経営者が命じたくせに社員を横領だと訴えた事件の最高裁判決
一昨日、最高裁判所が下した判決については、新聞でも報道されておりますとおり、民事訴訟法上の問題が論点であって、本ブログの管轄範囲ではないのですが、事件の中身がなんというか「ひでえ経営者!」って話なので、紹介しておきます。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100709142120.pdf
その横領ってのは、
>被上告人らが主張する本件横領行為等の行為態様は,上告人が,① X1の業務に係る支払に充てるなどの名目で小切手(2件については約束手形)を無断で作成し,又は偽造して,これを現金化した上,同小切手金等を領得したというもの,②被上告人らの預貯金を無断で払い戻したり,解約したりして,払戻し等に係る金員を領得したというものであった。
なんですが、下級審の事実認定によれば、実は、
>原審は,X1の経理処理態勢等について,X1における小切手等の振出しは,上告人が所要事項を記入した小切手用紙にX2がX1の銀行届出印を押捺して行われていたこと,X は同印章を外出時に2 妻などに預けるほか常に携帯していたこと,X2は,X1の振り出す小切手等の控えを入念に点検していたほか,会計事務所の担当者が毎月行う会計帳簿等の点検の際も立ち会っていたが,上記点検によっても使途不明金が発見されるなどの問題が生ずることはなかったことなどを認定した上,本件横領行為等を認めるに足りないとするにとどまらず,被上告人らが上告人において無断で作成し,又は偽造したと主張する小切手等の振出しや預貯金の払戻し等については,そのほとんどを,X2が自らこれを上告人に指示したもので,上告人において小切手等を現金化し,又は預貯金の払戻し等を受けた現金は,その多くをX2が上告人から受領し,その他についてもX1の業務に係る支払等に充てられたことを積極的に認め,本訴請求についてはこれを棄却すべきものとした
ということだったようです。
自分で小切手の振り出しや預貯金の払い戻しを命じ、その金をちゃんと受領しておきながら、それを忠実に実行した社員を横領で訴えるとは、とんでもない経営者ですな。
本判決はこの事実認定を前提として、そんな無法な経営者側の訴えを不法行為と認めなかった高裁の判決を退けたものなのですが、
>原審の認定するところによれば,被上告人らが主張する本件横領行為等に係る小切手等の振出しや預貯金の払戻し等のほとんどについて,X2が自らこれを指示しており,小切手金や払戻し等に係る金員の多くを,X2自身が受領しているというのである。
そうであれば,本訴請求は,そのほとんどにつき,事実的根拠を欠くものといわざるを得ないだけでなく,X2は,自らが行った上記事実と相反する事実に基づいて上告人の横領行為等を主張したことになるのであって,X2において記憶違いや通常人にもあり得る思い違いをしていたことなどの事情がない限り,X2は,本訴で主張した権利が事実的根拠を欠くものであることを知っていたか,又は通常人であれば容易に知り得る状況にあった蓋然性が高く,本訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる可能性があるというべきである。
>しかるに,原審は,請求原因事実と相反することとなるX2自らが行った事実を積極的に認定しながら,記憶違い等の上記の事情について何ら認定説示することなく,被上告人らにおいて本訴で主張する権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて本訴を提起したとはいえないなどとして,被上告人らの上告人に対する本訴提起に係る不法行為の成立を否定しているのであるから,この原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
と差し戻しをしています。
どういういきさつかはよく分かりませんが、ひっでえ経営者ではあります。
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