偽装請負解消の代償
もう一つ、今度は『労働経済判例速報』2082号から、深刻な判例。
TOTOほか事件(大津地判平22.6.22)は、構内下請企業の労働者が労災事故で死亡した事件ですが、その経緯は、発注元企業が偽装請負適正化指導を受けたために、本件工場のラインをすべて下請企業の従業員に担当させることにしたところ、その1週間後に事故が起きたという事案です。
裁判所は下請企業だけでなく発注元にも損害賠償責任を認めましたが、この雑誌の「時言」で榎本英紀弁護士が書かれているこの言葉が身に沁みます。
>請負適正化のために発注企業従業員が下請企業従業員に指揮命令しない体制を整えることが、企業の順法対応として重要視された時期が存した。行政の適正化指導が一人歩きしたのか、安全管理のためのミーティングや引き継ぎさえも作業上の指揮命令として排除すべきなのかと、大まじめで筆者に相談に来られた企業の担当者も少なからず存した。・・・これらの多分に理念的な順法対応が、現場の安全管理体制の確保に優先してしまう現象に対し、本件は警鐘を鳴らしている。請負適正化対応がなければ、経験の少ない請負会社従業員を製造ラインに配置することもなく、事故も起こらなかったという考えを一般人がもつことは避けられないであろう。
わたくしが拙著『新しい労働社会』で、「偽装請負は本当にいけないのか?」と問いかけたのは、まさにこういう事態が起きてはならないと思っていたからなのです。
そして今、今度は派遣に対する風当たりの厳しさから業界は請負化、請負化という風潮になっていますが、そこにまたぞろ偽装請負キャンペーンがやってきたらどういうことになるか、問題は何一つとして解決してはいないのです。
労働法とは、何よりも労働者のいのちとくらしを守るための道具でなければなりません。
スコラ的な概念法学の寝台に労働者を無理にくくりつけてはみ出た足を切り落とすための道具であってはならないはずです。
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