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2010年9月 7日 (火)

セクハラと個人加盟ユニオン

JILPTの恒例のコラム、今回は呉学殊さんの「セクハラ問題―個人加盟ユニオンの紛争解決―」です。

http://www.jil.go.jp/column/bn/colum0156.htm

>私は、労働組合の個別労働紛争解決・予防への取り組みに関する研究を行ってきたが、その中で、個人加盟ユニオンのセクハラ問題を解決した3つの事例を調査した。そのうち、2つの事例は、加害者が事業主または専務の経営者であり、残り1つは直属の部長であった。セクハラは3つの事例とも服の中に手を入れて体を触る等の悪質なものであった。行政による解決ができなかった同セクハラ問題を、ユニオンは企業との団交や労働審判によって、解決した。ユニオンは、加害者にセクハラの事実認定と謝罪を行わせて、再発防止を促し、また、被害に応じた補償金(120万円、200万円、350万円)を払わせた。それにより、被害者は、紛争解決に納得し、次の仕事に取り組む蘇生力を得たのである。

このコラムのもとになった研究は、「資料シリーズNo.76『個人加盟ユニオンの紛争解決-セクハラをめぐる3つの紛争事例から―』(近刊予定)」というもので、まだ公表されていませんが、なかなか面白いです。

ただ、その隣で、行政による個別紛争事案をあれこれ研究している立場から一言。

(ちなみに、セクハラ事案は男女雇用機会均等法に関わるので、労働局でも雇用均等室の所管になり、セクシュアルじゃないハラスメント、つまりいじめ・嫌がらせのたぐいは一般の個別紛争として企画室マターになります。行政の縦割りの関係で、私は行政によるセクハラ事案は見ていないのですが)

個別紛争でも、解雇とか労働条件引下げといったものは、何が起こったかははっきりしていて、それがいいか悪いかということになりますが、いじめ・嫌がらせ事案の最大の問題は、圧倒的に多くの事案において、会社側が「いじめなんかしていない!」ということです。「私はいじめを受けた!」「本人が勝手にいじめられたと思いこんでるだけ」の間では、なかなか接ぎ穂がないというのは分かるでしょう。

それにしても、そういう会社側がいじめの存在を否認している事案でも、それなりの件数、金銭解決しているのです。むしろ、純粋の解雇事案や労働条件引下げより解決率は高いくらいです。

なぜそうなるかを、よく読んでいくと、多くの場合、あっせん委員が「いや、そうはいうけど、現に労働者側がいじめを受けたといってるんだから、事実はともかく、何らかの解決をしてはどうですか?」(大意)というようなことを言って、なにがしかの金銭解決に至るというのが多いのですね。

これは、先日の研究成果報告会の場でも話したことですが、裁判のような事実がどうであったかを厳格に判定するような紛争処理システムでは、この手のいじめ・嫌がらせやセクハラ事案というのは、事実認定が大変難しくて、なかなか簡単に処理できないだろうと思います。

行政によるあっせんというのは、「事実はともかく」「お金で解決」という、裁判所だったら絶対に許されないようなことができてしまうので、かえって解決につながりやすいのではないか、と思うわけです。

厳格な人であれば、「そんなもののどこが解決だ!」と怒るかも知れませんが、しかし社会の紛争解決というのはすべて事実の確定をしなければできないというわけではありませんし、会社側としても、「もしかしたらいじめがあったかも知れないが、社員がないといっている以上ほじくるのもまずいし、まあこの金で解決するなら・・・」というメリットもあるわけで、こういう緩やかな紛争処理システムの一つの利点といえるように思います。

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