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2010年7月 8日 (木)

雇用政策研究会報告書(案)

厚生労働省のHPに雇用政策研究会の報告書(案)がアップされています。

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/06/dl/s0624-6b.pdf

「持続可能な活力ある社会を実現する 経済・雇用システム」という格好いい題名がついていますが、内容も現代労働社会の課題に的確に対応するものになっています。とかく雇用政策研究会報告書はいささか総花的な、何でも書いてあるけど、どれもあんまり突っ込んで書いてない、という傾向がありましたが、今回のは(やはり総花的とはいえ)かなり突っ込んで書かれていて、読み応えがあります。下に、わたくしが特に関心を持った部分のみをいくつか引用しますが、是非上記リンク先で全文をじっくりお読みください。

まず、総論として、「雇用は「生活保障のかなめ」であり「成長の土台」」であるという認識を示したところ。

>経済社会が抱える課題の解決を新たな需要のきっかけとし、それを成長につなげていくことが極めて重要であるが、この「課題解決型国家戦略」は安定した雇用によって支えられる。国民は安定した雇用の場を得ることにより、所得を得て消費を拡大し、需要不足を解消することが可能となる。また、各々の生活保障を確立することによって、家族形成も可能になる。
このような意味で、雇用は「生活保障のかなめ」、「成長の土台」であり、それに関わる仕組みは持続可能なものでなければならない・・・。

目指すべき社会のイメージ:

>このようにして構築される社会は、本人の努力に関わらず経済情勢に生活が過度に左右される運任せの冷たい社会ではなく、努力することなく生活の安定が得られるぬるま湯のような社会でもない。
こうした取組により目指す社会のイメージは以下の通りである。
○雇用の場が十分に確保され、職業キャリアが形成できる
○仕事と生活の調和が実現できる
○生活を支えるしかるべき収入が得られる
・夫婦で働けば安心して子供を産み育てられる
・労働者間の賃金バランスがとれている
・介護などの公的制度の下で働く労働者も人並みの賃金が得られる
○企業が活力を持つ

各論では、まず何より「多様な正社員」の環境整備」が重要です。

>世界経済の連鎖性が強まる中、企業は異常時の雇用調整が比較的容易な非正規労働者を増加させており、非正規労働者の雇用期間は長期化している。
これは、企業にとって、安定的に事業を運営するには、非正規労働者が基幹的な業務も行えるようにするため、ある程度継続的な雇用関係を望んでいることが背景にあると考えられる。また、正社員においても、ワーク・ライフ・バランスの観点からより多様な働き方が望まれている。
以上のような状況も踏まえ、従来非正規労働者として位置づけられてきた労働者に対しても、ある程度正社員的な雇用管理をするような雇用システムが望まれる。そのためには、「多様な正社員」(従来の正社員でも非正規労働者でもない、正規・非正規労働者の中間に位置する雇用形態)について労使が選択しうるような環境の整備が望まれる。
「多様な正社員」の具体例としては、金融業や小売業で見られ始めた「職種限定正社員」や「勤務地限定正社員」といった、業務や勤務地等を限定した契約期間に定めのない雇用形態が挙げられる。
「多様な正社員」には、現行の有期契約の多くがこの「契約期間に定めのない雇用契約」に移行することで、労働者にとっては従来の細切れ雇用を防止できるという利点があり52、また、非正規労働者が正社員へステップアップする手段にもなり得るものである。
企業にとっても、事業所が閉鎖される等の異常事態の際に雇用調整できる余地を残しつつ、非正規労働者を新しい雇用契約の下で、適切なキャリア形成支援の実施により中長期的に戦力化することが可能になることが期待される53。また、企業内に多様な人材の存在を認める多様性がある企業となることによって、今後グローバルに競争していくなかで活力を維持することにもつながると考えられる。
「多様な正社員」の環境を整備するにあたっては、実態や司法判断の蓄積により、整理解雇等における法的地位の異同についての整理が必要なほか、正社員の中から切り出して一つの雇用アウトソーシングの手段として利用され、不安定な雇用形態を増大させることにならないよう十分配慮する必要がある。
現行の法律上は、「従来の正社員」と「多様な正社員」は、いずれも期間の定めのない労働契約を結んでいる労働者として区別されていないことを考慮しつつ、今後どのような取組が可能か労使も含めた検討が求められる。
「多様な正社員」の環境が整備されることにより、今後、非正規から正規への移行をはじめとする各雇用形態間の移行や、派遣労働者や有期契約労働者等の雇用形態のあり方にも大きな効果を与えることが期待される。

本ブログで何回か述べてきたように、わたくしは「正規・非正規労働者の中間に位置する雇用形態」という表現には賛成ではないのですがね。

ハローワークを雇用と福祉の連携の拠点に、という話

>2008年秋の経済危機後に大量離職が発生した際、ハローワークにおいて緊急に「ワンストップ・サービス・デイ」を実施したことが、一定の効果を生んだ。この取組で明らかになった課題を踏まえ、地域ごとに関係機関が参集し地域におけるワンストップ・サービスの在り方を検討する場として「生活福祉・就労支援協議会」が設置されるとともに、「第2のセーフティネット」等に関する総合相談を日常的にワンストップで実施する「住居・生活支援アドバイザー」がハローワークに配置されている。
さらに、様々な生活上の困難に直面している求職者に対して、個別的かつ継続的に相談・カウンセリングや各サービスへのつなぎを行う「パーソナル・サポート(個別支援)」サービスの導入が現在検討されており、現場レベルでの取組を踏まえた実際的な議論を行うためモデル・プロジェクトの準備が進められている。今後ハローワークには、制度や組織体制の面からも雇用と福祉の連携を図るポジティブ・ウェルフェアの拠点としての役割が期待される。

社会保障が成長ともたらすという、権丈先生が強調し、最近菅総理も強く打ち出した考え方

>なお、社会保障は尐子高齢化を背景に負担面が強調され、経済成長を阻害するものとされてきたが、医療・介護や年金、子育てなどの社会保障への不安や不信を取り除き、安心して消費がなされるようにすることで、成長をもたらすことが可能となる。医療保険や介護保険といった社会保険制度の下での労働市場で働く人々が、一定程度の生活水準を維持できるような政策をとることなどにより、労働市場全体としても労働条件の底上げにつながることが期待される。
全産業における医療・福祉業の占める有業者の割合は約9%と高まってきており、特に地方においては約10%~14%と高い割合となっているため83、医療・福祉分野の労働条件の底上げを目指すことは、建設投資が減尐する中で地域対策としても有効な手段であるといえる。

教育の職業的意義について

>雇用の量と質を向上させるためには、人的資本の形成に資する教育の充実が不可欠であるが、学習到達度を国際比較すると、日本の順位は年々低下傾向にある104。また、我が国の学校教育には様々な指摘があるが、大学・大学院等の高等教育も含め教育内容が必ずしも豊かな職業生活を送るニーズに適っていないという指摘がある。基礎的な職業能力や適職選択に向けた職業理解、職業意識、労働法の基礎知識といった実際的な教育をより充実させることで、将来の職業キャリアの形成につながっていくと考えられ、職業との関わりにおいて、日本の教育の在り方を改めて検討する必要がある。

そして、雇用政策の実施体制

>雇用政策を十分に機能させるためには、実施体制の整備が重要である。企業の雇用保障機能が弱まる中でハローワークの利用者数は趨勢的に増加傾向で推移しているが、ハローワークの設置数や職員数はむしろ減尐してきており105、人口1人当たりの職員数は先進国中最低水準になっている。今後、前述の雇用政策を効果的に実施するには、地方公共団体等関係各部門との連携を一層密にしつつ、全国ネットワークで運営されるハローワークの体制整備を行うことが必要である。
特に「新しい公共」を担うNPOや社会的企業については、基盤が脆弱なものも多いことから、中間支援組織の整備が重要である。
また、質の高い効果的な訓練が十分提供されるよう、職業訓練の実施体制を整備することが必要であり、ハローワーク等との連携により、訓練期間中から就職に結びつけるための取組を行うことが重要である。
さらに、増加を続ける個別労働紛争の円滑かつ迅速な解決の促進を図るため、労働局・総合労働相談コーナーにおける体制の強化及び一層の業務効率化を図る必要がある。司法、行政(国・地方)、民間ADRからなる複線型の個別労働紛争解決システムの中で、関係機関がそれぞれの持ち味をいかして紛争解決に当たれるよう、労働局、都道府県(労働委員会を含む)、裁判所、民間ADR機関などの一層の連携強化に取り組むことが必要である。
これらにより、真に政策を実施するための実施体制を十分に整備することが必要である。

中身的には以上ですが、最後に、「参考文献」というのがついていて、さまざまな著書や論文が並んでおりますが、その中に、

濱口桂一郎(2009)『新しい労働社会』岩波新書

というのもありました。

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