進化論生かじりの反福祉国家論
その筋で有名な藤沢数希氏ですが、また奇妙なことをいっています。どうも、福祉国家が必ず滅びるということを進化論で(!)証明したつもりのようです。
http://agora-web.jp/archives/1069245.html(福祉国家という危険な幻想)
>しかし筆者は福祉国家と言うのは非常に危険な幻想、あるいは妄想だと思っている。行き過ぎた福祉国家と言うのは必ず滅びるものだ。今日はそのことを示唆するためにいくつかの簡単な実験をしようと思う。実験と言ってもフラスコの中で化学反応を起こしたり、コンピュータで複雑な数値実験をするわけではない。簡単な思考実験。つまりいくつかのシチュエーションを思い描き、その結果どうなるか想像してみようと言うことだ。・・・・・・
これを読んで、なるほどその通りだと思ったあなた。最近の進化論の教科書をちゃんと読み直した方がいいです。19世紀に山のように出された社会ダーウィニズムの駄本じゃなくて。
ちなみに、社会現象については、自分に都合のいい特定の式だけ入れて脳内実験するよりも、現実世界をよく観察する方が百万倍役に立ちます。世界各国を比較して、福祉国家の度合いが高い国ほど現に滅びつつあるという客観的な事実が観察されれば、百万言費やさずとも万人が納得するでしょうが、さて・・・。
もっとも観察能力には、自分に都合の悪いことも虚心坦懐に観察できるという能力も含まれますから、これもなかなか難しいかも知れません。
いずれにせよ、藤沢氏の独自の信念が強固であることは勝手ですが、ここで進化論を持ち出すのはダーウィンに失礼でしょう。進化論とは、地球上で現に起こった事実を説明するためのエンピリカルな自然科学なのですから。
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上掲のブログの方、私は初めて知りましたが、進化論をこんな風に"援用"するのは、本当にいけませんね。
>ほとんどの哺乳類で一部の強いがオスがほとんどのメスを手に入れて、それ以外のオスがあぶれることになる。
ヒトに近い類人猿を見ても、これは事実と違います。チンパンジーは強いボスが多くのメスと交尾しますが、ゴリラやボノボは違う。特に、ボノボのメスには偽発情という現象があり、多くのオスがメスと交尾できるので、メスをめぐるオスの競争は、はるかに緩和されます。
ヒトの祖先は、ボノボ型の性関係をもとに一夫一妻制を発展させたというのが、有力な仮説です。ヒトの女性は、排卵日が外部からは分らないし、発情期がないから、いつでも性交可能です。これは、メスをめぐるオスの競争を緩和し、安定的な家族と社会を作るための大切な条件で、進化論的に大きな意味をもっています。
「競争」ばかり振り回す俗論は本当に困ったものです。
投稿: charis | 2010年8月 5日 (木) 21時15分