ブラック企業の発生源としての「義務だけ正社員」
特定社労士の「しのづか」さんが、わたくしの発言にコメントされています。
http://sr-partners.net/archives/51595129.html(正社員だから無理を聞け、は通用しない)
>>>むしろ問題は、かかる雇用保障義務が事実上存在しない中小零細企業の労働者でも、大企業モデルの無限定的労働義務が程度の差はあれ規範化されていて、一種のやらずぶったくりが可能になっていることではないかと思います。
>これ、私も切実に感じます。
・・・・・
>正社員という名のもとに、経営者のやらずぼったくり、やりたい放題となっている中小零細企業の(一部の)実態があります。
このあたりは、裁判まで行かないあっせんレベルの実際の山のような個別労働紛争の中身を見ていると大変強く感じることです。
日本の正社員システムは、それが(本来の雇用契約ではあり得ないくらいの)高度の義務と高度の保障の間で釣り合いがとれている限り、外部的な問題は別にして当人にとってはそれなりによくできたシステムではあるのですが、高度の義務の前提であるはずの高度の保障がないような労働者にまで、あたかもそれが労働者のデフォルトルールであるかの如く強制されることになると、まことにブラックな「義務だけ正社員」を生み出すもとになります。
わたしは、いわゆる「ブラック企業」なるものの発生源の一つはここにあるのではないかと感じています。
それを「周辺的正社員」という言い方をするのはたぶんいささかミスリーディングであって、世の中に周辺が存在するのは当たり前だし、特殊な大企業正社員型モデルが中小零細企業にも普遍的に存在しなければならないなどということはそもそもありえないのですが、問題はそういうところでも仕事の中身も時間も空間も無限定が正社員のデフォルトだという規範感覚が労働者を縛ってしまっていることの問題点です。
ここは、いうまでもなく解雇自由ではっぴーなどという逆噴射的な話ではなく、中小零細企業の保障がそれほどではない正社員にはそれなりの義務のありようがあるはずという形で論じられるべきところでしょう。
本当は労働法とはそういう人々のためにあるはずなのですが、雇用保障と引き替えに無限定の労働義務を引き受けた大企業正社員モデルが労働法解釈のデフォルトになってしまっていることが、その次元の議論を却って難しくしてしまっているように思われます。
こういう問題意識はなかなか共有されないのですけどね。
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