住宅補助と積極的労働市場政策だけで自殺は減らせる
「_h_japan」さんが、英語論文の要約をつぶやいておられます。興味深い内容なので、こちらにコピペ。ちなみに、わたくしはこの方をまったく知りませんし、どこでどういう論文を書かれるのかも知りません。ツイッタ上だけの情報です。しかし、それゆえにこそ、大変興味深いのです。
http://twitter.com/_h_japan/status/27947424431
>近々学会で発表する分析結果によれば、日韓のように急速に経済発展した国では、失業率の上昇が自殺率の上昇に結びつく傾向がある。これは、長期経済成長率の自殺率への正の効果が、長期成長率と失業率との正の交互作用によって説明し尽くされたことで、示される。で、来月の論文ではこの続きを書く。
http://twitter.com/_h_japan/status/27948194363
>実は、長期成長率と失業率の交互作用と独立して、社会支出率(対GDP比)は自殺率に負の効果を持っている。社会支出率が1%上がれば、10万人あたり自殺者は0.1人減る推定だ。単純計算すると、日本の社会支出率をスウェーデンレベルまで10%程高めると、日本の自殺者が1300人減る推定。
http://twitter.com/_h_japan/status/27948387378
>で、重要なのはここからだ。社会支出の内訳は、年金・医療・家族・失業・障害・住宅・生活保護など、多岐に渡る。では、どの分野での支出を高めれば、自殺率が減るのだろうか。ヒントはオランダ、英国、デンマークの事例にある。
http://twitter.com/_h_japan/status/27948605784
>それらの事例から仮説を導けば、「住宅補助」(ホームレスにならない安心を提供)と「積極的労働市場政策」(失業から脱せる希望を提供)のための支出が、自殺率を下げる、との仮説が提案できる。
http://twitter.com/_h_japan/status/27948758358
>で、実際に分析してみると、「社会支出」の(自殺率への)負の効果は、「住宅補助」と「積極的労働市場政策」の2つの変数の負の効果によって、完全に有意性を失う。つまり、社会支出の効果は、住宅補助と積極的労働市場政策で、説明し尽されたことになる。先の仮説を支持する結果が得られたわけだ。
http://twitter.com/_h_japan/status/27949650727
>というわけで、「私たちの子孫が、この国で不運によって失業したときに、それが原因で自殺に追い込まれてしまうようなことがないように、この国の制度を改善するためには、とりわけ住宅補助と積極的労働市場政策に税金を使うように方向づけたらよいのではないか」との提案ができるのではないだろうか。
http://twitter.com/_h_japan/status/27950078410
>もちろん、分析・解釈・提言の前提として、「日本の経緯だけでなく、他の先進諸国(OECD諸国)の経緯からも、(各国の歴史的背景の違いを考慮に入れつつ)等しく学ぶならば」という前提があるので、それを明記しておかなければならない。
http://twitter.com/_h_japan/status/27950471561
>以上の文章をもとに、来月中旬〆切の英語論文を書くことにしよう。たった7ツイートで済んだ内容なので、かなり手短に書けそうだ。今週末に3連休ができたので、そこで一気に書くべし。 ただし、先行研究の調査を、もう少し追加でやっておきたいところだ。大変だけど・・。
« 上西充子・川喜多喬編著『就職活動から一人前の組織人まで』 | トップページ | 中国も「希望は戦争」? »
面白いですね。
hamachanは日本とEUをよく比較されますが、私は、その比較の補助線として、韓国の状況ってなかなか興味深いと思っています。非正規労働、学歴社会、少子化、など、日本と似ていて、日本以上の国ですよね。自殺の多いのは似ていますが、自殺率は日本の方が高いようですね。
で、日韓について、自殺も含めて上記の現象は、単に経済状況や政策によるのではないように私は感じています。
もちろん、政策は重要ですが、住宅補助と積極的労働市場政策が充実すれば、自殺が減る、と簡単に行くとはどうも思えない、もっと構造的な(歴史的に長い由来を持つ社会構造、意識構造)の問題があるように私は思っています。
JILは韓国の研究も豊富なので、それも見てみるつもりですが、日本の現象って、ヨーロッパに比べて、日本だけに特殊、というのではないような気がしています。それこそ、マックス・ウェーバーでも、もう一度読まないとならないような・・・。
投稿: 哲学の味方 | 2010年10月21日 (木) 09時40分
「政策」について追加します。
そもそも、オランダ、英国、デンマークは、そういう「政策」を作る過程からして日本と違います。
どういう事態にどういう政策対応をするか、というのは、もちろん、議会制民主主義のもとで、議員が議論し、政策・法を定め、行政府が執行するわけですが、「政策」を決めてゆく、その政治家の出方が日本とそうとう違います。
このブログでは、よく、オランダやデンマークの労組組織率、労組の労働・雇用政策への関与について、hamachanが述べておられますが、労組だけでなく、国民、というか、市民の政党加入率、政治参加の率が日本と全然違います。デンマークは、最近減り気味だけれど、それでも、国民の1割は政党員だとか。
政治家も、日本と違って、土地から切り離されて(つまり、出身地の利益誘導で集票、という構造ではない)、全く政策本位で立候補し、ばりばり政策活動をする、その中で、たとえば、住宅補助が有効とか、ではどのような補助の制度設計が、とか決めていくわけですね。で、トップは非常に精力的に働きますから、今や、ヨーロッパでは、けっこう40代のトップが多いですよね。先日、たしか、オランダに新首相が誕生しましたが、43歳で、イギリスのキャメロンと同世代とか。
http://mainichi.jp/select/world/news/20101020ddm007030136000c.html
どの政策がいい、ということもですが、そういう政策決定過程そのものから、日本(や韓国も?)は見直しがもっと必要、と思っています。
投稿: 哲学の味方 | 2010年10月22日 (金) 07時23分
追伸。日本では、そもそも、国会議員への立候補に600万円もの供託金が必要ですが、デンマークには供託金なんてありません。住宅だろうが、仕事だろうが、困っている市民そのものが、「こういう政策がいい!」と訴えて立候補できるのがデンマークであり、非正規労働者などはじめから「政治からおりている」のが、日本、というのが、私の印象です。
投稿: 哲学の味方 | 2010年10月22日 (金) 07時57分
実例についての追加。
もうこれでこのエントリーへの追加は終わりにしますけれど、彼我の政治風土の違いを考えていたときに、とっても面白いブログを見たので、ちょっとご紹介します。フランスですが。
http://otium.blog96.fc2.com/blog-entry-498.html
投稿: 哲学の味方 | 2010年10月22日 (金) 08時15分