日本経団連のシンクタンクが「より温かな政府、より活力ある社会」を求める
日本経団連のシンクタンクである21世紀政策研究所が「税制抜本改革と実現後の経済・社会の姿」と題するかなり大部の報告書を公表しています。
http://www.21ppi.org/pdf/thesis/100909.pdf
何よりもまず、その第1章の標題をじっくりと味わってください。
>第1章 温かで活力のある社会―弱肉強食社会から切磋琢磨社会へ
弱者も社会に参加して「切磋琢磨」できる社会というある意味でアクティベーションと通じる考え方が示されています。
この期に及んでいよいよ弱肉強食を称揚する一部の人々は、日本経団連からもお呼びがかからないということですね。
その第1章の最後のところを若干引用しますと、
>9.「より温かな政府、より活力ある社会」に向けて
このように分析してくると、「税負担の増加によりもう少し政府の規模を上げ、社会保障を充実させ国民の将来不安を和らげるとともに、給付に見合った負担を求めることにより財政赤字の発散を防ぎ将来世代を含めた世代間の負担の公平を図ること」が中期的に、国民経済の成長・発展のための重要な政策課題であることが分かる。
他方で税負担を引き上げることに対しては、政府の規模を大きくすると、経済効率が悪化するという反論・主張があり、また、デフレに悩む我が国で税負担の増加を行うことは短期的な景気の悪化をもたらすという根強い反論がある。
これに対しては、たとえば、高等教育を含む教育支出の拡大、規制緩和と組み合わせた医療・介護分野への歳出拡大等我が国経済の潜在的成長率の引き上げにつながるような規制緩和策と組み合わせた成長戦略を策定し、総合的に政策を運営していくことが必要であろう。
今の経済情勢のもとでは、平成23 年度予算編成はますます破壊的なものになる。政府は早めに警鐘を鳴らし、税制の抜本的改革の議論を開始し、政策のかじ取りを、これまで述べてきたような政府の規模を切り替え、「温もりと活力のある社会」を目指すことが必要である。
もっとも、スウェーデンのような高福祉・高負担国家は、政府と国民との距離感、さらには、高負担を実現するための番号による管理国家の必要性等から考えて、我が国が目指すべきモデルではなく、欧州大陸諸国並みの中福祉・中負担国家を当面の目標とすべきであろう。
ちなみに、本報告書の「第4章 給付付き税額控除」(佐藤主光)では、「再分配改革をめぐる論点」としてベーシックインカムを含むさまざまな論点について論じられており、関心のある方は読まれる値打ちがあります。
>本節では、課税と移転を一体化した再分配の在り方について論点をまとめたい。新たな再分配としては、これまで議論してきた(就労者に対する)「給付付き税額控除」と(求職者を対象とした)「積極的労働市場政策」の組み合わせは、①「福祉から雇用」への転換を図った再分配といえる。他方、既存のセイフティーネット(現金給付)を大幅に簡素化し、全ての国民一人当たりに一律の現金給付を行うのが、次に紹介する②ベーシック・インカムである。
いずれも、「負の所得税」から派生し、現行の再分配の抜本的な見直しと柔軟な労働市場の確保を前提にするところでは共通しているが、就労への誘因付けの如何(「福祉から雇用」か「労働からの解放」か)において考え方が根本的に異なる。
« 労働組合による労働者供給事業について | トップページ | 勤務間インターバル規制とは何か »
コメント