日本の働き方~『正社員』の行方~
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「季刊 政策・経営研究」が、「日本の働き方~『正社員』の行方~」という特集を組んでいます。
http://www.murc.jp/report/quarterly/201002/index.html
はじめに荻野進介さんの「揺れる正社員」
http://www.murc.jp/report/quarterly/201002/01.html
http://www.murc.jp/report/quarterly/201002/01.pdf
>日本企業の雇用の本質はメンバーシップ制にある。雇用も、企業と社員の間で交わされる一種の契約に他ならない。特定の仕事があり、それに従事することが予め決められているのが欧米だが、日本では何の仕事につくかは最初から不明である。つまり組織に入り仲間となることこそ、日本の正社員雇用の本質であり、これは江戸時代の商家から連綿と続く自生的秩序といってよい。・・・
>本稿は、年功制の解体による、そうしたメンバーシップ制の弱体化を不可避のものと考え、働く側がメンバーシップを自ら弱めることの効用を説く。具体的には、自宅が職場となるテレワーク、1日あるいは週単位の労働時間を短くした短時間正社員、副業への従事など、働き方の多様化を進めることである。今後の日本には多様な働き方に応じた、多様な正社員が求められる。
- 労働現場で進む「2つの多様化」
- 日本型正社員の歴史
- 原点は江戸時代の商家の奉公人
- 三等重役の登場
- ホワイトカラーとブルーカラーの握手
- 会社人間、社畜という貶め
- 日本企業という袋の構造
- 「三種の神器」とメンバーシップ
- 社会規範としての終身雇用
- 日本型正社員雇用の本質とは
- 変質したメンバーシップ、健在な終身雇用
- 企業への従属性を弱める多様な働き方
- メンバーシップとは奉公関係
- 働き方の多様化を進めよ
- 自宅が職場になる─テレワーク
- 平日の昼間、別の自分になれる―短時間正社員
- 今年はこれだけ稼ぎたい─選択年収制
- アフター5は別の顔─副業
- 時間管理から仕事管理へ、そして自主的定年制
次に久本憲夫先生の「正社員の意味と起源」
http://www.murc.jp/report/quarterly/201002/19.html
http://www.murc.jp/report/quarterly/201002/19.pdf
>本稿では、「正社員」の形成に焦点を合わせる。まず「正社員」についての統計的整理をした後に、正社員の「処遇」と「働き方」という観点からその形成プロセスを検討する。処遇とは、使用者が従業員に提供する労働条件であり、3つの要素に分けてみる。①長期安定雇用、②査定付き定期昇給賃金、そして③昇進機会の提供である。長期的に安定した雇用とまじめに働いていれば賃金が上昇するだけでなく、昇進機会もあるということである。
>こうした処遇を従業員に提供する対価として企業が求めるのが正社員としての「働き方」である。それは、職務の範囲が不明確であり(職務の包括性)、それだけ企業のその時々の要望に即して働くことが当然視される。残業や配置転換、転勤なども企業命令が絶対であり、個人の要望は部分的にしか配慮されない。このように「正社員」を捉えると、それぞれの要素が一気に成立したと見ることが容易ではないことが分かる。総じて言えば、現在の「正社員」は、長い歴史プロセスを経て高度経済成長期に成立し、1980年代の安定成長期に普遍化したといえる。なお、この「正社員」の処遇と働き方は片稼ぎモデルであり、男女雇用平等の観点から見直しが必要となっている。
- 正社員をどう捉えるか
- 呼称としての社員あるいは正社員
- 分析視角
- 社員の歴史
- エリートとしての社員
- 工職身分格差撤廃
- 高度経済成長期における変容
- 正社員の処遇と働き方
- 正社員像……雇用関係の包括性
- 「正社員」処遇の形成
- 「正社員」の働き方の一般化
- 男女雇用平等との齟齬
- 片稼ぎモデルにおける男女平等
- 労働時間への低い関心
- おわりに……WLBと正社員の多様化
いずれも、拙著で述べた論点をさらに深く掘り下げた論文で、大変時宜に適したものです。
先日発行されました岩波書店の『自由への問い6 労働』所収のわたくしの「正社員体制の制度論」も併せてお読みいただければと思います。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post-afee.html
1 日本型雇用システムの本質―職務のない雇用契約
2 長時間労働と転勤を条件とする雇用保障
3 生活給制度のメリットとデメリット
4 陰画としての非正規労働者
5 「正社員」体制とは何か?
6 二〇世紀システムの形成
7 「正社員」体制の原点
8 戦後労働政策と「正社員」体制
9 女性正社員モデルの形成と衰退
10 雇用システムの再構築へ
また、同書冒頭の広田照幸・佐藤俊樹対談もどうぞ。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post.html(「コミュニケーション能力」論の罪)
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