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2010年10月11日 (月)

欧州議会のミニマムインカム決議

最近日本の一部で異様にネオリベ風味のベーシックインカム論が流行していますが、肝心のヨーロッパではもっとまともな議論が主流であるということを、欧州議会が最近採択した決議をさらっと一瞥するとよく分かります。

今年7月16日付で欧州議会が採択した「欧州における貧困との闘いと包摂的社会の促進におけるミニマムインカムに関する決議」がここにありますが、

http://www.europarl.europa.eu/sides/getDoc.do?pubRef=-//EP//TEXT+REPORT+A7-2010-0233+0+DOC+XML+V0//EN&language=EN

>3.      Demands that real progress be made on the adequacy of minimum income schemes, so as to be capable of lifting every child, adult and older person out of poverty and delivering on their right to have a decent living;

すべての子どもと大人と老人が貧困から脱し、まっとうな生活を送れるようにミニマムインカムを求めていますが、いうまでもなくどこぞの国で流行っている捨て扶持ベーカム論などとは違い、

>4.      Stresses the differences in various areas (health, housing, education, income and employment) among the social groups living in poverty, calls on the Commission and the Member States to take those differences into consideration in their targeted measures, and emphasises that one of the most effective ways to reduce poverty is to make the labour market accessible to all;

貧困削減のための最も有効なのはすべての人が労働市場にアクセスできるようにすることだと明言し、

>5.      Highlights the need to attach particular importance to lifelong learning programmes as a basic tool with which to combat poverty and social exclusion, by boosting employability and access to knowledge and the labour market; considers it necessary to provide incentives for increased participation in lifelong learning by workers, unemployed people and all vulnerable social groups, and to take effective action against the factors that lead people to drop out, as well as improving the level of professional qualifications and acquisition of new skills, which may lead to faster reintegration in the labour market, increase productivity and help people to find a better job;

そのために職業技能を身につけるための生涯学習がもっとも大事だと述べ、

>6.      Highlights the need for action at Member States level with a view to establishing a threshold for minimum income, based on relevant indicators, that will guarantee social-economic cohesion, reduce the risk of uneven levels of remuneration for the same activities and lower the risk of having poor populations throughout the European Union, and calls for stronger recommendations from the European Union regarding these types of actions

ミニマムインカムのための要件を確立し、

>7.      Emphasises that employment must be viewed as one of the most effective safeguards against poverty and, consequently, that measures should be adopted to encourage the employment of women and the setting of qualitative objectives for the jobs that are offered;

女性の雇用を促進し、

>8.      Highlights the need for action at both European and national level to protect citizens and consumers against unfair terms relating to the repayment of loans and credit cards, and to lay down conditions governing access to loans aimed at preventing households from falling into excessive debt and hence into poverty and social exclusion;

これまた近頃日本でやたらに一部ネオリベ派からのバッシングが激しい高利のクレサラ対策にもちゃんと言及し、

>10.    Considers that job creation must be a priority for the Commission and the Member State governments, as a first step towards reducing poverty

とにかく、一部の脳細胞の変な人々とは違い、雇用創出が貧困削減へのプライオリティであるとはっきり断言し、

>11.    Considers that minimum income schemes should be embedded in a strategic approach towards social integration, involving both general policies and targeted measures - in terms of housing, health care, education and training, social services - helping people to recover from poverty and themselves to take action towards social inclusion and access to the labour market; believes that the real objective of minimum income schemes is not simply to assist but mainly to accompany the beneficiaries in moving from situations of social exclusion to active life

とにかく、昨今時流に乗ってる捨て扶持ベーカム論とは対照的に、ミニマムインカムが住宅、医療、教育、訓練、社会サービスなどを統合した戦略的アプローチでいくべきだとはっきり明言し、

それが社会的排除からアクティブな生活への移行を支援するべきものだとはっきり明言したうえで、

>15.    Takes the view that adequate minimum income schemes must set minimum incomes at a level equivalent to at least 60% of average income in the Member State concerned;

そのミニマムインカムの水準は平均所得の少なくとも60%に設定せよと主張しています。

>17.    Reiterates that, however important, minimum income schemes need to be accompanied by a coordinated strategy at national and European level focusing on broad actions and specific measures such as active labour market policies for those groups furthest away from the labour market, education and training for the least skilled people, minimum salaries, social housing policies and the provision of affordable, accessible and high-quality public services

さらに念のため、ミニマムインカムは積極的労働市場政策、教育訓練、最低賃金、社会的住宅政策、上質の社会サービスを伴わなければならないと繰り返しています。

こんなことは、まっとうに社会を考える人にとっては当たり前のことではあるのですが、そういう当たり前がまったく通用しない異常なセンスの持ち主による奇矯なベーシックインカム論ばかりが流行るという、この国の異常さを見るにつけ、数ヶ月前のものではありますが、あらためてこの欧州議会の決議を紹介する値打ちがあるように思われました。

(参考)

捨て扶持ベーカム論としては、いままでホリエモンや山崎元氏の発言を引用してくることが多かったのですが、最近、もろに捨て扶持論をむき出しに述べているブログを見つけました。

http://overloadsystem.blog.shinobi.jp/Entry/384/給料ドロボー雇うよりニート養った方が安い論

本人がわざわざゴシックにしているところは、それだけ引用してほしいということだと思われますので、お望みに応じて引用しておきます。

>ようするにベーシックインカムというのは、究極的な社会のリストラクチャリングなのですよ。

>「労働は美徳だが、利益を生まない労働は悪である」

>今働いている人間の大半は給料や報酬分の利益を挙げられていない社会の寄生虫に過ぎない。だったら、無駄な給料や経費に金を使うよりはクビ切ってベーシックインカムで養ったほうが効率が良いという事実

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コメント

社会資本が整っていない、つまり、社会福祉を現物支給でまかなえない国においては、社会資本が整うまでは、ベーシックインカムでつなぐというのは良い考えだと私は思います。

したがって、欧州より日本でこそベーシックインカムが重要なはずなのに、社会福祉を目的としたベーシック(ミニマム)インカム論が提示されたことに驚きます。

たぶん、あちらとこちらでは、「社会福祉」というもののとらえ方がまるで違うのでしょうね。

http://overloadsystem.blog.shinobi.jp/Entry/385/

( ゚Д゚)……
前後も読んでくださいよ、と。

大澤さんの示されているリンク先近辺をざっと読んでみましたが、おっしゃっているのは、「(日本の)職場の非合理的な仕事のあり方にうんざりしている、こういうところで『メンバーシップ』のみに安住して、本来の仕事『ジョブ』をしていないような人たちは、リストラしてもらいたい。職場の水ぶくれを減らしてスリム化するとともに、リストラされた人達はベーシックインカムでしばらく暮らしつつ、まともに生きる道を考えてもらいたい」ということのような気がしますが、私の読み違いですかね。で、そういうことなら、それ、別に、ベーシックインカムではなくて失業保険でいいので、そして、まともな仕事に就くべくまともな職業訓練(労働教育というか、勤労教育まで含めて)をすればいい、ってことではありませんか?

ついでに。
私はベーシックインカムにあまり興味がなくて、論議の内容をほとんど把握していないのですけれど、ヨーロッパのベーシックインカムの実際のところを皆さん、ごぞんじなんでしょうか。
EU諸国の社会保障システムのデータベースで、「MISSOC」というのがあり、その中の「XI: GUARANTEED MINIMUM RESOURCES」がベーシックインカムだと思いますが、これでデンマークだのオランダだの見てみても、受給要件に、職探しや職業訓練がきちんと規定されていますよ。

http://ec.europa.eu/employment_social/missoc/db/public/compareTables.do?lang=en

働かなくても、そして、働く努力をしなくてももらえる、なんて給付はないと思いますけど、まさか、そんなものがヨーロッパにある、という幻想の上に「ベーカム論」を唱えている方々なんているんでしょうかね。働かないで、というか、何もしないでただただ延命だけのお金をもらうだけの生活をしたい人なんてほんとにそんなにいるのかな・・・。
それとも、もしかして、単に私がベ-シックインカム論議を知らなさすぎ?

哲学の味方さんへ:

ベーシックインカムと一口に言っても、色々な考え方があるようです。
またbasic income を 「基本収入」 と言う意味で捉えるのか、「最低限収入」 という意味で捉えるのか・・・ によっても随分変わってくると思われます。

英語はほとんど分からないのですが、こちらのページなどが参考になるかもしれません。

◆Basic Income Earth Network より、「About Basic Income」
http://www.basicincome.org/bien/aboutbasicincome.html

◆U.S.Basic Income Guarantee より、類似の制度が紹介されています。
http://www.usbig.net/whatisbig.html

>働かなくても、そして、働く努力をしなくてももらえる

という意味では、税収方式ではなく、資源由来になりますが、米国アラスカ州の配当 (アラスカ永久基金) や、今年から始まったモンゴルの人間開発基金などがあります。

ただし、これは想像ですが、現地の人達にとっては、これらはベーシックインカムというよりも、アラスカ州の人達にとっては 「州からの配当」 であり、モンゴルの人達にとっては 「祖国の恵み」 という意味で捉えているんじゃないかと思います。

kyunkyunさま

かみあった議論にならないかもしれませんけれど、ヨーロッパで、基本的に日本よりも、居住が保障されていることとか、教育費が国によってはほぼ無償であることとか、それは、ほとんど、ベーシックインカムに近い効果を持っているような感じを受けますね。
日本て、とっても「自己責任」の国で、なんでもかでも自分のお金で賄わないとならないのですが、ヨーロッパは、けっこう、市民に対するユニバーサルな保障の範囲が広いんですよね。

私がベーシックインカムに興味がなかったのは、私自身は「働かずにお金だけもらいたい」とは全然思わないからです。「働かざるもの食うべからず」ではなく、「することがない」ってとてもつらいことで、お金だけもらって仕事がない、なんてむしろ避けたい状態なので。早期退職拒否者や内部告発者などによくある職場のいじめに、最低限の給料は払うけれど、仕事をとりあげてしまう、というのがありますよね。それから、年金をもらっても「定年欝」とか。
でも、ふと思ったのですが、ネオリベ型「捨扶持」論のベーシックインカムではなく、「働かざるもの食うべからず」という日本型「自己責任」論へのアンチテーゼとしてのベーシックインカム論は、日本では、必死に働いて全部自分のお金で賄わなければならず(ヨーロッパでは社会インフラとして整備されているものまで)、しかも、必死で働いても賄えない、そういう状況へのレスポンスとして出てきているのかな、と。

こんにちは。
こちらの記事で紹介されている、「欧州議会が採択したミニマムインカム」 は、就労要件 (働いている、または働く意志がある) が前提となった所得保障の考え方なのでしょうか?
それとも、それを問わない、いわゆる 「無条件のベーシックインカム」 と同じ様な考え方なのでしょうか?

Google機械翻訳で読んでみると、26番と44番に、「無条件」 という言葉があるように思うのですが、機械翻訳なのでよく読み取れませんでした。。 (>_<)

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