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« 『生存学』第2号 | トップページ | ベルギーでブルカは禁止! »

2010年4月 4日 (日)

「卒後3年新卒扱い」というおまけよりも本論を読んでほしい

先日(3月29日)、朝日が「卒業後3年は新卒扱いに 大学生の就職、学術会議提案」という、報告書のごく一部だけ取り上げた記事を書いたのを受けて、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/post-a8ee.html

昨日の朝日の社説が

http://www.asahi.com/paper/editorial20100403.html#Edit1

>さらに進めるべきは、大企業が実施してきた新卒一括採用という方式の見直しである。日本学術会議の分科会が、大学生を卒業後3年間は新卒と同様に扱うよう提案した。だが、新卒以外の若者が「既卒」として不利に扱われる現状を抜本的に改善する道を考える時ではあるまいか。

などと、いかにもこの検討会が「卒後3年新卒扱い」という枝葉末節的対策だけを主張しているようなことを書いていますが、そればっかり強調しているのは朝日の記事なのであって、当の検討会の報告書はまさに「現状を抜本的に改善する道」を縷々書いているんですけど。

薄っぺらな評論家諸氏が、新聞記事だけで

http://news.livedoor.com/article/detail/4691109/(【赤木智弘の眼光紙背】1年でダメなら、3年間新卒ということにすればいいだって!?)

>現状を考えれば無理なのは理解するが、せっかく国のお金でやっていることなんだから、現状に合わせるだけの場当たり的な提言ではなく、根源的に就職システムを捉え直すような、意欲ある提言を行って欲しい。現状認識もできておらず、意欲的なことも書けないというのでは、ガッカリと言う他ない。

とか、

http://blog.goo.ne.jp/jyoshige/e/96aeeb34f6e0be8df8e6c5582d982a57対症療法で問題は解決しない

>こちらはまだ最終報告書として出されたわけではないので現段階で失敗例として取り上げるのは酷な気もするが、どう考えても実のある政策は出てきそうにないのでピックアップした。
これも構造は上記とまったく同じ。構造上の課題にメスを入れずにスローガンを掲げたところで、何も変わりはしない。

とか書き散らすのはまあ仕方がないとはいえ、報告書のおまけの部分だけ取り上げた記事を書いた新聞が、それを前提に社説を書くのはちょっといかがなものか、と。

確かに現時点ではまだ最終報告書としてはとりまとめられていないし(注)、日本学術会議のHPには最新の原案も掲載されていないので、上記記事だけであれこれ勝手なことを言われるのもしかたがないのかも知れませんが、自分で勝手に切り縮めた矮小な玩具相手にあれこれケチを付けるという商売もいささか阿漕な感じもします。

(注)分科会は既に終了し、文案もほぼ固まっていますが、上部委員会との関係で、なお文言の調整中ということです。

そこで、現時点で最新のバージョンが掲載されている中央教育審議会キャリア教育・職業教育特別部会の3月9日の資料を紹介しておきます。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo10/shiryo/1291485.htm

ここでは、大学と職業との接続検討分科会の高祖座長から、次のパワポ資料と、その時点の報告書をもとに、審議状況の説明がされています。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo10/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2010/03/25/1291485_1.pdf

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo10/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2010/03/25/1291485_2.pdf

パワポ資料が良くできているので、それを引用していきます。当検討会に関わっては、

まず、「問題状況の構造(特に「文系就職」において顕著な問題)」として、

>右肩上がり経済の下での「接続していない接続」
・職業能力形成に無関心な大学教育
・大学教育の成果を殆ど問うこと無しに、企業内で能力開発を行う日本的雇用システム
・・・それでも殆どの学生が就職できた

日本的雇用システムの動揺と縮減
・しかし学生は、大学教育で身に付けた職業能力を殆ど主張できない状況で、セーフティネットもないまま、就職活動に臨むことを余儀なくされている。
(一種のジェネラリスト的能力の突出した強調:万能人材?)
・・・「ロストジェネレーション」を生んだ構造は手つかずのまま

という認識を示し、続いて「これまでの対応について」として、

>問題状況の構造を踏まえた総合的な対策の欠落
大学、企業、政府の何れにおいても、問題状況の構造を踏まえ、3つの要素の相互依存的な関係を理解して、従来の大学と職業との接続を変革しようとする動きは未だ見られない。
・大学教育
・労働市場・企業の人事制度
・両者をつなぐ就職・採用活動

若者の移行問題についての発想転換の必要性
経済環境の変化に伴う「移行」の恒常的な困難性:若者の「勤労観・職業観の醸成」を企図した対応だけでは限界

と整理した上で、「大学と職業との新しい接続の在り方」として、「「専門性」の持つ可能性に注目して」次のように提示します。

>日本的雇用システムの動揺と縮減→正社員と非正規労働者の二極分化を超えて、多様な局面で人々が自らの力を発揮し高めていくことのできる社会を目指す必要性

雇用の一定の流動性と、専門性を要する業務を担う人材の確保を両立させる、新しい社会システムの設計と、それを支えるセーフティネット(職業訓練の付与を含む)の構築

地域におけるディーセントワーク拡大につながる専門職業の発掘・育成と、そのための雇用・教育・産業の連携

大学でも、教育の出口である職業との対応性が意識され、専門教育の職業的意義がより高められることが重要
専門性を媒介とした新しい「接続」の在り方

これこそが当検討会が提示している最も重要なメッセージなのですが、残念ながら上記記事でも社説でも、また上記記事だけで書き散らされた評論でも、何の関心も向けられていないのですね。

次が就活問題ですが、これも、記事が注目する卒後3年新卒よりもずっと重要な論点がきちんと提起されています。

まず「現状をどう理解すべきか」

>早期に開始しているにもかかわらず、なかなか決まらない→学生は精神的に疲弊し、企業も徒労感

無駄の拡大:大勢集まるが大勢ふるい落とされる
・学生の側: エントリー件数の増大
・企業の側: 選考対象とする母集団の拡大

では単純に規制すればよいのか?
・学生の側: 現実の就職・雇用環境の厳しさから来る不安
・企業の側: グローバル経済の下での競争の激化
規制のみで対処しようとする手法には大きな限界

これに対して、「「就活問題」への対策枠組みの抜本的な拡大」が必要だと提起します。

>専ら「早期化」だけを問題にしていればよい時代ではない

学生が意義の乏しいエントリーの多発に走らずにすむよう、適切なキャリアガイダンスを充実

徒な「就活の早期化」は抑制する一方で、企業を含めた「外の世界」を知る機会は、むしろ早期から整備

学事日程と就職活動の両立のために、土日祝日や長期休暇の有効活用などを折り込んだ具体的なルールやプロセスを大学と産業界とが協働して整備

「就活」に伴う学生の負担の軽減と、就職できない若者に対するセーフティーネットの構築

大学教育の職業的意義の向上と企業による適切な評価

このうち、「学生に対する支援の充実」として、

>大学におけるキャリアガイダンスの在り方
・就職活動に役立つスキル形成やノウハウの伝授、資格取得の促進等に取組みが集中してしまう傾向
学生の生涯にわたるキャリア発達や職業的自立への主体的準備のプロセスを見通し、幅広い視点に立つべき
・大学の教育課程全体の中での有機的位置付け、とりわけ専門課程との連携の重要性

就職活動に伴う負担の軽減
・地方の学生が大都市圏で就職活動を行う際の宿舎支援
・学生のストレスや企業の負担の軽減に寄与する今日的な行動倫理の形成

また「就職できない若者に対するセーフティーネット」として、

>第2の「ロストジェネレーション」を作らないための包括的なセーフティーネットの構築

大学は、卒業後最低3年程度は在学生と同様に就職支援の対象とし、ハローワークや民間の職業紹介・派遣事業等とも協力してマッチング機能を充実

現在政府で取組まれている「第2のセーフティネット」(緊急人材育成・就職支援基金による訓練・生活支援給付制度)の恒久化

「ジョブカード制度」を活用した職業能力開発・評価制度等を活用し、企業の側も安定した雇用機会の提供に努める

企業の採用における「新卒」要件の緩和

大学を卒業して直ちに採用されなければ、その後に正社員となる可能性は非常に狭いものとなる採用慣行

新卒要件が厳格に運用される場合、個人のライフコースの特定の時期にリスクを集中させるとともに、景気の変動を通じて、世代間でも特定の世代にリスクを集中させる効果

卒業後最低3年間は、若年既卒者に対しても新卒一括採用の門戸が開かれることを当面達成すべき目標だとして
倫理指針や法的措置による一律の規制が有効か?
「新卒」にこだわらない方針の企業の公表が有効か?

ここでようやく「卒後3年新卒扱い」がでてきます。

しかし、いうまでもなく本当に重要なのは「就職・採用活動の実質化」です。

>無駄が多い現状の就職・採用活動

学生も企業もお互いに、ある種の表面的な魅力や特性をアピールし、評価し合っているという面が強すぎるのではないか。

もっと実際の「仕事」と強く結びついた、基本的で実質的な事柄をめぐって就職・採用活動が行われるような在り方はないのか。

という問題意識から、「職種別採用の持つ可能性」を論じていきます。

>一括採用方式(従来一般的な方式)
・採用段階では配属先は分からない
・ジェネラリスト的な資質の重視

職種別採用方式(近年すこしずつ拡大)
仕事に対する目的意識の高い学生を採用できる可能性
・仕事の内容がある程度予見できることから、早期離職率の
低下
にも一定の効果
・特定の仕事内容への対応性という観点から、大学教育、
とりわけ専門教育の意義に対する評価が高まる可能性

大学と職業との新しい接続のかたを担う可能性

報告書が「大学と職業との新しい接続のかたち」として提起しているのは、まさにこういう大学教育のあり方、雇用システムのあり方に関わる問題なのであって、それをたかだか「卒後3年新卒扱い」という当面のセーフティネットの一部だけで捉えられるべきものではありません。

>今後目指すべき方向 大学と職業との新しい接続のかたち

大学教育の職業的意義の向上

大学で学んだ内容と求める人材像との適合性を重視した志望動機・採用基準に基づいて、大学教育の概ねの課程を修了した段階で開始される就職・採用活動

卒業後も求職活動や適職探索を行う余地が幅広く認められる初期職業キャリア

専門性を重視した職業上の知識・技能に応じて正規雇用・非正規雇用間で均衡した処遇がなされる労働市場

必要に応じて何度でも学び直せるリカレント学習の拡大

生活支援と職業訓練機会の付与、就職支援とが一体となったセーフティーネットの構築

その詳しい説明は、報告書案の方をじっくり読んでいただければと思います。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo10/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2010/03/25/1291485_2.pdf

(参考)

報告書案の最後に付いている図解がわかりやすいと思いますので、ここに貼り付けておきます。

Voc

(追記)

その後、さらに最新のバージョンがアップされていますので、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post-aa46.html(日本学術会議大学と職業との接続検討分科会報告書案最終版)

http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/daigaku/pdf/d-17-1-1.pdf

も参照下さい。

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