新成長戦略
本日、菅内閣の「新成長戦略」が閣議決定されました。
http://www.kantei.go.jp/jp/sinseichousenryaku/sinseichou01.pdf
「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」の実現というのがスローガンです。「第三の道」という言葉は、今まで百万回くらい違う意味で使われてきましたが、今回は第一の「公共事業中心の経済政策」と第二の「行き過ぎた市場原理主義」に対する第三ということです。冒頭近くの「第二の道」を批判したところはなかなかいい表現なので、引用しておきます。
>一企業の視点では、リストラの断行による業績回復が、妥当な場合もあるが、国全体として見れば、この政策によって多くの人が失業する中で、国民生活は更に厳しくなり、デフレが深刻化している。また、いわゆる「ワーキングプア」に代表される格差拡大が強く認識され、社会全体の不安が急速に高まった。「企業は従業員をリストラできても、国は国民をリストラすることができない」のである。生産性の向上は重要であるが、同時に需要や雇用の拡大がより一層重要である。
これは大変重要な視点。
さて各論に入り、グリーンだ、ライフだ、アジアだ、観光だ、科学だ・・・といったことは私にはコメント能力がないのでパスするとして、「雇用・人材戦略」です。
2020年までの数値目標として、
>『20~64 歳の就業率80%、15 歳以上の就業率57%』、『20~34 歳の就業率77%』、『若者フリーター数124 万人、地域若者サポートステーション事業によるニートの進路決定者数10 万人』、『25 歳~44 歳までの女性就業率73%、第1子出産前後の女性の継続就業率55%、男性の育児休業取得率13%』、『60 歳~64 歳までの就業率63%』、『障がい者の実雇用率1.8%、国における障がい者就労施設等への発注拡大8億円』、『ジョブ・カード取得者300 万人、大学のインターンシップ実施率100%、大学への社会人入学者数9万人、専修学校での社会人受入れ総数15 万人、自己啓発を行っているの労働者の割合:正社員70%、非正社員50%、公共職業訓練受講者の就職率:施設内80%、委託65%』、『年次有給休暇取得率70%、週労働時間60 時間以上の雇用者の割合5割減』、『最低賃金引上げ:全国最低800 円、全国平均1000 円』、『労働災害発生件数3割減、メンタルヘルスに関する措置を受けられる職場の割合100%、受動喫煙の無い職場の実現』
これらの目標値は、内閣総理大臣主宰の「雇用戦略対話」において、労使のリーダー、有識者の参加の下、政労使の合意を得たもの。また、これらの目標値は、「新成長戦略」において、「2020 年度までの平均で、名目3%、実質2%を上回る成長」等としていることを前提。
が掲げられています。
>内需を中心とする「需要創造型経済」は、雇用によって支えられる。国民は、安心して働き、能力を発揮する「雇用」の場が与えられることによって、所得を得て消費を拡大することが可能となる。雇用の確保なくして、冷え切った個人消費が拡大し、需要不足が解消することはあり得ない。
また、「雇用・人材戦略」は、少子高齢化という制約要因を跳ね返し、「成長力」を支える役割を果たす。少子高齢化による「労働力人口の減少」は、我が国の潜在的な成長エンジンの出力を弱めるおそれがある。そのため、出生率回復を目指す「少子化対策」の推進が不可欠であるが、それが労働力人口増加に結びつくまでには20 年以上かかる。したがって、今すぐ我が国が注力しなければならないのは、若者・女性・高齢者など潜在的な能力を有する人々の労働市場への参加を促進し、しかも社会全体で職業能力開発等の人材育成を行う「雇用・人材戦略」の推進である。
というわけで、明確に雇用を中心に据える政策、就業率目標によって労働力化(アクティベーション)を推進する政策が打ち出されています。
>北欧の「積極的労働市場政策」の視点を踏まえ、生活保障とともに、失業をリスクに終わらせることなく、新たな職業能力や技術を身につけるチャンスに変える社会を構築することが、成長力を支えることとなる。このため、「第二セーフティネット」の整備(求職者支援制度の創設等)や雇用保険制度の機能強化に取り組む。また、非正規労働者を含めた、社会全体に通ずる職業能力開発・評価制度を構築するため、現在の「ジョブ・カード制度」を「日本版NVQ(National Vocational Qualification)」へと発展させていく。
関係がよく分からないのですが、この雇用・人材戦略の項目では「日本版NVQ」という表現なのですが、後ろの方の、「成長を支えるプラット・フォーム」というところでは、
>時代の要請に合った人材を育成・確保するため、実践的な職業能力育成・評価を推進する「実践キャリア・アップ制度」では、介護、保育、農林水産、環境・エネルギー、観光など新たな成長分野を中心に、英国の職業能力評価制度(NVQ:National Vocational Qualification)を参考とし、ジョブ・カード制度などの既存のツールを活用した『キャリア段位』を導入・普及する(日本版NVQ の創設)。あわせて、育成プログラムでは、企業内OJT を重視するほか、若者や母子家庭の母親など、まとまった時間が取れない人やリカレント教育向けの「学習ユニット積上げ方式」の活用や、実践キャリア・アップ制度と専門学校・大学等との連携による学習しやすい効果的なプログラムの構築を図る。
同時に、失業をリスクに終わらせず、新たなチャンスに変えるための「セーフティ・ネットワーク」の実現を目指し、長期失業などで生活上の困難に直面している人々を個別的・継続的・制度横断的に支える「パーソナル・サポート」を導入するほか、就労・自立を支える「居住セーフティネット」を整備する。
こちらでは例の新聞に出ていた「キャリア段位」という言葉になっていますね。
元に戻って、ディーセント・ワークの関係で「同一価値労働同一賃金」が出てきます。
>また、雇用の安定・質の向上と生活不安の払拭が、内需主導型経済成長の基盤であり、雇用の質の向上が、企業の競争力強化・成長へとつながり、その果実の適正な分配が国内消費の拡大、次の経済成長へとつながる。そこで、「ディーセント・ワーク(人間らしい働きがいのある仕事)」の実現に向けて、「同一価値労働同一賃金」に向けた均等・均衡待遇の推進、給付付き税額控除の検討、最低賃金の引上げ、ワーク・ライフ・バランスの実現(年次有給休暇の取得促進、労働時間短縮、育児休業等の取得促進)に取り組む。
この同一価値労働同一賃金の中身はどういうことであるのか、法政策としての明確化が今後議論になることと思われます。
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