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2010年6月17日 (木)

『Works Review』Vol.5の中村天江論文その他

Wr2010 リクルートのワークス研究所の年報『Works Review』Vol.5(人事リスクと向き合う)を、同研究所研究員の中村天江さんよりお送りいただきました。

同年報の内容は、すべて同研究所のHPからダウンロードできますので、是非覗いてみてください。

http://www.works-i.com/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=702&item_no=1&page_id=17&block_id=302

欧米各国の緊急雇用対策
キャリア教育を推進する小中連携の考察
生徒のニーズ別キャリア教育の展開方法の差異に関する考察
報告行動に影響を与える組織風土の分類
売上減少期の人事施策変更が職場モラールに与える影響
フラット化による管理人数の拡大が従業員の能力開発に及ぼす影響
課長任用の分権によるリスクはいかに回避されているのか
労働・雇用区分の転換とリスク
非正規という働き方は本当にリスクか
入社後3年間の上司が,新入社員の その後の成長を阻害するリスク
就活に潜むリスク
登録型派遣労働者の再就業に関する実証分析
大卒新卒者採用を抑制すると「リスク」となるのか
有期雇用契約の雇止め無効リスクに関する分析
非正規労働のリスク化プロセス
自己信頼と職場コミュニケーションの関係
間接雇用における休業手当の考察
人材不足への対応に関する類型化

このうち、中村さんの論文は、派遣労働に関わる上の太字の2編です。

まず、「登録型派遣労働者の再就業に関する実証分析―派遣会社の介在価値はどこにあるのか?―」ですが、最後の「総括」を引用しておきます。

>以上の考察から,事務系・登録型派遣労働者,34 歳以下の再就業は次のようにまとめられる。
事務系・登録型派遣労働者は複数の派遣会社を併用し,派遣会社に対して受動的である。派遣会社の職業紹介機能も,雇用していた登録型派遣労働者全員にではなく,限定的な提供にとどまる。離職後の再就業では,専門性や経歴などスペックでの選別は確認されず,雇用契約の更新数や派遣先企業規模など,登録型派遣労働者の能力や定着性向の代理指標(シグナル)が確認された。派遣会社に積極的に仕事紹介を働きかけることが,再就業機会の増加につながることも明らかになった。
職種を細分化して確認する必要はあるものの,少なくとも本研究では,派遣会社に派遣労働者の雇用期間中の能力や実績の情報が蓄積され,ダイレクトに活用されているとはいえない。むしろ,登録情報やコーディネーターらのヒアリングを通じて派遣先とのマッチングがはかられていると考えられる。蓄積情報の活用ではなく,関係性にもとづいた就業斡旋がなされているのである。1986 年の派遣法成立の理論的契機に,伊丹・松本によって提唱された「中間労働市場論」があった(伊丹・松本1985)。派遣会社が企業間移動と雇用保証を両立させる中間組織として機能するという理論である。しかし,登録型派遣では派遣会社は中間組織としては十分には機能しておらず,これは中間労働市場論の批判的考察を行った先行研究と整合的な結果であった(丸岡・木村大成2006)。
ただし,本研究を通じて,その原因が派遣会社だけにあるわけではないことも明らかになった。そもそも,働く意欲が高くない者や,外部労働市場での希望通りの就業が難しい者の存在が判明したからである。就業意欲が低い者の存在は,自己都合での派遣契約終了が多いことや労働市場再参入においても企業に意欲が伝わらず,就業実現を難しくすることにつながる。外部労働市場での就業が難しい者に対しては,派遣会社という間接雇用だからこそ就業が実現しているととらえることができる。
このような事務系・登録型派遣労働者の特性をふまえた上で,「登録型派遣労働者の雇用の安定化」問題を見つめなおすと,2つの異なる局面が存在することに気づく。労働者派遣制度の構造的な負の側面が露呈している離職局面と,正の側面が発揮されている再就業局面である。
離職局面では,外部人材ゆえに内部人材よりもさきに人員調整の対象にされやすく16,派遣契約の終了にともなう雇用契約の中途解除さえ発生する。業務によっては受入れ期間に上限があるため,長期的な就業継続も期待できない。派遣先の正規社員と比較すれば,失職につながるトリガーがいくつも存在する。一方,再就業局面では,就業時間や場所に制約があり,外部労働市場では正規社員として採用されにくい個人の雇用の受け皿となっている。「多様な働き方」「多様な労働者」を受け入れる需給インフラとして,労働者派遣制度が一定の役割を果たしていることは評価すべきである。
派遣会社の中間組織としての機能強化や,正規社員への転換支援は今後の大きな課題だろう。その一方で,派遣会社や登録型派遣制度全体を悪者にしたてたわかりやすくも偏った議論ではなく,その制度を活用している,もしくは活用せざるをえない個人の事情に焦点をあてた建設的な議論が求められている。

ちなみに、わたくしのブログの1エントリが引用されていました。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/post-b51b.html(事務派遣崩壊の歴史的根拠)

もう一つは「間接雇用における休業手当の考察―派遣労働者を例にとって―」ですが、これは労働法学的に派遣をちゃんと考えようとする人にとっては、以前から重要な課題でありながら、まともにきちんと考察されてこなかった論点です。

>派遣元事業主が派遣労働者に支払う休業手当について,考察を行うことは一定の価値があると考える。なぜなら,派遣労働者の休業手当は,雇用の安定の問題と表裏一体だからである。
第174 回通常国会に労働者派遣法の改正法案が提出され,自由化業務(製造業務含む)の派遣は常用雇用1以外禁止となる見込みである。派遣労働者の雇用期間が長期化すればするほど,反作用として,次の就業先が確保できない事態が発生する。改正法が施行されれば2,派遣元事業主は収益構造に直接的な打撃をこうむる。次の就労が開始されるまで,派遣労働者の賃金を低くおさえようと判断する可能性も生じる。

たしか一昨年、連合総研で「労働法改革」の研究会(イニシアチブ2008)に出ていたときに、馬渡先生を呼んだときか脇田先生を呼んだときか忘れましたが、そもそも「常用型」と「登録型」ってどこが違うのか、常用型だと派遣先がないときは60%の休業手当だというのはどういう法的根拠があるのか、登録型における登録状態というのは雇用の予約ではないのか、内定とは違うのか、等々といった議論が出た記憶があります。

ほんとうは、こういう議論を積み重ねるプロセスが必要なのでしょうね。

最後のインプリケーションのところで、やや唐突気味に

>本考察から導かれる含意は2点ある。まず,派遣労働者の「自分を守る力」を強化するとである。派遣労働者は行使できる権利について十分な知識を有していない。日本では,派遣労働者に限らず,労働者のほとんどがこのような知識を持たないだろう。集団的労働条件が適用される期間の定めのない労働者は,使用者と個別交渉の機会は少なく,問題は起こりにくい。しかし派遣労働者の多くは個別労働契約者であり,さらに間接雇用の構造ゆえに,派遣先に端を発した労働条件変更の可能性がつきまとう。労働者としての権利知識を持たず,適切な情報が開示されなければ,不利益をこうむるリスクが格段に高くなってしまうのである。
リスクを最小限におさえるために,派遣元事業主は労働者派遣制度のメリット・デメリットを開示し,そのうえで,派遣という働き方を選択するのかを労働者に委ねる「インフォームド・コンセント」の導入を検討したい。さらに,派遣元事業主もしくは教育過程において,労働法の基礎知識など,労働者の権利教育を整備することが急務である。

と、労働者の権利教育の話題に振られていますね。

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