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ジョブ型正社員に関するメモ

某所における議論のためのたたき台として書いてみたメモ

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雇用における公正・公平

 「雇用」は雇用関係のすべての側面を意味しうるが、ここで取り上げるのは賃金等の「処遇」にも「能力開発」にも属さない雇用関係の性質という側面における正社員と非正規労働者の格差である。法律論としては、派遣労働者を含む有期契約労働者が契約期間の満了という形で、解雇権濫用法理が直接適用されない形で雇用終了されることが主たる問題となるが、実態論としては、正社員についてできるだけ雇用を維持することが社会規範となっているのに対し、非正規労働者についてはそのような社会規範が希薄で、法律論的にはより厳しく制約されるはずの期間途中の解雇も含めて、雇用終了が手軽に行えるものと考えられていることが重要である。

(1) メンバーシップ型正社員とジョブ型非正規労働者

 そのような考え方の背景にあるのは、正社員と非正規労働者は単に雇用契約に期間の定めがあるかないかだけではなく、その労務提供義務の内容が異なるという社会意識である。すなわち、正社員は雇用契約において職務(ジョブ)が限定されず、企業の一員(メンバー)としてその命ずるあらゆる職務を遂行する義務がある。また、労働時間や就労場所についてもその延長や変更が初めから含意されており、原則としてこれを拒否し得ない。その代わり、職務の有無にかかわらない雇用保障があり、企業には解雇回避努力義務がある。処遇における年功的処遇や企業内教育訓練による技能向上もここから導かれる。これに対し、非正規労働者は基本的に職務を特定して雇用され、労働時間や就労場所も原則として限定されている。その代わり、雇用保障は基本的に存在せず、企業リストラ時には正社員の雇用を維持するために先んじて非正規労働者の雇用を終了することが規範とされてきた。処遇における低賃金や能力開発における正社員との格差もここから導かれる。
 かつては、マクロ社会的に、妻子を養う成人男子を正社員に、彼らに養われる主婦や学生を非正規労働者に割り当てていたため、シングルマザーなど一部を除けばあまり社会的に問題とならなかった。しかし、90年代以降正社員になれなかった若者が非正規労働者となり、低技能、低賃金、不安定雇用から抜け出せなくなっている。一方、正社員はその数が少なくなるにつれ、労務提供の内容的・時間的・空間的な要求水準がより高まっていき、男女共同参画社会の必要性が高まる中、正社員のワーク・ライフ・バランスを確保することが困難となってきている。
 そこで、もはや硬直的となったメンバーシップ型正社員とジョブ型非正規労働者の二極構造を見直し、新たな雇用類型を構築することが求められている。

(2) 非正規労働者からジョブ型正社員へ

 今日、非正規労働者が雇用における不公正をもっとも強く感じるのは、自分が遂行している仕事が現にあるにもかかわらず、契約期間の満了を理由に雇用を打ち切られることであろう。有期契約はもともと双方が期間の定めに合意しているといっても、反復継続して同じ仕事に従事していること自体、その仕事が臨時的なものではなく恒常的なものであることを示している。その意味で、反復継続された有期契約労働者を無期契約労働者とみなすべきとする考え方には一定の合理性がある。
 しかしながら、上記のような正社員と非正規労働者の類型を前提とすると、反復継続されたからといって職務・時間・空間無限定の正社員としての権利義務を直ちに与えることは適当ではない。企業にとっては仕事がなくなった場合の解雇回避努力義務が課せられることが、労働者にとっては職務・時間・空間に限定のない労働義務が課せられることが不利益となる可能性があるからである。
 そこで、労務提供義務において職務・時間・空間に限定があり、その範囲内では雇用保障があるが、それを超えた解雇回避努力義務が企業にない期間の定めのない雇用形態として、「ジョブ型正社員」を設けることが考えられる。一定要件を満たす反復継続した有期契約労働者は、原則としてジョブ型正社員に移行することとなる。この場合、移行する前の有期契約労働者は、一種の試用期間にあるものと考えることができる。
 この形態はメンバーシップ型正社員と非正規労働者の中間的形態と見ることもできるが、そもそも欧米諸国の正規労働者とはこのようなものであり、その雇用保障とはジョブがある限りのものである。重要な点は、経営上の正当な理由がないにもかかわらず、期間満了を理由として雇止めされることがなくなることであり、それゆえ使用者に対してボイス(発言)をすることを恐れる必要がなくなるということである。今日の非正規労働者にもっとも必要な公正・公平とは、何よりも雇止めの恐怖から免れることではなかろうか。

(2) メンバーシップ型とジョブ型の相互乗り入れ

 ジョブ型正社員という働き方は、自分の職務を大事にしたい、自分の時間を大事にしたい、自分の住む場所を大事にしたいと考える現在の正社員にとっても意味のある選択肢でありうる。ワーク・ライフ・バランスの掛け声を単に育児休業などのイベント豪華主義にとどめることなく、日常の職業生活と家庭生活がバランスした生き方を可能にしていくためには、雇用保障の一定の縮小と引き替えに職務限定、時間限定、場所限定の「ワーク・ライフ・バランス型正社員」を権利として確立していくことが考えられていい。
 さらに、仕事と家庭の両立が長い職業生涯の中で一定の時期に発生する課題であることを考えれば、男女ともにライフステージの中でメンバーシップ型とジョブ型を相互に行き来できる仕組みを構築すべきである。

(3) ジョブ型正社員にふさわしい社会保障のあり方

 妻子を養う成人男子を前提とするメンバーシップ型正社員に対しては、そのライフステージに応じて子どもの教育費や住宅費を含めた生計費を賄える年功的賃金が規範とされたため、社会保障は病気や老後への対応に専念することができた。しかし、職務に応じた処遇を前提とするジョブ型正社員の場合、夫婦共稼ぎで生計費を賄うことを原則としつつ、一定の時期に特に必要となる子どもの教育費や住宅費負担を公的にまかなう仕組みを補完的に整備しておく必要がある。これは自分で稼ぐことができないこどもという人生前半期への社会保障として確立されなければならない。
 一方、仕事がなくなったときのためのセーフティネットとしては、メンバーシップ型正社員を前提としたこれまでの雇用政策では、雇用調整助成金のように企業内で雇用を維持しつつその人件費負担を公的に賄うやり方が実質的に中心であったが、ジョブ型正社員については雇用が終了することを前提に、公的失業給付を中心とする本来の仕組みによることとなる。ただし、雇用調整助成金の場合、単に休業するのではなく社内で教育訓練を受けることが多く、これが職業能力の維持向上に役立っていることに鑑み、公的失業給付と公的職業訓練とのリンクをより密接にしていく必要があろう。

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コメント

欧州の派遣業界と日本の派遣業界の比較

1)派遣労働者が受け取る賃金は必ず正規以上と法定 vs 正規の半分以下
2)派遣労働が2年超だと直接雇用義務 vs 期限撤廃して無期限派遣
3)派遣のピンハネ率は10%未満と法定 vs ピンハネ率は自由、平均40%以上
4)企業が支払う総額はガラス張り vs けっして派遣労働者に教えないブラックボックス
5)派遣労働者の巨大全国組合がある vs 何も無い
6)派遣労働は事業拡大時などにのみ使うと法定 vs 正社員をクビにしてどんどん派遣に置き換えてよい


懲りない自民党

自民党のねずみ男 大村が派遣法改正反対と言い放ったぞ

1/18に開かれた日本人材派遣協会の賀詞交換会のあいさつで「改正派遣法案を打ち落としてみせる。撃墜してみせる」と話していました。
by 自民党の筆頭理事は大村秀章元厚生労働副大臣。

ソース
ttp://hakenunion.blog105.fc2.com/blog-entry-118.html

国民の生活を守らないで保守面してんじゃねぇ ねずみ男が

大村のHP 保守を前面に出してる 偽保守野郎
ttp://www.ohmura.ne.jp/nbc_prospectus.html

投稿: a | 2010年5月 2日 (日) 01時05分

最近、上記のような「比較」と称するものがあちこちで見られますが、相当程度に不正確であり、むしろ虚偽というべき点も見られ、ひと言で言えばデマに類するように思われますので、本ブログの読者はじめ、派遣問題に関心を持つ方々は留意されたほうがいいでしょう。

EUの派遣指令およびEU諸国の派遣法制についての最新の正しい知識は、たとえばわたくしの下記論文等を参照されることが望まれます。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/post-b628.html#comment-69419155(『大原社会問題研究所雑誌』2009年2月号「EU労働者派遣指令と日本の労働者派遣法」)


http://homepage3.nifty.com/hamachan/euhaken.html(『季刊労働法』225号「EU派遣労働指令の成立過程とEU諸国の派遣法制」)


投稿: hamachan | 2010年5月 2日 (日) 08時35分

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