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2010年5月26日 (水)

『イノヴェーションの創出 -- ものづくりを支える人材と組織 』

L16356 尾高煌之助,松島茂,連合総合生活開発研究所編『イノヴェーションの創出 -- ものづくりを支える人材と組織』(有斐閣)をお送りいただきました。ありがとうございます。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641163560

>企業の生産活動を維持し,革新によりさらなる発展に結びつけるために,生産現場はどうあるべきか。日本の製造工業の強みを抽出し,ますますグローバル化が進んでいく経済・社会における産業と労働のあり方を,歴史を踏まえた大きな視点のもとに描き出す。

ということで、

内容は次の通りです。

序 章 グローバル経済下の産業競争力を考える=尾高煌之助
第1章 製品技術・生産技術・製造技術の相互作用──トヨタ技術者のオーラル・ヒストリーからの考察=松島茂
第2章 自動車部品二次サプライヤーにおける技術革新──昭芝製作所の競争力の源泉=山藤竜太郎・松島茂
第3章 産業機械産業における「探求」を促す人材組織戦略──粉体機器業界の製品開発=梅崎修
第4章 鉄鋼製品開発を支える組織と人材──JFEスチールの自動車用ハイテン鋼板=青木宏之
第5章 化学産業における技術革新と競争力──三井化学,プライムポリマーによる汎用樹脂事業=西野和美
第6章 情報通信産業における研究開発と事業創造──NTTの総合プロデュース活動=中島裕喜
第7章 ソフトウェア産業における経営スタイルの革新──カスタム・システム開発を支える人事システム=藤田英樹・生稲史彦
終 章 現代に生きる歴史=尾高煌之助

本書については、連合総研の『DIO』5月号に、澤井景子さんによる紹介が載っていますので、そちらを引用します。

http://rengo-soken.or.jp/dio/pdf/dio249.pdf

> 一口に技術革新(イノヴェーション)といっても、新素材の開発といった研究所における製品技術・生産技術の開発と、工場における組み立ての「だんどり」のカイゼンなどの製造技術では、対象とする技術の種類は全く異なる。技術が違えば、主に担当する労働者の姿も異なる。前者では、主に研究所で実験する大学卒・大学院卒の研究者の姿が思い浮かぶし、後者は工場で働く高卒の技能者が思い浮かぶであろう。

 組織というものは得てして「縦割り」に陥りやすい。しかし、日本のものづくり企業では、このように大きく異なる技術、異なるタイプの職種、異なる職場の間で、企業内の異なる分野をまたいだ知恵と情報の交流によって、技術の相互作用が生じ、連鎖的にイノヴェーションがおきるのではないか。これが本書の作業仮説である。

 終章では、この組織内の人的交流および情報交換を「職場連繋モデル」と呼んでいる。典型例はトヨタで、自動車産業や機械産業では研究蓄積も比較的豊富にある。しかし、このモデルが、自動車産業とは異なる条件の産業にも当てはまるかについては、実証分析は乏しかった。

 本書の特徴の一つは、幅広い産業に属する企業を対象としたことである。章立てに示されているように、トヨタの技術革新についての歴史を検証した(第1章)上で、自動車産業の二次サプライヤーである金属プレス加工業(第2章)、自動車産業のような大量見込み生産ではなく受注生産の産業機械(第3章)、加工組立工業ではなく、装置産業である鉄鋼業(第4章)、鉄鋼業以上に装置産業の性格が強い化学工業の汎用樹脂(第5章)、さらに製造業の枠を超え、情報通信業(第6章)、通説では競争力が弱いソフトウエア産業(第7章)まで、分析対象を広げている。

 その結果、業種の壁を越えて、「職場連繋モデル」といえるものが観察できることが発見された。日本の企業においては、イノヴェーションの創出に関して、職場(場合によっては、企業内だけでなく企業間も含む)における緊密なコミュニケーションが重要な条件の一つとなっていると考えられる。

 本書においても複数の章で、異なる職種や組織の壁の中で、自然体では、衝突あるいは分断が生じる危険が高いことがうかがわれる。しかし、企業では、人事配置や組織面で工夫をし、緊密な知恵と情報の交流を実現することによって、イノヴェーションを創出してきた。

 この背景として、終章では、欧米と異なり、日本では明瞭なjobの概念がないために職種をまたぐ「相乗り」が可能となったのではないかという考察が行われている。海外企業の調査を行っていないために、断言はできないが、職場連繋モデルは、日本企業ならではの強みである可能性がある。

時間のない人はまず先に読めといわれている尾高先生の終章において、この「職場連繋モデル」の歴史的背景をこう説明しています。

>徳川時代以来現代に至るまで、日本の職場には、身分差はあっても欧米におけるほど明瞭な(マギレのない)職種(job)概念が成立せず、したがって異なる職務相互間で「相乗り」が生ずる可能性が存在した。他方、明治維新以降も厳然として存在した職場による身
分差(とりわけホワイトカラーとブルーカラーとの間の社会的差別)は、第二次大戦後の経済民主化のなかで名実ともに撤廃された。これらの事情は、職場間の業務連繋を推進する隠れた促進要因となったと考えられる。

さて、上でも書かれていますが、自動車産業を初めとした分野ではこういう日本的競争力についての研究は積み重ねられてきていますが、ソフトウェア産業はそれが駄目な産業という風にいわれている中で、本書第7章はあえて異議を唱えているので、ここは注目してみる値打ちがあります。

> 日本のソフトウェア産業については、競争力が弱いというのが通説である。しかし、本章の著者たちによれば、ユーザーの業務、さらにその背後にある意図まで踏み込んだソフトウェア開発を行うことに、真の強みがあるとしている。

 ソフトウェアの製作を「工業化」することによって、すなわち、その開発活動を標準化されたプロセスに分割し、さらにそれらプロセスの遂行を、密接なコミュニケーション網で結び合わされた多能工的なプログラマが担当することによって、日本のソフトウェア産業は十分に競争力を発揮できるという。

 さらに、本章の著者たちによれば、上記の生産システムは、いわゆる「日本的経営」によって効率よく機能する。すなわち、企業収益をあげるだけを目的とせず、働くことに意義と喜びとを見出す仕事集団を維持・発展させることが可能である

ここは、まさにソフトウェア業界にいる人々をはじめとしていろんな意見のあるところでしょう。わたくしには判断が付きかねるところではありますが、是非多くの方々が本書を読まれて、賛否いずれにせよ、いろいろな意見をぶつけると良いと思います。

あと、個人的に読んで興味をそそられたのは、第3章の粉体機器メーカーの話です。そもそもいままで、粉体機器という言葉も知らなかったのですが、ここで描かれている技術者のキャリアパスは様々なことを考えさせてくれます。

>大量見込み生産ではなく、注文生産に携わる産業機械の事例として、粉体機器メーカーを対象に、その製品開発と人材組織の間の関連性について検討を行っている。

 製品の開発や改良を行うため、奈良機械製作所では、機能別組織とプロジェクトチーム制が採用されているので技術者間の協力が促進されるが、人事評価には困難が伴う。他方、ホソカワミクロンは、事業部制なので人事評価の難易度は比較的低いが、技術者間協力が促されるかどうかには問題がある。ただし、現在では、二社とも人材組織を移行中であることから、担当者間の柔軟な協力とともに、仕事の動機づけをはかる組織の設計が、少量の産業機械生産にとって共通の課題といえよう。

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