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2010年8月28日 (土)

事務処理派遣とは何だったか?

『労務事情』9月1日号に、「事務処理派遣とは何だったか?」を寄稿しました。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/roumujijo0901.html

中身は、最近あちこちで喋っていることですが、分かっている人は分かっているけど全然語らず、分かってない人は全然分かってないけどやたらに語るという、ねじれの最たる領域でもありますので、わたくしがちゃんと語ることに意義があると思っています。

>25年前に労働者派遣法が制定されて以来、誰もが分かっていながら分からないふりをしてきた虚構が、ここにきて一気に崩壊しつつある。いうまでもなく、一般事務職を「ファイリング」とか「事務用機器操作」といった専門職であるという建前で認めてきた虚構である。今年2月には長妻昭厚生労働大臣の指示により、厚生労働省が「期間制限を免れるために専門26業務と称した違法派遣への厳正な対応」(専門26業務派遣適正化プラン)として集中的に指導監督を行い、さらに引き続き厳正な指導監督を行うとしている。

 しかし、派遣法が制定される前に事務処理請負業と称して行われていた事業は、ほんとうに厚生労働省がQ&Aでいうような専門職であったのだろうか。派遣法施行直前に行われた雇用職業総合研究所*1の調査では、それとはまったく異なる姿が浮かび上がってくる。 1985年12月の「業務処理請負事業の実態に関する統計的調査結果総括報告書」*2によれば、ユーザー調査において、事務処理業務のうち現在利用している業務は、単純事務7.9%、データ入力7.0%、経理5.8%、営業事務4.4%・・・であり、今後利用したい業務としてはデータ入力17.3%、単純事務11.1%、営業事務10.0%、経理9.9%・・・となっている。また事務処理業務を処理するために必要な知識経験の程度を聞くと、「知識経験はほとんどいらない」が27.4%、「知識経験がある程度必要」が36.2%、「知識経験はかなり必要」が34.4%と、決して専門職といえる状況ではなかった(情報処理業務ではそれぞれ2.4%、30.8%、64.8%)。

 1986年4月の「人材派遣業(事務処理)の女子労働者の仕事と生活に関する調査研究報告書」*3によれば、派遣中の派遣業務は、多い順に一般事務44.9%、タイプ・ワープロ28.4%、情報処理18.2%、通信13.5%、経理事務11.6%となっている。もっともこの調査では情報処理の大部分はデータ入力のことであり、システム設計・プログラミングはごくわずかである。また平均月収は15~20万円が38.0%、10~15万円が26.4%であり、また時間給でみると1000~1200円が43.7%、1200~1500円が31.8%と、パート・アルバイトのような非正規労働者よりははるかに高いが、一般正社員よりも高いとはいえず、少なくとも専門職賃金といえるような水準ではない。

 派遣法制定に力を尽くした高梨昌氏は「もともと専門職の業務は、相対的に高賃金の紙上を形成しており、・・・良好かつ健全な派遣市場の形成に役立つと考え、ポジティブリスト方式を提案し」*4たと述べているが、はじめからそうでないことは皆分かっていたはずである。中途採用の道のない一般職の女性たちに派遣という形で働く機会を提供することこそがその目的だったのではないのか。にもかかわらず真実を隠して、専門職だからという虚構を続けてきたことこそが今日の破滅的な事態の根源にあるのではなかろうか。

(参考)

『人材ビジネス』誌8月号に寄稿した「労働者派遣法自体の問題点を直視せよ」の最後のところで述べているのも、この点です。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/jinzai1008.html

>業務限定論の虚妄から論じよ
 
 今回の改正案は、派遣労働者の低賃金、不安定雇用、技能向上機会の欠乏といったさまざまな問題点が一昨年のリーマンショックを契機として噴出したことから、それに対処しようとして検討されたものであることは間違いない。しかしながら、上記三者構成原則の問題を抜きにしても、その基本的な改正方針自体に大きな問題が存していたこともまた否定できない。それは、ILO条約やEU指令といった今日の国際基準が事業規制を緩和しつつ労働者保護を強化するという方向を目指しているにも関わらず、そのような世界の流れに背を向け、労働者保護の強化はなおきわめて不十分なものにとどまる一方で、古めかしい事業規制ばかりを追い求めようとしている点である。ここには、日本における議論の流れに棹さすことばかりを考え、規制緩和派は労働者保護の流れを無視し、規制強化派は事業規制緩和の流れにだんまりを決め込むという、労働法に関わる者の悪しき政治的配慮が露呈している。

 しかしそれだけではなく、25年前に作られた日本の労働者派遣法が、「専門的業務であるからわざわざ派遣労働者保護をする必要はない」という虚構の上に作られた砂上の楼閣であるという根本問題に根ざす問題でもある。今回の改正法案において、製造業派遣の禁止にせよ、登録型派遣の禁止にせよ、「専門業務」と称する26業務を例外とするという世界的にまったく説明のつかない形で行われていることに、(わたし以外には)誰も正面から異議を唱えないという奇妙な事態にこそ、日本の労働者派遣システムの最大の病理が潜んでいる。その病理がもっとも奇怪な形で噴出しているのが、現在猛威を振るっているファイリングと事務用機器操作業務の「適正化」なのであってみれば、今こそ労働者派遣法自体の問題点を直視すべき時期であるはずである*1

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