債権法改正の影響
現在法制審議会で議論されている債権法改正の労働法制に与える影響については、『季刊労働法』『労働法律旬報』『法律時報』など、さまざまな雑誌が特集を組むなど、結構注目されていますが、そのいずれにおいてもほとんど注目されていないある一点が、最近気になっています。
それは、現在の改正論議のベースになっている『債権法改正の基本方針』における「請負」の扱いです。
既にご承知の通り、基本方針では雇用、請負、委任、寄託といったいわゆる役務提供契約の総則として「役務提供」という規定を新設します。
そして、「請負」について「当事者の一方がある仕事を完成し、その目的物を引き渡す」と、現民法よりもその対象範囲を限定しています。提案要旨には「仕事の目的が無形的な結果である場合については、むしろ第8章『役務提供』によって規律するのが合理的である」とあります。いわゆる「無形請負」はもはや「請負」ではなく「役務提供」となるのです。
このこと自体が直接法的効果をもたらすわけでは必ずしもありませんが、労働者性の問題におけるいわゆる「個人請負」がもはや「請負」ではなく「個人役務提供」であるということは、労働者性の判断に何らかの影響を与えることになるかも知れません。
さらに重要なのは、戦前期に「労務供給請負」といわれていた「労務供給」と「請負」、派遣法成立後は「労働者派遣」と「請負」の区分という形で問題になってきた領域が、少なくとも言葉の上では「請負」の問題ではなくなるということです。
「労務供給」と「役務提供」の区分?それって、同じことではないの?
同じですよね。「労務」も「役務」も英語で言えば「service」。それを相手方に「supply」(供給=提供)するということなのですから、厳密に同義語です。
厳密に同じである概念を、どういう意味があって区分する必要があるの?
といえば、労働者を保護する責任をどれにどのように配分するべきかという実践的問題に過ぎないことが分かります。その実践的問題を、スコラ的な概念法学の世界に放り込んで、ああでもないこうでもないとやってきたことの、そのそもそもの根拠が、民法上存在しなくなってしまうかも知れないのです。
というようなことをつらつらと考えています。
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