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2010年10月27日 (水)

「嘱託」の労働者性

さて、「嘱託」って何でしょう?

と聴かれれば、多くの人は非正規労働者の一種で、主として定年退職後の人がなるもの、と答えるのではないでしょうか。

実際、Wikipediaでは、

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%98%B1%E8%A8%97%E7%A4%BE%E5%93%A1

>嘱託社員(しょくたくしゃいん)は、正社員とは異なる契約によって勤務する準社員の一種。

一般的に定年後も引き続いて会社に所属する人のことを指す場合が多いが、契約社員同様、法的に明確な定義はなく、その用法は会社ごとに異なる。

と書かれています。

しかし、考えてみれば「嘱託」って、いかにも労働者じゃないよ、って主張しているような字面です。

実際、「嘱託社員」じゃなく「嘱託」については、「曖昧さ回避のためのページ」に

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%98%B1%E8%A8%97

>嘱託(しょくたく)

嘱託社員、嘱託員などを雇用する嘱託制度。

自殺関与・同意殺人罪などの殺人嘱託。

嘱託回送など郵便物の回送。

登記の嘱託の意味。

裁判などの嘱託人の意味。

と並んでいて、「嘱託社員」以外はすべて委任とか請負とかそういう非雇用型役務提供のたぐいの領域のことばであることが分かります。では、なぜ働く「嘱託」だけ雇用契約に基づくものになったのか?

それは実は、ある最高裁の判例があったのです。

昭和37年5月18日最高裁第二小法廷判決 大平製紙事件(民集16巻5号1108頁)

その判決要旨に曰く、

>会社において塗料製法の指導・研究に従事することを職務内容とするいわゆる嘱託であって、直接上司の指揮命令に服することなく、また遅刻、早退等によって賃金が減額されることのない等一般従業員と異なる待遇を受けているいわゆる嘱託であっても、毎日ほぼ一定の時間会社に勤務し、これに対し所定の賃金が支払われている場合には、労働法の適用を受ける労働者と認めるべきである。

中身は労働者性の典型的な事例ですので特にいうことはないのですが、この「いわゆる嘱託であっても」という一節が大変興味深いですね。

実は、最高裁に対する上告理由が、「上告人と被上告人との間の嘱託契約は、その契約内容から見て委任契約でなければならないところ、原判決がこれを雇用契約であると判断したのは、法律の適用を誤ったものである」というものだったのです。

第一審の判決から会社側の主張を見ますと、

>被告は当初1年の期間を定め硝化棉塗料に関し、その後は当分の間ということで丹頂クロス用の塗料に関しその製法の改良等の研究をすることを原告に委任し、原告は右委任に基づき被告の応じ工場において右委任事務を処理していたものである

と、「嘱託=委任」という、まあ普通の日本語感覚からすると至極当然の考え方に立っていたわけです。

ところが、この頃の最高裁は、労働法は契約の字面ではなく就労実態で判断するという基本原則がよく分かっていたので、「いわゆる嘱託であっても」「労働法の適用を受ける労働者と認めるべきである」と判断しました。これは当然の判断ですが、これは別に「嘱託」という言葉でなくっても、「委任」といおうが、「委託」といおうが、「請負」といおうが、何といおうが同じことであって、実態が労働者なら労働者だよ、という以上のことを言っているわけではありません。「嘱託」という言葉を使ったら労働者になるよ、などということは全然言っていません。

ところが、こうやってたまたま「嘱託」と呼ばれていた非正規労働者が労働者であると確定したことで、なんだか「嘱託」という名前で働いている人は、本来まったく同義語のはずの「委託」とか「請負」とかという名前で働いている人とは違って、そもそも的に労働者であるという風に使われるようになっていったようです。

かくして、本来ほとんど同義語であった言葉の仲間の中から、「嘱託」だけが雇用村に引き取られていったとさ、という話。

ここからどういう教訓を引き出すかは、皆さまそれぞれにお考えください。

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コメント

実に勉強になりました。 ありがとうございました。

『温故知新』という表現が適切なのかはさておき、また、
何事もそうかも知れませんが、特に労働関係、社会保障
関係に関しては、制度の歴史・背景を知っているのか否か
ということは、ものごとを捉える際により広い視点を持つこ
とが出来るかということと相俟って、問題解決のレベルの
高低に影響を及ぼすことがあると考えています。

労働・社会保障はいわゆる日常に密着した分野で、法律も
世の中の動向や必要性に応じて(全てがそうであるとは、言
い切り難いですが…)変化(改正)していくわけです。

そうすると、今、自分の目の前にある問題を解決する場面にお
いて、ただただ現状だけを見ているのではなく、その変化の
歴史を元に考えていくことで糸口が見つかることも少なくあり
ません。
つまり…
現状という平面的な視野の広さだけでなく、歴史と言う時間
的空間的に立体的な視野の広さを加えると言うことです。

(お世辞でも何でもなく)
濱口先生の著書も非常に良い勉強の資料です。

という心掛けで自身の知識・考え方に研きを掛けております。

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