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ジョブ型社会のジョブ保護規制-EU企業譲渡指令について

201009serou 『世界の労働』9月号は「企業再編と労働法」という特集で、有田謙司、高橋賢司、細川良の各氏が各国の法制を書かれていますが、わたくしもEU指令について「ジョブ型社会のジョブ保護規制-EU企業譲渡指令について」という文章を書いております。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/jobgata.html

その冒頭のところで、日欧の労働社会の対照性を指摘しておりますので、ご参考までに:

>EU企業譲渡指令(既得権指令)については、今から11年前、本誌1999年11月号に「EU労働政策の最近の動向(下)-企業譲渡における労働者保護指令」を執筆したことがある。ちょうど前年の1998年にかなり大幅な指令改正がされたこともあり、改正指令の条文に沿う形で、累次の欧州司法裁判所の判例を紹介しつつ、改正に至る政治的経緯を解説しようとしたものであった。同改正指令の紹介としては、もっとも初期の論文と思われる。

 ところで、当時日本でも産業活力再生法が成立し、さらに会社分割を促進する商法改正が予定されるという状況下で、労働運動においても「企業組織再編と労働者保護」というテーマが大きく浮かび上がりつつあった。そうした中、連合は2000年1月12日にこの問題に関するシンポジウムを開催し、筆者も参加してEU指令の概要について述べた。ところが、そのシンポジウムのタイトルが「気がついたら別会社に」であった。これは大変皮肉なタイトルである。なぜなら、EU企業譲渡指令とは、「気がついたら別会社に」いけるようにすることを目的とした法制だからだ。
 
(1) 「ジョブ」型社会と「メンバーシップ」型社会
 
 ヨーロッパ型の労働社会では、雇用契約が何よりもまず「ジョブ」に立脚し、企業組織再編によってそれが損なわれる-自分が今まで就いていた「ジョブ」が他社に移転するにも関わらず、その「ジョブ」から引きはがされて元の会社に残されてしまう-ことを最大の不利益とみなし、そのようなことが起こらないよう「ジョブ」と一緒に労働者も移転できるようにすることを最大の労働者保護と考える。
 一方これとは対照的に、大企業に典型的な日本の労働社会では、雇用契約が何よりもまず「メンバーシップ」に立脚し、企業組織再編によってそれが損なわれる-自分がたまたま従事していた「ジョブ」が他社に移転するからといって、今までメンバーとして所属していた「会社」から引きはがされて見知らぬ会社に送り込まれてしまう-ことを最大の不利益とみなし、そのようなことが起こらないように「ジョブ」の移転に関わりなく元の会社にいられるようにすることを最大の労働者保護と考える。
 
(2) 日欧の対照性
 
 EU企業譲渡指令については、加盟各国の法制も含めてかなり多くの研究がなされ、蓄積も多くなっているが、この最も重要な点については、必ずしも明確に書かれていない印象を受ける。そのため、日本における企業組織再編時の労働者保護法制の議論に、やや安易にEU企業譲渡指令を持ち出す傾向があるように感じられる。いうまでもなく、企業組織再編によって労働者が不当に不利益を被らないようにすることは洋の東西を問わず重要である。問題は、労働者にとって何が不利益で、何が利益であるのかについて、日本の労働社会の常識とEU指令の立脚するヨーロッパの労働社会ではまったく対照的であるという認識が乏しいまま議論をすることにある。元の会社への残留請求権を否定した日本IBM事件(東京高判平20.6.26労判963-16)は、この点を浮き彫りにしたのではなかろうか。
 もっとも、メンバーシップ性の希薄な中小零細企業分野や交通運輸業・医療業などジョブ型に近い労働分野においては、まさにEU指令が保護しようとしている営業譲渡を理由にした実質的な解雇の防止が喫緊の課題でもある。こちらではまさに「気がついたら別会社に」いけるようにすることが労働者自身の利益なのだ。

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コメント

なるほど、会社分割の厚労省の指針で、「職務の保護」ということがどういう意味か、理解しかねていたのですが、よく分かりました。

メンバーシップ型労働契約、ジョブ型労働契約という切り口は、わかりやすいですね。

ところで、西欧で、メンバーシップ型というのはあるのでしょうか?うろ覚えですが、フランスでカードルという管理職制のことを聞いたことがあります。一般の行員、従業員とは入り口も違う幹部管理職のことですよね。日本の場合の特徴は、メンバーシップ型が、一般社員も含むことが違いということでしょうか。

投稿: 水口 | 2010年10月12日 (火) 12時10分

水口さま

同じ『世界の労働』9月号で細川良さんが述べているように、フランス法が承継拒否権を認めていないのに対して、ドイツ法は承継拒否権を認めていると言うことは、ドイツの方がフランスよりも(ベースはジョブ型といえども)やや企業メンバーシップに近いものを認めているということなのかもしれません。

法制的にはドイツの公務員のうち雇員(アンゲシュテルテ)傭人(アルバイター)が民法上の雇用契約で基本的にジョブ型であるのに対して、官吏(ベアムテ)は民法上の雇用契約ではなく「身分」ですから、まさにメンバーシップ型なんだと思います。

カードルがどうなのかは、フランス法の専門家に聞きたいところですね。

投稿: hamachan | 2010年10月12日 (火) 13時50分

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