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2010年10月21日 (木)

池田信夫氏に全面賛成ならば、派遣業を擁護できない

一知半解で有名な池田信夫氏が、私が先日、本ブログでその誤りを全面的に指摘したことを、まったくそのままJBプレスに書いています。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/4692(労働者の地獄への道は官僚の善意で舗装されている 規制強化で派遣・契約社員は失業へまっしぐら)

>厚労省の研究会の鎌田耕一座長(東洋大教授)は、朝日新聞のインタビューに「OECD(経済協力開発機構)は日本には労働市場の二重性があると指摘している」と答えている。

 これを聞くとOECDは契約社員の規制強化を求めているように見えるが、逆である。

 OECDの対日経済審査報告書では、「雇用の柔軟性を目的として企業が非正規労働者を雇用するインセンティブを削減するため、正社員の雇用保護を縮小せよ」と書いている(強調は引用者)。鎌田氏とは逆に、OECDは正社員の雇用規制を緩和せよと勧告したのである。

これが事実に反することは、本ブログで書いたとおりですが、煩を厭わず、ここに再現しておきます。

===============

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-cdf2.html(池田信夫氏の勇み足)

>一知半解で有名な池田信夫氏が、厚生労働省の有期労働研究会で座長を務めた鎌田耕一先生に絡んでいます。

http://twitter.com/ikedanob/status/27611183137

>有期雇用研究会の鎌田耕一座長は「OECDは日本の労働市場に二重性があると批判している」というが、彼らは「正社員の雇用保護を削減せよ」といってるんだよ。労働法学者って英語も読めないの?

もちろん、本ブログを以前からお読みの皆さんには、英語が読めないのがどちらであるかはとうにおわかりでしょう。

Youth OECDが具体的にどういうことを日本に求めているのか、中島ゆりさんが翻訳し、わたくしが監訳した『日本の若者と雇用 OECD若年者雇用レビュー:日本』から、そのまま引用しましょう。訳書の105ページです。

>このような線に沿った雇用保護規制の改革に先立って外部労働市場の機能を改善するための積極的労働市場プログラムとともに、より寛大な失業給付及びその他の職場ベースの社会保険制度を導入する必要がある。・・・もし、それがなされれば、正規雇用と非正規雇用の保護上の格差を減らすという観点で雇用保護規制が改革されうる。これには正規契約をしている労働者の雇用保護規制の厳格性を緩和する一方で、有期労働者、パートタイム労働者、派遣労働者に対する保護を強化することが含まれるだろう。前者の一つの選択肢は、正規契約をしている労働者の解雇事案の解決のため主に判例法理に依存した現在の手続きよりも、より明確で、より予測可能で、より迅速な手続きを導入することだろう。これらの改革措置は労使団体の参加により確かに計画され実施されることが重要であろう(Rebick, 2005)。

>労働市場の二重構造の拡大に対処するため、賃金と各種給付上の差別待遇に取り組む上で、さらにすべきことがある。たとえば、差別禁止法を施行し賃金その他の手当における差別的慣行を減らしていくことで、非正規労働者を採用するインセンティヴを弱めるだろう

一読すればおわかりのように、OECDの議論はまことにバランスのとれたものです。

確かに、OECDは正規労働者の雇用保護の厳格性を緩和することを求めています。具体的には整理解雇4要件の見直しということになります。これは本ブログの読者はおわかりの通り、わたくしも累次にわたってその必要性を述べてきたことです。

しかし、OECDはどこかの一知半解さんとは違って、それだけで話を終わらせるようなことはしません。「正規雇用と非正規雇用の保護上の格差を減らす」というのは、もちろん「正規契約をしている労働者の雇用保護規制の厳格性を緩和する一方で、有期労働者、パートタイム労働者、派遣労働者に対する保護を強化する」ことであるわけです。

そして、鎌田先生が座長をしていた有期労働研究会は、まさにこのOECDが求めている「有期労働者・・・に対する保護を強化する」政策方向を探ってきたわけですから、そういうことを何も知らずに「労働法学者って英語も読めないの?」などと言い放てる池田信夫氏の神経には驚嘆の念を禁じ得ません。

池田信夫氏は、英語でとは言いませんが、せめて日本語で翻訳の出ている雇用労働関係のOECD文書くらいは目を通してからつぶやいた方がいいと思います。

=============

もちろん、ここに何を書いても池田信夫氏が事実に向き合うとは期待していません。

問題は、このような池田信夫氏の議論に、ただそれが派遣業界の味方をしてくれているからといって、安易に飛びつく傾向です。

http://twitter.com/Hidesuke_Kyoto/status/27971044421(派遣屋 まったり ひですけ)

>【拡散】ここに私達の主張がそのままある。非常に重要。 #hakenhou koyou_News: 労働者の地獄への道は官僚の善意で舗装されている 規制強化で派遣・契約社員は失業へまっしぐら JBpress(日本ビジネスプレス) http://bit.ly/9txoWD

もし、派遣業界の皆さんが、池田信夫氏の議論に対して「ここに私達の主張がそのままある」とまで仰るのであれば、そのような方々を擁護することはもはやできません。

わたしが早稲田大学産業経営研究所のシンポジウムで、冒頭わざわざ奥谷禮子氏のことを持ち出したのは、派遣業界内部の人のことだけではなく、こういう正規も非正規もみんなまとめて労働者の権利を剥ぎ取ればよいというような議論をする人に、(派遣業界の味方をしてくれるからといって)うかつに近づくと、それ相応のしっぺ返しが来るよ、というメッセージを申し上げたつもりでありました。

残念ながら、その意図は十分には伝わっていなかったようです。

もちろん、わたしは真の労働者の権利保護の観点から、あるべき規制はどのようなものであり、あるべきでない規制はどのようなものであるかを淡々と述べているだけですので、それで議論の中身が1ミリも動くものではありませんが、さはさりながら、公然と池田信夫氏を賞賛する業界のために一肌脱ぐ気はなかなか起きにくいであろうとは思われます。

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コメント

先日のシンポお疲れ様でした。
今まで聞いたシンポの中でも一番勉強になった気がします。
今日のエントリーのひですけさんの件ですが、池田氏を賞賛して書かれたのではないと思います。
実際お会いしたことはないですが、web上で何度かやり取りしていますが、製造業の人材ビジネスの管理者として、誰より現場の声を大事にしたいと考えている人間のひとりだと感じています。
とはいえ製造業の人材ビジネス業者は、ご存知の通り、ずっと日陰者でしたので、擁護されると嬉しいことは事実です。
特にこの何年かは「派遣=悪」と蔑まされておりましたので…。
ですが、先生の言われるように、そうした規制緩和論者の影に隠れ、はごまかしに甘えることで派遣業界は成長してきたのだと思っています。
いまだに奥谷さんの名前が出ることもなさけないですが、我々の天の岩戸は破壊されたのですから、しっかりと太陽の下を歩きたいのです。
あくまでもニュートラルに、ごまかしなく対峙することが、一番重要なのだと感じ行動しています。
今後ともご指導宜しくお願い致します。

ひですけさんにとってはいささかショッキングであったかも知れませんが、これはある意味でわたくしにとっては不可欠な自己証明でもあります。
この間、いろいろなところで講演などをする中で、「お前のいうことはおおむね同意するが、派遣のところだけは断固反対だ」という批判を受け続けてきたわたくしとしては、その議論が決して労働者保護否定論ではなく、むしろうかつな事業規制こそが労働者の利益に反し、正しい意味での労働者保護こそが必要であるということを一生懸命説き続けてきているだけに、たまたまある部分の結論がよく似たものになっているからといって、労働者保護否定論者と同類と思われるような危険性は、きちんと振り払っておく必要性が高いのです。
依然として無知蒙昧な週刊誌が、派遣事業規制反対論の代表選手として、労働者保護否定論の池田信夫氏などを重用している悲しむべき現状がある以上、「hamachanのいってることは池田信夫と同じやないか」などという表面的な誤解を振り払うために、いささかショッキングな表現をすることがやむを得なかったことはご理解いただきたいと思います。

濱口先生
はじめまして。ひですけと申します。

この度の件について、私からするとショッキングというよりも彼のア○ラの社長については、正直なところ全くといっていいほど見識がございませんでしたので、何が起こったのか理解不能に陥りました(苦笑)

昨晩、色々と拝見させて頂き、なぜ先生がこのような記事を書かれたのかも理解致しましたので、誤解を与える表現をしてしまったことは私の不徳の至りと思い、これについては、私としては何も申し上げるつもりはございませんし、既にご覧頂けたとは思いますが、ツイッターおよびブログにおいて書かせて頂いた通りでございます。

ご覧の通りの若輩者ゆえ、まだまだ考えが至りませんが、これを機に色々とご指導ご鞭撻を願えればと思う次第でございます。
今後とも宜しくお願い申し上げます。

ひですけさん、ようこそ。
本エントリの趣旨は、上に出井さんへのコントとして書いたとおりです。

付け加えれば、本ブログの過去ログを「池田信夫」で検索すれば一目瞭然の通り、彼のような論者が現代日本の労働論における最大の害悪だと考えていますので、ああいう表現になったということをご理解いただければと思います。

派遣問題に関してわたくしの言いたいことは、先日の早稲田シンポジウムでの発言に尽きております。

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