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2010年11月26日 (金)

スウェーデンモデルの実相

JILPTにはむかしの労使関係の文書がいろいろあって、眺めているといろいろ発見があります。

たとえば、『造船産業労使会議第2回訪欧賃金調査団報告書』というのがいまから40年近く前の昭和47年8月に出ているのですが、これは造船業界の労使が前年に西ドイツとスウェーデンに行って、現地の賃金決定機構、賃金制度、賃金実態等を詳しく聞き取ってきたものです。全部で500頁を超える分厚い報告書で、西ドイツとスウェーデンがほぼ半分ずつです。

これがとりわけ面白いのは、中央集権的と簡単に言われてきた当時のスウェーデンモデルが、いやいやそんな単純なものではないということをきちんと明らかにしている点です。ナショナルセンター(SAF,LO)、産別(VF,Metall)に加え、3カ所の造船所に行って、実際にどういう仕方で賃金を決めているのかを、まさしく労使という実務者の目で丹念に抉り出しています。

そこで描かれているスウェーデンの賃金システムは、形式的には中央集権的ですが、実態としては企業レベルにおける協約外賃金引き上げ、いわゆるウェイジドリフトが大きく、しかも「いいにつけ悪いにつけ能率給はスウェーデンの賃金制度の要であるが、この制度がいわゆるウェイジドリフトをもたらす最大の原因でもある」と、それが能率給制度を活用する形で行われていることが指摘されています。報告書は「スウェーデンの所得平準化思想のあらわれとして賃金格差の縮小が積極的に進められているにも関わらず、賃金構造面では能率給と時間給の格差、ウェイジドリフトによる企業間格差など構造的格差が形成されつつある」と指摘しており、これは実は、最近になって同志社大学の西村純さんがいくつかの論文で指摘され始めた点なのですね。

私が残念なのは、こういう良質の報告書が作られながら、その後の知的ストックの中にその内容がきちんと組み込まれることなく、報告書が倉庫の奧に積み上げられたままで忘れ去られてきたのではないかという点です。

行って調べることももちろん重要ですが、その結果がきちんと蓄積されることなく、その時々の流行に追われて忘れ去られていくというのは、確かむかし丸山真男が批判してた話に似ていますが、心すべき事ではないかと改めて感じます。

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