9.0 / 10.0 / 9.4 / 9.2

日本では企業部門への所得の配分が元々大きい。バブル崩壊以降その配分をさらに増加させている。特に、2000年代の竹中構造改革による供給サイド重視の経済改革以降、企業部門への配分が加速している。米仏と比べて実に2倍以上の配分である。

企業の営業純益は純貯蓄とほぼ同じであり、固定資本減耗は減価償却と同じであるか。従って、企業のキャッシュフローは粗貯蓄とほぼ等しい。上記の表より、企業の調整可処分所得と粗貯蓄はほぼ等しく、これらは企業のキャッシュフローとほぼ同じになる。

企業はキャッシュフローを一貫して増やし続け、GDPのほぼ20%を占めるまでになっている。企業は、キャッシュフローを設備投資や配当以外に借入金の返済、自己資本の強化、あるいは金融資産の増加に使っている。借入金の返済や金融資産の増加に使われる場合、キャッシュフローはストックの勘定に吸収されてしまう。その結果、国内に流通するお金の量が減少し、デフレになる。

企業の役割は、経済の成長エンジンである。家計は企業に資金を提供し、企業は新たな付加価値の生産装置となって、その成果を家計に配分するというのが健全な経済の在り方である。しかし、日本では企業がお金をストックに回し、経済の成長を抑制している。

デフレは、必ずしも悪ではないという論者もいる。給料が減っても物価が安くなれば、暮らし向きは悪くならないではないかという論である。消費者物価指数より、物価と国民所得の変化の大きさを比べてみよう。OECDのデータより消費者物価指数を5年間毎に平均し、1985年から2008年にかけての5年毎の物価を2000年基準=0として評価した。

物価(2000年基準=0)
日 -13.3 / -8.0 / -1.5 / 0.0 / -2.5 / -0.9
米 -37.8 / -24.4 / -11.5 / 0.0 / 13.4 / 25.1
仏 -27.4 / -15.7 / -5.8 / 0.0 / 9.9 / 16.6

冒頭の国民所得の変化と比べると、国民所得の増減にともなって確かに物価も増減している。しかし、変化の幅を比べると国民所得は物価の約2倍の幅で変化している。2000年基準で2008年の日本の物価は0.9%の下落しているのに対して、国民所得は1.9%下落している。この期間、日本では暮らし向きが悪くなっている。一方、フランスでは2008年の物価は16.6%上昇しているが、国民所得は31.9%上昇している。従って、フランスでは暮らし向きが大幅によくなっていることになる。

論点をまとめると、以下の点で日本の経済は米国あるいはフランスの経済と違っている。
 バブルの崩壊以降、国民所得は伸び悩み、2000年代になると国民所得はマイナス成長になっている。
 固定資本減耗が突出して大きい。
 政府の借金が増え、家計の貯蓄が減る中で企業は貯蓄を増やしている。
 キャッシュフローがストックに吸収されるため、デフレを誘引している。
 デフレで暮らし向きは悪くなっている。

日本の経済は、フローを犠牲にしてストックを増やしている。また、家計を犠牲にして企業の所得を増やしている。今回の分析より、寸暇を惜しんで働き、倹約をし、貯金にいそしむ日本人の暮らしぶりが浮かび上がってくる。

(注1)デフレの定義については様々ある。ここでは、名目GDPの成長率がほとんどゼロ以下であるというぐらいの意味合いで使っている。

財政の国際比較

OECDのデータ(2007年)より、日、米、仏の財政を国際比較する。

次に、日、米、仏のGDP(現地通貨)および一般政府の収入と支出の総額を示す。データは、OECD.Stat > National Accounts General > Government Accounts > Main aggregates of general government による。

GDP (2007年、現地通貨)
日本...............515.5 兆円
米国...............13995 Billion$
フランス........1887 Billionユーロ

財政の収入 / 支出(2007年、現地通貨)
日本............... 172.8 / 185.1 兆円
米国............... 4760 / 5145 Billion$
フランス........ 940.7 / 992.6 Billionユーロ

OECDのデータによる財政の収入および支出の規模は、財務省が発表する財政の予算規模と違っている。日本の財政規模は一般会計予算で議論されることが多い。塩川前財務大臣による「母屋でおかゆをすすっているときに、離れですき焼きを食べている」という発言が物議をかもしたが、特別会計予算を抜きにして日本の財政を把握することはできない。

一般会計の当初予算(平成23年度)によると、歳入および歳出は92.4兆円であり、歳入うち税収は37.3兆円、公債金44.3兆円である。歳出は国債費21.5兆円、基礎的財政収支対象費70.9兆円であり、そのうち社会保障関係費は27.2兆円である。一般会計の予算の枠組みから、税と社会保障の全体像を把握することはできない。

特別会計は全部で17の会計からなり、それぞれが別個に運営されている。財務省は特別会計ガイドブックを公開しているが、会計間で重複計上があるため、その全体像を把握するのは容易ではない。
http://www.mof.go.jp/budget/topics/special_account/fy2011/index.htm

特別会計当初予算(平成23年度)における歳出総額は384.9兆円であり、一般会計と特別会計の歳出総額を合算すると477.3兆円になる。しかし、一般会計と特別会計は相互の繰入や重複があるため、それぞれの会計を合算するだけではその全体像を把握することはできない。特別会計ガイドブックの中の「国の財政規模の見方について」によると、会計間の重複や繰入を除いた歳入純計予算(平成21年)は220兆円であり、歳出純計予算(平成21年)は207兆円である。歳入の方が歳出より大きいというのも不思議であるが、歳出純計のうち、約3割が国債の償還・利払い等に充てられる国債費である。

OECDのデータによる、2009年の日本の支出は198兆円、収入は157兆円である(財政赤字は41兆円)。財務省のデータは国債費を含み、OECDのデータは国債費を含んでいないという点で異なるが、国債費が約3割を考慮しても財務省とOECDの財政規模に違いがある。

国債費の扱い、財政投融資等に係わる支出、為替特別会計や年金の運用益の扱い等に違いがあるため、財政規模において両者は異なっている。会計ベースに違いはあるものの、OECDのデータは財政の全体像を把握しやすい。また、国際比較するにあたっても有効である。以下、OECDのデータ(2007年)より日、米、仏の財政をGDP比で比較する。

次の表はOECDのデータにおける政府の支出項目および収入項目から、両辺のバランス項目を消去することで支出項目および収入項目を最小化したものである(注1)。最小化された支出項目および収入項目の合算はそれぞれ支出および収入と一致する。

収入(2007年、GDP比)........ (日、米、仏)
生産・輸入課税................. 8.4 / 7.3 / 15.1
利子、受取.................... 2.0 / 1.0 / 0.8
所得・資産課税................. 9.5 / 13.7 / 11.5
社会保障負担.................. 10.9 / 6.9 / 18.0
資本移転、受取................ 1.4 / 0.2 / 0.3
その他経常移転、受取.......... 0.2 / 1.1 / 0.7
GP1XXR (注2)................1.1 / 3.7 / 3.2
その他生産補助金、受取........ 0.0 / 0.0 / 0.2
収入.......................... 33.5 / 34.0 / 49.9

支出(2007年、GDP比)...................(日、米、仏)
中間投入................................. 3.3 / 8.2 / 5.0
雇用者報酬............................... 6.1 / 10.1 / 12.8
物品税、支払............................. 0.0 / 0.0 / 0.4
補助金、支払............................. 0.6 / 0.4 / 1.4
利子、支払............................... 2.5 / 2.9 / 2.7
社会保障給付(除)現物社会移転市場産出...11.5 / 12.2 / 17.7
現物社会移転(市場産出)..................6.4 / 0.0 / 5.6
その他経常移転、支払......................1.4 / 0.3 / 2.8
資本移転、支払............................0.6 / 0.2 / 0.8
粗資本形成及び土地等の純購入..............3.5 / 2.5 / 3.4
支出......................................35.9 / 36.8 / 52.6

収入と支出は純貸出(+)/純借入(-)でバランスされる。純貸出(+)/純借入(-)は財政収支に相当する。

支出................................ 35.9 / 36.8 / 52.6
収入................................. 33.5 / 34.0 / 49.8
純貸出(+)/純借入(-)................-2.4 / -2.8 / -2.8

社会保障給付は、「現物社会移転(市場産出)」と「現物社会移転(市場産出)を除く社会保障給付」の合算である。「現物社会移転(市場産出)」は社会保障基金による医療保険給付分であり、高額医療・出産給付金、医療保険給付、高齢者医療、介護保険給付等から成る。また「現物社会移転(市場産出)を除く社会保障給付」は、年金基金による社会給付、退職年金、社会扶助給付等から成る。

社会保障給付............................18.0 / 12.2 / 23.2
現物社会移転(市場産出).................6.4 / 0.0 / 5.6
社会保障給付(除)現物社会移転市場産出..11.5 / 12.2 / 17.7

「現物社会移転」は「現物社会移転(市場産出)」と「現物社会移転(非市場産出)」から成る。「現物社会移転(非市場産出)」は非市場生産者から提供される教育や保健などのサービスである。「現物社会移転」は家計に対して支給する政府の個別消費支出である。政府の最終消費支出は個別消費支出と集合消費支出の合算である。集合消費支出は外交、防衛、警察等、社会全体に対するサービスの支出である。政府の個別消費支出は家計の現実最終消費に含まれる支出であり、政府の現実最終消費は集合消費支出と等価である。政府の純可処分所得は、最終消費支出と純貯蓄の合算である。

純可処分所得.............................15.0 / 14.2 / 21.6
現物社会移転(市場産出)..................6.4 / 0.0 / 5.6
現物社会移転(非市場産出)................3.6 / 6.4 / 9.4
集合消費支出..............................7.8 / 9.6 / 8.1
純貯蓄...................................-2.9 / -1.7 / -1.4

政府は政府サービスの産出者として位置づけられる。「産出」は政府サービスの産出額である。政府サービスの産出額は市場価格で評価できないため、その経費を積み上げた額をもって「産出」とする。「産出」は中間投入および粗付加価値の合算である。政府が購入する財貨・サービスは政府の産出のための中間投入として計上される。

産出.....................................12.5 / 19.6 / 20.7
中間投入..................................3.3 / 8.2 / 5.0
粗付加価値................................9.3 / 11.4 / 15.6

政府部門の資本調達勘定において、純貸出(+)/純借入(-)はマイナスであり、財政赤字に相当する。2007年の日本の財政赤字は12.3兆円(GDP比2.4%)である。リーマンショック以降、財政情況は悪化し2009年の日本の財政赤字は41兆円に達する。

粗資本形成及び土地等の純購入..............3.5 / 2.5 / 3.4
資本移転、支払............................0.6 / 0.2 / 0.8
純貸出(+)/純借入(-)....................-2.4 / -2.8 / -2.8
純貯蓄...................................-2.9 / -1.7 / -1.4
固定資本減耗..............................3.2 / 1.5 / 2.5
資本移転、受取............................1.4 / 0.2 / 0.3

以下に日、米、仏の財政を比較する。米ドルは機軸通貨であるという点で、米国経済は特殊であり、主に日本とフランスの財政を比較をする。

 生産・輸入課税は43.4兆円であり、GDP比で比較するとフランス15.1%、日本8.4%である。また、所得・資産課税は49.1兆円であり、GDP比で比較するとフランスは11.5%、日本は9.5%である。生産・輸入課税および所得・資産課税においてフランスの租税負担は大きく、特に生産・輸入課税が大きい。日本の財政は悪化し、増税を避けることができないところまで追い詰められてしまった。消費税は景気の好不況に左右されにくい、税収に占める割合が大きいという点で、消費税の増税はやむを得ないであろう。

 社会保障負担は56.1兆円であり、GDP比で比較するとフランス18%、日本10.9%である。社会保障負担は、企業負担部分と雇用者負担部分があるが、日本では企業への国民所得の配分が過分である(前回コメント)ことを考えると、企業の負担を増やすべきである。

 公務員の雇用者報酬は日:米:仏=1:1.7:2.1である。一方、国民1000人あたりの公務員の数を比べると日:米:仏=1:1.2:2.3である。公務員の待遇において、日本はフランスより若干良い。政府の産出を比べると日:米:仏=1:1.6:1.7である。公務員の数あたりの産出において、日本はフランスより若干優れているが米国は断然優れている。日本の公務員の数はとりわけ少ない。

 「現物社会移転(市場産出)を除く社会保障給付」は59.3兆円であり、GDP比で比較するとフランス17.7%、米国12.2%、日本11.5%である。日本の給付(老齢年金、退職金、社会扶助、失業保険給付金等)水準は少ないものの、高齢化にともなって給付額が増加している。一方、社会保障負担の伸びは頭打ちである。税と社会保障の一体改革が叫ばれる所以であろう。消費税の増税に加えて、家計に社会保障負担の増額を求めるのは難しいだろう。内部留保を増やしている企業部門(前回コメント)に負担の増額を求めるべきである。

 「現物社会移転(市場産出)」は33.2兆円であり、GDP比で比較するとフランス5.6%、日本6.4%である。「現物社会移転(市場産出)」は社会保障基金による医療保険給付分であり、高額医療・出産給付金、医療保険給付、高齢者医療、介護保険給付等から成る。国民経済計算の付表9.一般政府から家計への移転の明細表(社会保障関係、2009年)によると、「その他の現物社会保障」は34.1兆円であり、健康保険等が15兆円、後期高齢者医療が11兆円、介護保険が7兆円がその大半を占める。今後、さらに高齢化が進むことを考えると、高齢者医療の見直しは必要だろう。混合診療の導入、開業医の診療報酬削減、勤務医の報酬アップ、医療と介護の役割の見直しなどを進めていくべきである。

 「現物社会移転(非市場産出)」は18.6兆円であり、GDP比で比較するとフランス9.4%、米国6.4%、日本3.6%である。「現物社会移転(非市場産出)」は非市場生産者から提供される教育や保健衛生などのサービスである。ほとんどが教育関連(保育園から大学までの)であり、教科書購入費、教員の人件費、関連施設の維持管理に使われる。日本の「現物社会移転(非市場産出)」は少なく、教育、文化の支出割合が多いフランスと対称的である。日本が観光立国を目指すならば、教育、文化の支出割合を増やすべきだろう。

 政府による「産出」は64.6兆円であり、GDP比で比較するとフランス20.7%、米国19.6%、日本12.5%である。日本の場合、政府による「産出」の割合が小さい。小さな政府が良いというのが一般的な認識である。しかし、企業が経済成長のエンジンであるという役割を果たせないならば(前回コメント)、政府に役割の拡大を求めていかなければならない。

 政府による「粗資本形成及び土地等の純購入」は18兆円であり、フランス3.5%、米国2.5%、日本3.4%である。しかし、政府部門の「固定資本減耗」は、フランス2.5%、米国1.5%、であるのに対して日本は3.5%である。日本の場合、「固定資本減耗」が「粗資本形成及び土地等の純購入」より大きいという点で問題がある。


(注1)支出および収入のバランス項目
支出.....................収入
中間投入.................産出
純付加価値..............(GP1XXR)
固定資本減耗............(非市場産出GP132R)
(・)は内訳

支出.......................収入
非市場産出GP132R..........集合消費支出
...........................現物社会移転非市場産出

支出........................収入
補助金、支払................生産、輸入課税
利子、支払..................利子、受取
雇用者報酬..................その他生産補助金、受取
物品税支払..................純付加価値
一次バランス

支出...............................収入
社会保障給付
(除現物社会移転市場産出)
.............................一次バランス
.............................所得・資産課税
その他経常移転、支払........社会保障負担
純可処分所得................その他経常移転、受取

支出.........................収入
純貯蓄.......................純可処分所得
個別消費支出
(現物社会移転市場産出)
(現物社会移転非市場産出)
集合消費支出

支出..........................収入
粗資本形成、土地等の純購入....純貯蓄
資本移転、支払................資本移転、受取
純貸出(+)/純借入(-).........固定資本減耗


(注2)GP1XXR; OECD統計データの項目標識でMaket output, output for own final use and payments for non market outputを表す(適当な訳語がないので標識で表示)。GP1XXRについて次式が成立する。
産出=GP1XXR+社会移転(非市場産出)+集合消費支出

誤り訂正
前回コメントにいて次誤りがあるので訂正します。

“日本の固定資本減耗は3.5%であり、「固定資本減耗」が「粗資本形成及び土地等の純購入」より大きい”は誤りです。次のように訂正します。

日本の「固定資本減耗」は16.4兆円(3.2%)であり、「粗固定資本形成」は16.0兆円(3.1%)である。日本の場合、「固定資本減耗」が「粗固定資本形成」より大きいという点で問題である。

GDP統計

OECDのデータより、日、米、仏のGDP統計を時系列で国際比較する。データは、OECD.Stat > National Accounts > Disposable income and net lending-net borrowingによる。

各国ごとに下記①~⑩の項目について、データを時系列(1985年~2009年)で表示する。①の名目GDPおよび②のNNI(市場価格表示)は現地通貨で表示するが、③~⑩の各項目についてはGDP比で表示する。

①名目GDP、②NNI(市場価格表示)、③海外からの純受取所得、④GNI(市場価格表示)、⑤海外からの純経常移転、 ⑥粗国民可処分所得、⑦最終消費支出、 ⑧粗総資本形成、⑨経常収支、⑩固定資本減耗

これらのデータ項目に関して、次の関係式が成り立つ。
GNI(市場価格表示)=名目GDP+海外からの純受取所得
GNI(市場価格表示)=NNI(市場価格表示)+固定資本減耗
粗国民可処分所得=GNI(市場価格表示)+海外からの純経常移転
粗国民可処分所得=最終消費支出+粗総資本形成+経常収支

経常収支に関して、次式が成り立つ。
経常収支=貿易サービス収支+所得収支+海外からの純経常移転

海外からの純受取所得は概ね所得収支と同じとすると、上記の関係式から次式が導かれる。
名目GDP=最終消費支出+粗総資本形成+貿易サービス収支

日本・・・・・・・・・1985 / 1990 / 1995 / 2000 / 2005 / 2008 / 2009
①・・・・・・325.4 / 442.8 / 495.2 / 503.0 / 501.7 / 504.4 / 470.9
②・・・・・・277.1 / 371.0 / 403.0 / 407.8 / 407.3 / 405.6 / 371.4
③・・・・・・・0.4 / 0.6 / 0.8 / 1.3 / 2.4 / 3.3 / 2.7
④・・・・・・100.4 / 100.6 / 100.8 / 101.3 / 102.4 / 103.3 / 102.8
⑤・・・・・・・-0.1 / -0.1 / -0.1 / -0.2 / -0.1 / -0.2 / -0.2
⑥・・・・・・100.3 / 100.5 / 100.7 / 101.1 / 102.3 / 103.1 / 102.5
⑦・・・・・・・68.3 / 66.3 / 70.3 / 73.1 / 75.0 / 76.3 / 79.5
⑧・・・・・・・28.4 / 32.7 / 28.3 / 25.4 / 23.6 / 23.6 / 20.2
⑨・・・・・・・3.7 / 1.4 / 2.1 / 2.4 / 3.5 / 3.1 / 2.7
⑩・・・・・・・14.8 / 16.1 / 18.5 / 19.7 / 20.8 / 21.4 / 22.1

米国・・・1985 / 1990 / 1995 / 2000 / 2005 / 2008 / 2009
①・・・・・4185 / 5755 / 7359 / 9899 / 12564 / 14219 / 13864
②・・・・・3696 / 5060 / 6522 / 8939 / 11274 / 12609 / 12148
③・・・・・・0.6 / 0.6 / 0.4 / 0.4 / 0.8 / 1.2 / 1.1
④・・・・・・99.6 / 99.1 / 99.7 / 101.7 / 101.5 / 101.2 / 100.5
⑤・・・・・・-0.6 / -0.6 / -0.6 / -0.7 / -0.9 / -1.0 / -1.0
⑥・・・・・・99.0 / 98.6 / 99.1 / 101.1 / 100.6 / 100.2 / 99.5
⑦・・・・・・82.5 / 83.7 / 83.1 / 83.3 / 85.8 / 87.5 / 88.7
⑧・・・・・・20.3 / 17.7 / 18.1 / 20.6 / 19.9 / 17.5 / 14.1
⑨・・・・・・-3.8 / -2.9 / -2.1 / -2.8 / -5.0 / -4.7 / -3.3
⑩・・・・・・11.3 / 11.2 / 11.1 / 11.4 / 11.8 / 12.5 / 13.0

フランス・1985 / 1990 / 1995 / 2000 / 2005 / 2008 / 2009
①・・・・・745 / 1033 / 1196 / 1440 / 1718 / 1933 / 1889
②・・・・・652 / 910 / 1054 / 1294 / 1527 / 1708 / 1657
③・・・・-0.2 / 0.0 / 0.0 / 1.7 / 1.4 / 1.8 / 1.6
④・・・・・99.8 / 100.0 / 100.0 / 101.7 / 101.4 / 101.8 / 101.6
⑤・・・・-1.0 / -0.7 / -0.8 / -1.2 / -1.6 / -1.6 / -1.8
⑥・・・・・98.8 / 99.3 / 99.2 / 100.5 / 99.8 / 100.2 / 99.7
⑦・・・・・81.9 / 79.2 / 80.6 / 79.1 / 80.7 / 80.2 / 82.7
⑧・・・・・18.5 / 21.7 / 17.9 / 19.9 / 20.0 / 21.9 / 19.1
⑨・・・・・-1.6 / -1.8 / 0.7 / 1.6 / -0.8 / -1.9 / -2.1
⑩・・・・・12.2 / 11.9 / 11.9 / 11.8 / 12.5 / 13.4 / 13.9

上記、GDP統計に関するデータより、日、米、仏の経済を比較する。

 1990年 / 2000年 / 2008年の名目GDP(2000年基準=100)を日米仏で比較すると、日本;88 / 100 / 100、米国;58 / 100 / 144、フランス; 72 / 100 / 134である。日本はバブル崩壊以降20年以上にわたって経済の低迷が続き、未だに低迷から脱出できていない。

 NNIは国民所得(市場価格表示)である。1990年 / 2000年 / 2008年のNNI(2000年基準=100)を日米仏で比較すると、日本;91 / 100 / 99、米国;57 / 100 / 159、フランス; 70 / 100 / 132である。日本は名目GDPが伸びない中で、固定資本減耗が増え続け、所得収支が増加しているにもかかわらず、国民所得が減っている。

 日本は経常収支の黒字を続けている。貿易サービス収支の黒字幅は減少しているが、2000年代半ば以降、所得収支の黒字幅が増加している。

 米仏の最終消費支出(GDP比)は、80年代より今日に至るまで80%以上をコンスタントにキープしている。一方、日本の最終消費支出(GDP比)は、1985年の68.3%から2009年の79.5%まで徐々に増えている。日本の最終消費支出の割合は小さかったのは、粗総資本形成および貿易サービス収支の割合が多かったからである。米仏は貿易サービス収支がマイナスであるのに対して、日本はプラスである。

 日本の粗総資本形成(GDP比)は高水準を維持してきたが、徐々に減らしている。近年、粗総資本形成は米仏とほぼ同じくらいになった。しかし、固定資本減耗が増え続け、粗総資本形成より大きくなるまで増えてしまった。過去のローンに対する支払が多く、新たな投資にお金を使えないということである。

政府が12月22日に発表した2012年度の政府経済見通しの中で、実質GDPの成長率は2.2%増、名目GDPの成長率は2.0%増とした。また、消費者物価は0.1%程度の上昇とし、12年度中にプラスに転じるとのシナリオを描いた。

一方、政府の国家戦略会議は、円高・デフレを当面の重要課題と認識し「日本銀行と一体となって速やかに安定的な物価上昇を実現することを目指す」とし、2020年度までの経済成長率を名目で平均3%程度、実質で平均2%程度とする努力目標を掲げた。

しかし、2000年代の日本経済を振り返ると、実質GDPは成長しているのに、名目GDPはマイナス成長である。OECDのデータによると2000年~2007年の日本の実質GDP成長率は平均で1.7%である。米国の2.6%、フランスの2.1%より劣るものの、人口が減っていることを加味すると、日本経済は低迷しているわけではないという学者もいる。小黒一正先生はアゴラの記事(注1)で、次のように述べておられる。

>日本経済は低迷していると思い込んでいる者も多いが、生活水準の向上を示す「一人当り実質GDP成長率」の推移を眺めると、日本経済の違った姿がみえてこよう・・・・日本の一人当り実質GDP成長率は、大手金融機関が経営破綻した金融危機の期間(1997年-1999年)を除き、概ねアメリカと同じパフォーマンスを示している。

実質GDP(Real)の意味を明らかにして、実質GDPと名目GDP(Nominal)の違いについて考えよう。通常、実質GDPは“成長率”という文脈で使われる。“実質GDPの成長率”は次式で表される。
実質GDP成長率=名目GDP成長率-物価上昇率

実質GDPは、基準年との相対値で表示される(注2)。実質GDPは、基準年に対して物価上昇がないとした場合、生産数量がどのくらい増えたかを示す値である。

簡単のため単一製品を生産する経済を考える。基準年(例えば2000年)の名目GDPをN、物価をP、生産数量をVとすると、N=PVである。2001年の名目GDPの増分をΔN、物価の増分をΔP、生産数量の増分をΔV、とすると、2001年の名目GDPは次のように書ける。
N+ΔN=(P+ΔP)・(V+ΔV)
ΔN=P・ΔV+V・ΔP

基準年の実質GDPをRとすると、基準年においてN=Rが実質GDPの定義である。実質GDPの定義より、2001年の実質GDPは次のように書ける。
R+ΔR=P・(V+ΔV)

GDPデフレーターは、名目GDPと実質GDPの比として定義される。従って、2001年のGDPデフレーターは次式で表される。
GDPデフレーター=(P+ΔP)・(V+ΔV)/ {P・(V+ΔV)}
=1+(ΔP/P)

(ΔP/P)は物価の上昇率であるから、
GDPデフレーター-1=物価上昇率

である。物価上昇率がプラスなら、GDPデフレーターは1より大きく、物価上昇率がマイナスなら、GDPデフレーターは1より小さくなる。

2001年の名目GDPの式において、両辺をN=PVで割ると、次式が得られる。
(ΔN/N)=(ΔP/P)+(ΔV/V)

一方、2001年の実質GDPの式において、基準年においてはN=Rであるから、両辺をR=PVで割ると、次式が得られる。
(ΔR/R)=(ΔV/V)

従って、
(ΔN/N)=(ΔP/P)+(ΔR/R)

である。この式は、
名目GDP成長率=実質GDP成長率+物価上昇率

を表し、実質GDP成長率と名目GDP成長率の関係式に帰着する。

以上の議論により、基準年に対する実質GDPの意味およびGDPデフレーターの意味が明らかになった。実質GDPは物価が変化しないとした時の基準年に対する相対的な生産数量を表し、供給サイドのデータである。一方、給料、税金、物価など生活者サイドのデータは名目GDPが意味を持つ。小黒先生は、“一人当り実質GDP成長率が生活水準の向上を示す”と仰られているが、実質GDPは生活水準に直接の係わりを持たない。特に、2000年代の実質GDPの成長は、名目GDPの成長を伴わなかったため、生活水準の向上がない経済成長であったといえる。

OECDの統計では、基準年に対する実質GDPは”Gross domestic product, volume, market price”で表される。英語の方が、実質GDPの意味を分かり易く表しているようである。Real GDPという表現もされるが、Real GDPは“実質GDPの成長率”という文脈で使わる。

OECDのデータより、日、米、仏の実質GDP、GDPデフレーター、CPI(消費者物価指数)等を時系列で国際比較する。データは、OECD.Stat > Economic projections > Economic Outlook No.90による。

各国ごとに下記①~⑧の項目について、データを時系列(1985年~2009年)で表示する。①の名目GDP、②の実質GDP、⑦潜在GDPは現地通貨で表示する。③のGDPデフレータおよび④のCPI(消費者物価指数)は基準年に対する相対値で表示する。日本は2000年基準、米仏は2005年基準で表示されている。⑤のCPI(year on year)および⑥の実質GDP成長率は当該年の前年に対する伸び率で表示する。⑧の需給ギャプは(潜在GDP-実質GDP)の潜在GDP対する比率を表す。

①GDP、②実質GDP(注2)、③GDPデフレータ(日本は2000年基準、米仏は2005年基準)、④CPI(日本は2000年基準、米仏は2005年基準)、⑤CPI(year on year)、⑥実質GDP成長率、⑦潜在GDP、⑧需給ギャプ(潜在GDP比)

日本・・・・・1985 / 1990 / 1995 / 2000 / 2005 / 2008 / 2009
①・・・・・325.4 / 442.8 / 495.2 / 503.0 / 501.7 / 504.4 / 470.9
②・・・・・350.6 / 447.4 / 479.7 / 503.0 / 536.8 / 554.1 / 519.8
③・・・・・0.93 / 0.99 / 1.03 / 1.00 / 0.93 / 0.91 / 0.91
④・・・・・0.87 / 0.92 / 0.99 / 1.00 / 0.97 / 0.99 / 0.98
⑤・・・・・2.88 / 2.82 / -0.12 / -0.54 / -0.56 / 1.36 / -1.34
⑥・・・・・6.33 / 5.57 / 1.88 / 2.86 / 1.93 / -1.17 / -6.28
⑦・・・・・352.1 / 430.9 / 482.0 / 509.9 / 537.3 / 550.9
⑧・・・・・-0.41 / 3.83 / -0.48 / -1.32 / -0.09 / 1.11 / -5.74

米国・・・1985 / 1990 / 1995 / 2000 / 2005 / 2008 / 2009
①・・・・4217 / 5800 / 7415 / 9951 / 12623 / 14292 / 13939
②・・・・6849 / 8034 / 9094 / 11226 / 12623 / 13162 / 12703
③・・・・0.62 / 0.72 / 0.82 / 0.88 / 1.00 / 1.09 / 1.10
④・・・・0.55 / 0.67 / 0.78 / 0.88 / 1.00 / 1.10 / 1.10
⑤・・・・・3.52 / 5.42 / 2.81 / 3.37 / 3.37 / 3.82 / -0.33
⑥・・・・・4.14 / 1.88 / 2.51 / 4.14 / 3.07 / -0.34 / -3.49
⑦・・・・6842 / 8002 / 9211 / 10972 / 12345 / 13135 / 13356
⑧・・・・・0.11 / 0.40 / -1.28 / 2.32 / 2.25 / 0.21 / -4.89

フラン・1985 / 1990 / 1995 / 2000 / 2005 / 2008 / 2009
①・・・・・745 / 1033 / 1197 / 1441 / 1716 / 1931 / 1890
②・・・・・1115 / 1306 / 1388 / 1588 / 1716 / 1798 / 1750
③・・・・・0.67 / 0.79 / 0.86 / 0.91 / 1.00 / 1.07 / 1.08
④・・・・・0.66 / 0.77 / 0.86 / 0.91 / 1.00 / 1.06 / 1.06
⑤・・・・・5.83 / 3.35 / 1.83 / 1.69 / 1.74 / 2.83 / 0.05
⑥・・・・・1.70 / 2.59 / 2.17 / 3.87 / 1.87 / -0.20 / -2.63
⑦・・・・・1143 / 1280 / 1396 / 1558 / 1717 / 1805 / 1821
⑧・・・・-2.41 / 2.04 / -0.58 / 1.95 / -0.07 / -0.38 / -3.90

上記、GDP統計に関するデータより、日、米、仏の経済を比較する。

 日本は1990年代の半ば以降、GDPデフレーターが減少を続け、デフレ状態にある。2002年から始まり2007年にいたるまでの戦後最長ともいわれる景気回復期においてもデフレ状態にあった。

 2000年代の日本は、GDPデフレーターが大きく減少している。名目GDPが成長しないで、生産数量だけが伸び、実質GDPが成長したからである。製品単価が下落したためにGDPデフレーターが減少した。名目GDPが成長しなかったということは、賃金が下落したということである。実際、賃金は2000年の232兆円から2007年の224兆円へと約3.5%下落した。この時期は景気の回復期であったが、賃金の上昇は伴わず、「実感の伴わない景気回復」といわれる所以である。

 CPI(消費者物価指数)は2000年の100(基準値)から2007年の98へと約2%下落した。賃金は3.5%下落し消費者物価の下落は2%と、賃金の下落幅の方が大きいから、生活水準は下落したということである。同じ期間、フランスでは賃金は31%上昇し、消費者物価の上昇は13%に留まるから、フランスでは生活水準が大幅に上昇したということである。米国では、さらにその上昇幅は大きい。

 2000年から2007年にかけてのCPIの下落率が2%に対して、GDPデフレーターの下落率は約8%である。CPIとGDPデフレーターで下落率が違うのは、物価指数を構成する品目の違いによる。消費者物価は生活用品あるいは生活関連サービスの価格から割り出されるのに対して、GDPデフレーターは工業製品や輸出製品などを含む物価指数である。例えば、液晶テレビは大幅に値下がりしたが、CPIには反映されずGDPデフレーターには反映される。国内の消費者物価は下落せず、輸出製品の価格が下落したということである。内需が低迷する一方、輸出数量の増加によって経済がかろうじて支えられているということである。

 米仏ではCPIとGDPデフレーターはほぼ一致している。 “産業大国”の日本と、 “生活大国”の欧米の違いであろう。“産業大国”日本では、名目GDP(所得)が低下しても、消費者物価はほとんど下がらず、工業製品の価格が大きく下がる。

 日本は供給サイドの経済から需要サイドの経済に転換しなければならない。供給サイドが強くなれば生活水準は上がると信じられているが、必ずしも正しくない。供給サイドの経済は、生産性を向上させたが、生活水準の向上には繋がらなかった。むしろ、長時間労働、賃金抑制、非正規雇用拡大を助長した。生産性向上の果実は、コストダウンによる製品価格の引き下げであり、過剰生産による値崩れであった。

 生活者の余暇時間を増やし、可処分所得を増やすことにより、消費水準を高め、需要を増やしていかなければならない。また、教育や文化の水準を高めることによって、生活者の感性や創造性を育てていかなければならない。供給サイドから(企業の競争力を高めるための)イノベーションの必要性が説かれるが、逆の発想も必要である。生活を豊かにすることによってイノベーションを生みだす素地を醸成していく必要がある。フランスは福祉大国であるが、文化大国でもある。「現物社会移転(非市場産出)」は政府の教育や文化に対する出費であるが、フランスの出費が9.4&(GDP比)、米国が6.4%であるのに対して、日本の出費はわずか3.6%に留まる(前回コメント)。

 潜在GDPは、現存する資本や労働が最大限に利用される場合に達成できる経済水準である。設備がフル稼動し、雇用が完全雇用の状態での供給力が潜在GDPである。潜在GDPは供給サイドからみた経済成長の長期的なトレンドである。日本は1990年代および2000年代を通して一貫して成長を続け、2000年~2007年にいたる年平均成長率は0.94%であった。同じ期間、米国の成長率は2.3%、フランスの成長率は1.9%であった。

 2000年~2007年にかけて、実質GDPの年平均成長率は日本1.6%、米国2.4%、フランス1.8%である。また、名目GDPの年平均成長率は日本0.35%、米国5.0%、フランス3.9%である。米仏では潜在GDPと実質GDPの成長率がほぼ同じであり、名目GDPの成長率がそれらを上回っている。一方、日本では実質GDPの成長率が潜在GDPの成長率を上回り、潜在GDPの成長率が名目GDPの成長率を上回っている。日本は、需要が供給の成長に追いつかないデフレ経済にあることを示している。

 潜在GDPに対して、需給ギャップは次式で与えられる。
需給ギャップ=(実質GDP-潜在GDP)/ 潜在GDP
日本では、バブル崩壊の1990年代初頭以降、需給ギャップはマイナスであったが2006年~2008年にかけて需給ギャップはプラスに転じた。しかし、リーマンショック後の2009年、需給ギャップは-5.7%に転じた。米仏においても需給ギャップは大きくマイナスに転じ、未だに需給ギャップが改善の見通しは立っていない。日米仏における2009年以降の需給ギャップ(OECD予測)を以下に表示する。

需給ギャップ・・・・2009 / 2010 / 2011 / 2012 / 2013
日本・・・・・・・・・・・・-5.74 / -3.25 / -4.58 / -3.36 / -2.44
米国・・・・・・・・・・・・-4.89 / -3.66 / -3.84 / -3.95 / -3.65
フランス・・・・・・・・-3.90 / -3.63 / -3.42 / -4.54 / -4.70

2000年代、実質GDPの成長に対して名目GDPの成長が伴わなかったもう1つの理由は、日本の交易条件の悪化にある。交易条件は輸出価格指数(輸出価格の基準年に対する相対的上昇)の輸入価格指数(輸入価格の基準年に対する相対的上昇)に対する比率で表される。輸入品(例えば原油)の価格が上昇して輸出品(例えば液晶テレビ)の価格が下落すると、交易条件は悪化する。交易条件は次式で表される。
交易条件=輸出価格指数 / 輸入価格指数
=輸出デフレーター / 輸入デフレーター

交易条件の悪化により、貿易数量は増えたが、貿易による稼ぎが減った。貿易数量の増加は実質GDPを増やしたが、貿易による稼ぎの減少は名目GDPの増加を抑制した。

以下に、日、米、仏の交易条件の時系列を2005年~2010年(2000年基準=100)にわたって表示する。

交易条件・・・・・2000 / 2005 / 2006 / 2007 / 2008 / 2009 / 2010
日本・・・・・・・・・100 / 87.1 / 81.0 / 77.4 / 69.8 / 79.0 / 73.8
米国・・・・・・・・・100 / 97.8 / 97.1 / 97.0 / 91.8 / 97.2 / 95.7
フランス・・・・・100 / 99.8 / 98.2 / 99.5 / 98.8 / 100.6 / 98.4

交易条件の改善(悪化)による貿易の利得(損失)を交易利得(交易損失)という。貿易総額に対する純輸出(輸出-輸入)の割合を貿易ゲインと呼ぶと、名目の貿易ゲインは、貿易数量の増加による実質の貿易ゲインと輸出入価格の変化による貿易ゲインの合算で表される。交易利得は次式で表される(注3)。
(名目純輸出 / 名目輸出総額)=(実質純輸出+交易利得)/ 実質輸出総額
交易利得 / 実質輸出総額=名目貿易ゲイン-実質貿易ゲイン

OECDの統計より、名目輸出、名目輸入、輸出デフレーター、輸入デフレーターを知ることができる。実質輸出および実質輸入は次式で得られる。
実質輸出=名目輸出 / 輸出デフレーター
実質輸入=名目輸入 / 輸入デフレーター

これらの値から交易利得を計算できる。以下に、日本の交易利得の時系列を2005年~2010年にわたって表示する。

交易利得・・・・・2000 / 2005 / 2006 / 2007 / 2008 / 2009 / 2010
日本(兆円)・・0 / -9.1 / -14.7 / -18.8 / -26.7 / -14.1 / -21.2

上記、交易条件および交易利得の時系列から、以下の考察をまとめる。

 交易利得の損失は実質GDPと名目GDPの乖離をもたらした。特に、2000年代後半以降の交易条件の悪化は酷い。

 2008年から2009年にかけて、交易条件は若干回復したが、2010年以降再び悪化している。交易条件の一時的な回復は円高によるものである。円高で、輸入価格(円ベース)が下がり、輸出価格(円ベースで)が下がらなければ、交易条件は改善する。しかし、2010年以降、交易条件が再び悪化しているのは、輸出価格を値下げしているからであろう。円ベースで輸出価格を据え置くと、円高によりドルベースの価格は上がるため、価格競争力がなくなってしまう。円高局面で、価格競争力を維持するためには、値下げか、製造拠点の海外脱出である。

 円高による交易条件の改善は一時的なものであった。為替レートの調整で交易条件を改善することはできない。交易条件が悪化した原因は、日本の技術が(韓国や台湾と競合するようになり)陳腐化したからである。原油の値上がりによる影響は日本と同じであるはずなのに、米仏は交易条件を一定に保っている。

 日本の経済発展は、大企業が先行してそれに中小企業が続く雁行型にも例えられる。経産省あたりが産業振興的な支援をして、大企業を中心とする雁行型の経済発展を遂げてきた。電子産業を例にとると、日本電子産業振興協会(JEIDA)、日本電子機械工業会(EIAJ)、電子情報技術産業協会(JEITA)、SEAJ、・・・等々の業界団体が結成され、業界団体に所属する企業同士が一方で協力しながら、他方で競合するという不思議な世界である。結局、多くの企業が同じような製品を作って値引き合戦を行い、挙句の果て韓国や台湾の企業に技術を取られ、技術の陳腐化を助長してきた。経産省の音頭で業界団体が結成され、業界団体に所属する企業が同じような方向にベクトルを合わせる画一的な業界構造に問題がある。


(注1)小黒一正、“消費増税法案:「景気条項」設定に「GDP成長率」は適切でない”
http://agora-web.jp/archives/1413465.html

(注2)内閣府は2004年より、実質GDPの算出方式を連鎖方式に変更した。連鎖方式は基準年を前年とし、基準年を更新する方式である。OECDの統計では、固定基準年方式で表示している。両方式とも、実態は同じであり、表示方法が違うだけである。日本では、実質GDPと名目GDPの乖離が大きいため、表示方法を変更したのであろう。

(注3)“実質GDI(3)”、統計メーカーのひとりごと
http://taro-sna.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/gdi-d8ac.html

すいやせん
主たる先生はどう思われてるかわからんですが
コメントで長い文章を載せるならブログに記載して
URLを載せていただけるとありがたいです

贅沢を言えばちょっとした抄訳もあるといいですが
さすがにそれは贅沢でしょうね

Dursanさん、

長文のコメントを記載して、すみません。自分でブログを設けて、記載すべきかもしれません。ただ、hamachanブログを通して意見交換をしたいという気持ちもあります。長文の記載を許して頂いているhamachan先生には感謝するばかりです。

わたくしとしては、悪意あるスパム的なコメントでない限り、受け付けております。
正直、hiroさんのは長くて、わたしはなかなかじっくりと読めないのですが、読むのを楽しみにしている方がおられる限り、とやかく申し上げるつもりは特にありません。

先生が了解されておられるのであればこちらはなんとも言えないですね。

しかしながら

コメントですとボールドやイタリック、引用、表、グラフが使えないのですし、
ページネーションがあると整理しやすいので
ブログで整理したものを見たかったなぁと

議論するのでしたらこちらのブログにもトラックバック機能がありますし

デフレによる生活水準の下落

前回コメントの補足である。2000年~2008年における名目GDP、実質GDP、GDPデフレーター、CPI(消費者物価指数)、給与の変化を日米仏で比較することにより、デフレが生活水準の下落に繋がることを確認する。

データは2000年基準=1として指数化し、2008年の指数値で表示する。物価指数は、2008年のGDPデフレーター(指数値)を示す。給与はOECD.Statにおける2008年の”Wages and salaries”(指数値)である。

日本
名目GDP;1.003
実質GDP;1.102
物価指数;0.910
消費者物価指数(CPI):0.991
給与;0.968

米国
名目GDP;1.436
実質GDP;1.172
物価指数;1.226
消費者物価指数(CPI):1.249
給与;1.357

フランス
名目GDP;1.310
実質GDP;1.134
物価指数;1.183
消費者物価指数(CPI):1.166
給与;1.352

日本の2008年における物価指数(2000年基準=1)は0.91とデフレである。この期間、消費者物価指数は0.99とほぼ安定している。名目GDPに成長はなく、実質GDPだけが1.102と成長している。

名目GDPの成長がなくても物価が安定しているからよいではないかというデフレ是認論も多く聞かれる。また小黒一正先生のように「実質GDPが成長しているから日本経済のパフォーマンスは米国と比べても悪くない」と仰る学者もいる(前回コメント)。

米国やフランスではこの期間、名目GDPの成長が30~40%以上あり、実質GDPは13~17%上昇している。消費者物価も17~24%上昇しているが、給与は35%上昇しているのだから、実質GDPの成長は生活水準の向上に繋がっているといってもよいだろう。

しかし、デフレ経済下では実質GDPがプラス成長であっても生活水準は下落する。日本では実質GDPの上昇幅は0.102とプラスであるが、物価指数は0.910とマイナス成長である。名目GDPはほとんどゼロ成長であり、給与は0.968と下落している。

物価指数の下落幅の方が給与の下落幅より大きいから、生活水準の向上に繋がっているのだろうか?日本の場合、物価指数と消費者物価指数に下落幅の違いがあり、消費者物価指数は0.991である。消費者物価指数はほとんど下落しないで、給与が下落しているのだから、日本では生活水準は下落している。デフレ経済下では実質GDPの成長は生活水準の向上を意味しない。

米国やフランスでは、物価指数と消費者物価指数の上昇幅はほぼ一致するが、日本では物価指数が消費者物価指数の下落幅を大きく上回っている。輸出製品や工業製品などの価格は大きく下落しているが、日用品や消費者サービスの価格はほとんど下落していないということである。

デフレは、雇用の悪化を促し、産業の空洞化を招いている。そして、生活水準の下落を招いている。経済の低迷以外のなにものでもない。それにもかかわらず、円高を容認し、デフレを是認する論説が溢れている。

http://www.zakzak.co.jp/zakspa/news/20120831/zsp1208310900000-n1.htm


 「『喜んでー!』『いらっしゃいませこんにちは!』といった丁寧な言葉がサービスだと思ってやってるでしょう?でも、そんな心のこもっていないマニュアル言葉を叫ばれるのはサービスでも何でもない。そんなマニュアル敬語を使われても嬉しくないですし、そこから先のコミュニケーションを遮断していることでもある。従業員のストレスにもなりますしね。海外ではそういった決まり文句はないですし、激安店は店側もそれ相応の対応をしてきます」(鴻上氏)

 「『お客様は神様です』の風潮が広がりすぎて、客が権利を過剰に主張しているんですよ。激安居酒屋にサービスを求めるのはフェアじゃない。だって激安の人件費で雇われてるんだから。きちんとしたサービスにはそれに見合ったお金を払い、安いところにはサービスを期待しない、という風潮をつくるべきです」(新田氏)

 時給800円で他人を“神様扱い”するのは無理があるのだ。

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