広田照幸・伊藤茂樹『教育問題はなぜまちがって語られるのか?―わかったつもり」からの脱却』
広田照幸先生より、伊藤茂樹さんとの共著『教育問題はなぜまちがって語られるのか?―「わかったつもり」からの脱却 』(日本図書センター)をお送りいただきました。いつも心にかけていただきありがとうございます。
一見、教育問題の本かと思うかも知れませんが、教育問題を論ずる「リテラシー」の本です。
>少年犯罪は凶悪化している! 子どもの自殺原因の主な理由はいじめだ! 親子関係は希薄化している? 学者や評論家の発言はかなり信用できる! 海外の教育は進んでいる! 昔の教師はみんな優秀だった? みんな教育問題について語るけど、これってホント!?「わかったつもり」になってない? 出口のない水掛け論や居酒屋談義があふれる教育論に終止符を打ち、きちんと教育問題を考えるための「超」入門書が遂に登場!
そう、教育問題を例にとって、世にはびこるトンデモ議論にまどわされないように、噛んで含めるように一つ一つ、物音を考えるというのはどういう風にすべきか、どういう風にしてはいけないかを教え諭してくれる本です。
>「今学校ではいじめや不登校がかつてなかったほど増えているし、学校の外では少年非行がどんどん凶悪化している。学校は崩壊寸前にある。」これはかつて優れた教師の情熱と努力によって素晴らしい成果を誇った日本の教育が、教師も親も含めて質が落ち、完全に行き詰まってしまったからであり、子どもたちは心の闇を抱えてもがき苦しんでいる。このままでは日本は世界から取り残されてしまう。これを何とかするためには、子どもの心に寄り添うとともに、教育制度を抜本的に変えるしかない」
>「教育問題を考える」という作業は、こうした紋切り型の語り方からの脱却を意味しています。
しかし、残念ながらこの種の紋切り型の語り方は、政治家やテレビのコメンテーターを始め、下手をすると教育の専門家と呼ばれる人たちの間にもしぶとくはびこっています。そして、こういう言い方に納得してしまう人もたくさんいます。今の教育それ自体よりもこちらの方が、ずっと困った状況だと思えるほどです。
テレビの討論番組かなんかで、右に書いたような語り方をしている「有識者」の方が出てきたりすると、わたしは「あ~あ、またか」とすっかり気が滅入ってしまいます。・・・・・・・教育をそういう目でしか見られなかった「有識者」には期待できません。・・・みんなで「有識者」のトンデモ教育論を嗤ってやりましょう。
そう、これはたまたま広田先生が教育学者だから、教育というトンデモのはびこりやすい分野のリテラシーという形で書かれているのですが、同じことはたとえば労働問題でも、経済問題でも、いろんな分野にあるわけで、その意味では、実に応用の利く、およそ世の中の物事について論じられることについて「トンデモ」を見分け、「まっとう」を見分けるための方法論を語ってくれる本でもあります。
(追記)
ちなみに、広田先生があやうく「トンデモ有識者」にされそうになった一件:
>先日、あるテレビ番組の制作スタッフから、「テレビに出て、コメントしてくれ」と電話で依頼がありました。私は「何についてのコメントをするんですか?」と尋ねました。「今の若者のダメぶりを、職場などでの失敗シーンの再現ビデオでつくるので、先生には『ゆとり教育がこういう若者をつくった』とコメントしていただきたい」とのこと。
---あまりにもひどい、と思いました。若者はいつの時代もいろいろと失敗をして、成長するものです。・・・・・・「あんたが社会に出たときに、似たような失敗をしなかったのかよ」とどなってやりたくなりました。・・・
何より問題なのは、若者の失敗をゆとり教育のせいだとする、根拠も裏付けも何もないということです。実際、「ゆとり教育が、若者の職場での失敗を生んでいる」といったことを論じた研究結果も調査結果も、私は見たことがありません。ゆとり教育が算数の学力を低下させているか否か、といったことについてはいろいろと議論がなされています。だから、「ゆとり教育で学力が低下した」という話をしろ、というのなら、まだ理解できます。しかし、若者の職場での失敗をゆとり教育のせいにするのは、あまりに暴論です。珍説ですね。そんな議論を聞いたのは、私は初めてです。少なくとも、アカデミックな世界では、そんな議論はありません。
しかも、自分たちの用意した乱暴な筋書きを、大学の教員(つまり私)にコメントをさせることで権威づけようとしているのです。ひどいですねえ。
「私にはそんなことはできません」とお断りしました。「それは無理のあるストーリーだと思いますよ」と言い添えておきましたが、確か民放のゴールデンタイムの番組だったのですが、あれ、そのままの筋でつくったんでしょうかね。目の毒ですね。
世の中には広田先生ほど良心的でない「有識者」がいっぱいいますから、今日もまたこういうたぐいの「目の毒」が量産され続けているのでしょうね。
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若者の受難が、2ちゃんねるの釣りネタのごとき感性で作られ、そして消費されて行く時代に
骨太な発言されてゆくことに感謝しなくてはなりませんね。
投稿: akane | 2010年9月20日 (月) 19時55分