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2010年8月17日 (火)

日本学術会議「大学教育の分野別質保証の在り方について」

今までじらしにじらされてきた日本学術会議の「回答」が、本日ようやく公開されました。

>日本学術会議会則第2条に基づき表出する政府及び関係機関への回答として、大学教育の分野別質保証の在り方検討委員会において審議の上、第100回幹事会において、その発表を了承されましたので、回答を公表します

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-k100-1.pdf

冒頭に「作成の背景」が書かれていますので、どういう経緯でこういう議論をすることになったのかを知っていただくためにも、引用しておきます。

>平成20 年5月、日本学術会議は、文部科学省高等教育局長から学術会議会長宛に、「大学教育の分野別質保証の在り方に関する審議について」と題する依頼を受けた。依頼を受けて日本学術会議では、同年6月に課題別委員会「大学教育の分野別質保証の在り方検討委員会」を設置し、9月に第1回の委員会を開催し具体的な審議を開始したが、同年12 月まで計4回の審議を行う中で、以下の理由から、委員会の下に3つの分科会を設置し、さらに具体的な審議を進めることとした。
分野別の質保証の在り方について検討するということは、基本的に各分野の専門教育を対象とすることになる。しかし一方で教養教育・共通教育も行われており、これらと専門教育との関連についても同時に検討がなされなければ、大学教育における専門教育の在り方についての議論が一面的なものにならざるを得ない。また、学生が職業生活に移行する際に、とりわけ文系の分野を中心に、大学教育の成果が殆ど顧みられないということに加え、むしろ早期化、肥大化する就職活動によって、分野を問わず大学教育自体の円滑な実施に困難を来している状況が起こっている。このような現実から目をそらしては、説得力を持つ議論にはならないであろう
このため、文科省からの依頼を直接的に検討するために「質保証枠組み検討分科会」を設置するとともに、教養教育・共通教育の在り方に関して検討するために「教養教育・共通教育検討分科会」を、大学と職業との接続に関わる問題に関して検討するために「大学と職業との接続検討分科会」をそれぞれ設置し、平成21 年以降は、3つの分科会が相互に緊密な連携を保持しつつ、それぞれの課題について審議を進めてきた。

まず、第一部の「分野別の質保証の枠組みについて」では、

>分野別の質保証の核となる課題は、学士課程において、一体学生は何を身に付けることが期待されるのかという問いに対して、専門分野の教育という側面から一定の答えを与えることにあるが、その検討の際には、以下の点に十分留意すべきである。
・ 大学教育の多様性を損なわず、教育課程編成に係る各大学の自主性・自律性が尊重される枠組みを維持すること
・ 学生の立場から、将来職業人として、あるいは市民として生きていくための基礎・基本となる、真に意義あるものをしっかり身に付けられることが意図されていること
・ 各学問分野に固有の特性に対する本質的な理解を基盤とし、それに根差した教育の内容が明示されること
以上を踏まえ、具体的な分野別の質保証の枠組みとして、以下を主要な内容とする「分野別の教育課程編成上の参照基準」についての考え方を取りまとめた。
① 各学問分野に固有の特性
従来多くの場合暗黙知とされてきた、分野に固有の「世界の認識の仕方」・「世界への関与の仕方」について、学問的な観点から同定する。
② すべての学生が身に付けるべき基本的な素養
当該分野に固有の特性を踏まえて、学生が身に付けるべき基本的な知識・理解と能力について、現実に人が生きていく上での有用性(短期的・直接的なものだけでなく、価値や倫理等も含む)という観点に照らして中核となるものに絞り込み、それらの意義を明確化した上で、一定の抽象性と包括性を備えた形で記述する。
③ 学習方法及び学習成果の評価方法に関する基本的な考え方
単に知識や理解を付与するだけでなく、それを実際に活用できる力を培うための学習方法や、その成果の評価方法が重要であることから、これらについての基本的な考え方を述べる。

と言うことで、今後学術会議において各分野の参照基準を順次策定していくことになります。

第二部の「学士課程の教養教育の在り方について」では、

>まず、現在の大学で行われている教養教育の多様性を認めつつ、その原点が民主主義社会を支える市民の育成にあることを再確認することが必要である。大学においては、各分野の学士課程教育において、専門教育と教養教育、それぞれの教育理念とのバランスに配慮した学習目標を定めて、それを実現するカリキュラムを編成すべきである。科目区分としての専門教育と教養教育とがどのように組み合わされるのかは、あくまで学習目標を達成する上での最適化という観点から判断されるべきことであり、そこにおいて教養教育が常に専門教育に先行して行われるべき必然性はない。
一方、市民的教養自体が、戦後から現在にいたる時代の変遷の中で大きく変容してきており、大学がユニバーサル化した現代にあっては、かつての「豊かな人生」へのパスポートとしての教養概念は既に失効して久しい。市民性を、社会の公共的課題に対して立場や背景の異なる他者と連帯して取り組む姿勢と行動として再定義した上で、現状の課題や困難を、未来において作り変え、改善されるべき対象と考えるような想像力、構想力を培うことが教養教育の重要な内容となる。
市民としての連帯の背骨となる新たな知の共通基盤を形成する上で、例えば、現代社会の諸問題を、一義的な正解の存在しない問題として徹底的に思考させることや、新たな科学技術リテラシー教育を含む、分断されている文系と理系の橋渡しに寄与する取組みは重要な意義を持つであろう。
コミュニケーション能力の育成に関しては、一方的な情報伝達ではない「対話」という視点を重視すべきである。そこでは、自らとは異なる意見、感覚を持つ人々と出会い、「聴く」能力の育成が課題となる。同時に、合意できないものは合意できないままに協働の可能性を探る、あるいは意見の対立を残しつつ決定する、といった「賢慮」を培うことも忘れてはならない。また、特に言語能力ということで言えば、日本語のしっかりした運用能力を鍛えることがすべての基本となることを認識し、教育方法の開発を含めて、そのための取り組みを充実すべきである。
この他、英語教育・外国語教育の在り方や、インターネットの可能性と問題点、芸術や体育の持つ意義等について述べるとともに、教養教育を担う教員の資質自体が危機的な状況にあることに警鐘を鳴らし、最後に、社交空間でもある大学の存在自体が、「隠れたカリキュラム」として学生の人間的な成長に重要な役割を果たすものであることを指摘する。

そして、いよいよ注目の的の第三部「大学と職業との接続の在り方について」です。

ここは、本ブログでも今まで何回も紹介してきたところですが、要約すると、

>かつての日本社会においては、若者が学校から職業へのスムースな移行を遂げていくことが自明視されてきた。しかしそうした状況は既に過去のものであり、「移行」に恒常的に大きな困難が伴うようになった現状を直視し、状況の打開に向けた道筋を抜本的に構築しなければならない。
その根幹をなすことの一つが、文字通り「大学と職業との接続の在り方」を改善することであり、端的にそれは大学教育の職業的意義を向上させ、社会がそれを適切に評価することに他ならない。第一部で述べた分野別の参照基準の策定は、職業人として求められる能力と、分野の哲学・理念とを統合するものとして、各大学での教育改善の支援に重要な役割を果たすと考える。参照基準の策定に際しては、分野によって職業的な能力形成に寄与する在り方も多様であることについて適切に整理し、学生がありのままの姿を理解できるようにすることも重要である。
また、今後の産業社会の在り方を構想すれば、経済のグローバル化に対応しつつ、多様な局面で人々が自らの力を発揮し高めていけるようにするという視点が重要である。このため、例えば正社員と非正社員の二極分化がもたらす社会的な行き詰まりに対する手当として、職業上の専門性を媒介に、均衡した処遇がなされる労働市場を形成していく等の取組みが求められるが、そこで大学が担う役割は大きい。今後の大学は、さらに専門分野の編成の在り方の変革や、大学以外の教育訓練機関との連携などについても積極的に取り組んでいくことが期待される。
最後に就職・採用活動の在り方に関して、まずは対策の枠組みを大きく広げることが重要である。早期化・長期化する現在の就職・採用活動の在り方は改善されるべきであるが、企業を含めた「外の世界」を知る機会はむしろ早期から整備していく必要がある。大学のキャリアガイダンスも、就活スキルの形成にのみ注力するのではなく、専門教育とも連携して、学生の職業的自立への主体的準備の支援を重視すべきである。また企業においても、実際の「仕事」とより強く結びついた採用方式を検討することが望まれるが、緩やかな職種別採用は、そのための一つの有力な選択肢であると考える。他方で、就職できない若者のための公的なセーフティネットの整備や、企業の採用における「新卒」要件の緩和も求めたい。

「3年間新卒扱い」ばかりにしか関心を向けないマスコミの先走り報道が、いかに本報告書の本筋を外したものであるかが、窺われるでしょう。

全部で100頁に及ぶ大部の報告書ですが、およそこの問題に関心を持つ方々は是非じっくりとお読みいただかなければならないと思います。

こうして報告書が正式に公開されたのにかかわらず、この期に及んで未だになお新聞記事だけ読みかじって薄っぺらな批判もどきをするような手合いは、それだけでこの問題を論ずる資格のない人間であるということを、自ら黙示しているというべきでしょうね。

(追記)

朝日と読売に続き、日本の新聞のレベルを露呈するのが大好きと見えます。

http://www.nikkei.com/news/latest/article/g=96958A9C93819695E3E5E2E6848DE3E5E2EAE0E2E3E29180EAE2E2E2(日本経済新聞 大卒後3年間は新卒扱いを 日本学術会議が提言 )

http://mainichi.jp/life/today/news/20100818k0000m020054000c.html(毎日新聞 就職:大卒後3年は新卒扱いを 日本学術会議が提言書)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2010081701000672.html(東京新聞 大学卒業後、数年は新卒扱いを 学術会議が就活で提言)

あーあ。全滅。

(再追記)

そして、新聞記事の見出しだけで脊髄反射してもっともらしい文章を書き殴ってもつとまる人事コンサルタント氏も・・・。

http://www.j-cast.com/kaisha/2010/08/19073775.html(こうなったら「みんな新卒」にしちゃえばどうか)

いやはや、朝日の記事に脊髄反射したときに忠告しておいたんですけど・・・。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post-a8fe.html(「卒後3年新卒扱い」というおまけよりも本論を読んでほしい)

>薄っぺらな評論家諸氏が、新聞記事だけで

http://blog.goo.ne.jp/jyoshige/e/96aeeb34f6e0be8df8e6c5582d982a57

・・・・・・・

>とか書き散らすのはまあ仕方がないとはいえ、・・・

とね。

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