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2010年9月26日 (日)

これも博士、あれも博士

ほぼ同時に、対照的な「博士」をテーマにする新書が出ていたので、連続して読みましたが、

Htbookcoverimage ひとつは、『高学歴ワーキングプア』を書かれた水月昭道さんの『ホームレス博士  派遣村・ブラック企業化する大学院 』(光文社新書)、

03315898 もうひとつは、瀬名秀明・池谷裕二監修の『東大博士が語る理系という生き方 』(PHPサイエンスワールド新書)です。

続けて読むと、同じ国の同じ(ではないですけど)博士の話とは思えないですね。

もちろん、東大理系博士の話にも、「日本の大学院の不安定さ」が出てきますし(p187~)、

> そういった点で日本の大学院生の扱いは、先進国の中ではかなりひどいようです。このように科学者のタマゴである大学院生を大切にしないままだと、日本は科学立国として21世紀を生き残っていくことは非常に困難になるのではないでしょうか。

といった恨み節的な記述もありますが、やはり全体のトーンはきわめて明るく、科学技術を切り開く先頭に立つものとしての誇りがにじみ出ているのに対し、「ホームレス博士」の方は、陰々滅々がさらに進行し、大学院はもはや派遣村、ブラック企業と同列の存在となっています。

併せ読めば、実にいろいろな感想が湧いてきます。端的に言えば、高度な学位を持つ優秀な研究者をさらにたくさん生み出していかなければ社会の要請に応えられないような分野と、従来ですら生産過剰であった分野とをきちんと腑分けすることなく、前者については正当であった大学院重点化を、まったくそれに当てはまらない後者については学位生産者側のポストを増やすことを暗黙の目的にして調子を合わせたため、超過剰生産で売れない在庫の山が積み上がったということなのでしょう。

労働経済学なる学問分野の意味は、こういう社会現象を経済学の論理でずばりと分析することにあると思うのですが、自分の身に降りかかってくる話題でもあるためか、あまりその例を見ないようです。

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コメント

著書を読む限りでは、水月氏は理系の事情にはあまり詳しくなさそうですね。日本の理系、とくに独法系のPDであれば欧州より待遇は良いですし。

私自身、労働問題に興味を持ったのが博士問題からなのですが、先生の著書の表現を借りれば、アカデミック社会自体は多分にメンバーシップ要素が強いのですが、中でのキャリア形成がジョブ的かつ、その中で生き残れなかった者がメンバーシップから排除される構造になっていることが、現在のに状況になっているという印象があります。多くの博士からしてみれば、完全なジョブ型社会のほうが生きやすいでしょうね。

特に、

>高度な学位を持つ優秀な研究者をさらにたくさん生み出していかなければ社会の要請に応えられないような分野

というのは、競争が激しく、かつ供給と社会の要請による需要に時間的なギャップがあるために、本人が優秀であっても在庫になりがちな面があると思います。

もっとも、こちらのケースでは、一旦「転進」を決断さえすれば、ワーキングプアに陥ることなく活躍されている方々がほとんどですけれども。

本日の朝日で、竹信さんが「専門職エレジー」として記事を書いていますね。

>活かす場整えず「量産」

という見出しが、まさに事態を物語っているわけですが。

そもそもなんで大学の教員がメンバーシップ制の雇用条件になっているのか理解出来ません。事務ならまだ理解出来るのですが研究・教学がなんでなのでしょうか?
アメリカでは終身雇用はほんの一握りのポストであると聞きます。
日本でもっとも構造改革が必要なのは大学教員のポストではないでしょうか?
教授クラスでも入替えを激しくするとかすればもっと透明性のある雇用が達成されると思うのですが。

赤いたぬき様

日本では腰を据えて量より質でよい研究をする、という風土があった(過去形)のと、これまでは大学院生の数を絞ってきたので、学位取得後すぐ助手として就職し、その後は大学の仕事をこなしつつ研究していくというスタイルがあったためだと思います。ここにきて供給を大幅に増加させたため、上記のようなキャリアになるのは院生で業績をあげたごく一部の人になっています。

それから、アメリカで終身雇用は一握りというのは事実に反していると思います。日本の任期制はアメリカよりある意味ずっと厳しいです。最大の違いは、任期切れ後の職の有無で、アカデミックとその他の距離が遠い日本ではここが非常に厳しい。
そういう意味で「メンバーシップ」と言葉を使用しました。
今では教授クラスでも人の入れ替わりは亜激しいですよ。分野にもよると思いますので一般論を申し上げることはできませんが。透明性はあまりあるとはいえませんが、アカデミック業界の中では完全にジョブ的です。

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