EU市民権の行方
フランスのサルコジ大統領のロマ追放令は、イタリア政府のより深刻な提案につながっていっているようです。例によってEUobserverから。
http://euobserver.com/9/30657(Italy to raise EU citizen expulsion policy at September meeting)
いうまでもなく、EUの大原則はヒト、モノ、カネの自由移動。世界中どこでも自由移動という話ではなく、あくまでもEUというスーパー国家の範囲内での自由移動。言い換えれば、フランスやイタリアという枠の代わりにEUが新たなスーパーネーション国家になるようなもの。EUのよそ者(第3国民)は、自由移動の保護下にはない。
当初のEECはドイツが一国ナショナリズムを我慢してフランスを立てるところから始まったけれど、うまくいっていたのはそれなりに同じような生活水準の先進国のグループだったからというのが大きい。
ところが、政治的な動因で東欧諸国がどやどやと入ってきた。とりわけ、最後に入ってきたルーマニアとブルガリアが、ロマたちを立派な「EU市民」として自由に旧来の加盟国に送り込んできた。アフリカや中東から来ている「第3国民」はEU法とは関係がないので、各国が自らの主権で追放できる。ところが、いまや立派な「EU市民権」を手に入れたロマたちはそうではない。
この問題の背景は、こういうところから見ていかないといけない。ある種の「スーパーネーション共同体」として展開しつつあったはずのEUが、政治的意図から拡大を急ぎすぎたために、今までのEU市民たちが「あんなヤツラ、俺たちの同胞として入れたつもりはないぞ!」という意識を強烈に持つに至ったということ。
しかし、その排外主義がこういう形をとるようになれば、そもそもEUの原点であったはずの「EU市民権」自体が揺るがされてしまう。
EUは岐路に立っているのだなあ、と思います。
>Italy has said it intends to expel citizens from other EU states if they are not able to support themselves, in a move apparently inspired by France's current crackdown on Roma.
Interior Minister Roberto Maroni told daily newspaper Corriere della Sera on Saturday (21 August) that French president Nicolas Sarkozy - whose recent actions include closing down Roma camps and deporting around 200 Roma to date - is "right."
サルコジは正しい!自分で生計を立てられないような他のEU加盟国の国民は追放できるようにしよう、と。
>"Yes, expulsions just like those for illegal immigrants, not assisted or voluntary repatriations. Of course only for those who violate rules on requirements for living in another member state: a minimum level of income, adequate housing and not being a burden on the social welfare system of the country hosting them."
"Many Roma are EU citizens but do not respect any of these requirements," he said. But added, when asked if this would be discriminatory, that the policy should apply to all EU citizens and not just Roma.
確かに、ロマだけ追放するというのは人種差別でしょう。しかし、すべてのEU市民にそれを適用するというのは、もはや第3国民と区別されたEU市民権って何?というはなしになります。
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