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2010年4月20日 (火)

蟹沢孝夫『ブラック企業世にはばかる』

9784334035600 蟹沢孝夫『ブラック企業世にはばかる』(光文社新書)をお送りいただきました。有り難うございます。「ご書評の機会がありましたよろしくお願い申し上げます」とのことなので、わたくしなりの立場から書評しようと思います。

表見返しには、

>外見はマトモなのに、内実はとんでもないブラック企業。
あなたの職場は、次のいずれかに該当するだろうか?

(1)「新卒使い捨て」の肉食系
(2)成長のチャンスを奪う草食系
(3)大手だけど「時給がマックやコンビニ以下!?」のグレーカラー

このような職場に苦しんでいるのは、決して若者だけではない。
いま勝ち組企業に勤める中高年も、いつ「明日はわが身、いやわが子の身」となるかもわからない……。
本書が描き出すブラック職場はフィクションではない。その実態は、600人以上の転職支援を行った著者の経験とキャリアカウンセラーとして内々に入手した情報にもとづくものである。後半では、転落者が再チャレンジできる方策について徹底的に検証する。

とありますが、これだけ読むと、「ブラック企業の実態を暴く」ルポみたいですが、おそらく著者の主眼は

第二部 脱・ブラック職場――日本の雇用はなぜ「理不尽」なのか?

の方にあるように思われます。

ここではまず第4章で「勝ち組大手企業は『加害者』だ』」と主張しますが、この『加害者』という表現は一般的に高給だから云々というようなものではなくもっと生々しいものです。第1部でもいくつも例示されているのですが、多重請負構造の中で、元請け側の大手企業が無茶苦茶な発注をしたり、それをまた途中で何回も変更したりして、そのわがままに下請け側が振り回され、結果的にブラック企業化せざるを得ない、まさに企業間の権力構造に基づく『加害者』であることが説得的に示されています。

次の第5章は「新卒採用中心主義にメスを」で、なぜブラック企業はなくならないかというと、新卒採用中心主義のために中途採用の道がなかなか開けず、勝ち組企業どころかまともな企業にも移れないからだと主張します。これもおおむねその通りでしょう。この章で、「新卒就職失敗組に一番門戸を開いている業界とは?」という節がありますが、さてどこの業界だと思いますか?答えはお役所。公務員試験に年齢制限はありますが、その範囲内であれば既卒者も受験できるのですから。

第6章の「転職35歳限界説が日本をダメにする」では、ブラック企業の実態を見続けてきた人としては、いささか単純な議論が展開されているように思われます。それは「正社員を解雇しやすくせよ」という表現に現れています。解雇というものの様々な面がいささか忘れられているようです。

企業経営上の整理解雇という面では、「解雇しやすくすることで、一度雇うと一生面倒見なきゃいけないのか、となりがちな採用側の慎重姿勢をゆるめさせようというのである」という論理には一理あり、とりわけ社会の病理に疎く生理のみを観察しがちな経済学者からは繰り返し説かれる議論です。

しかし、云うまでもなくこれは蟹沢氏の云う「勝ち組企業」、大企業正社員にのみ着目した議論で、本書で蟹沢氏が繰り返し例示しているブラック企業においては、「俺の云うことが聞けないようなやつはクビ」というのが日常の風景であり、解雇規制の緩和どころか、実態としては何ら機能していない解雇への制約を少しでも強め、ある程度の金銭賠償を勝ち取ることができるようにすることの方が遥かに重要であることは、重々承知のはずなんですが、なぜかその辺はあまり意識されていないようです

わたくしは、不当な解雇もひとまとめにして緩和するようなやり方は、ただでさえしんどい労働者の状況をかえって悪化させるだけであると思われます。むしろ、ジョブがある限りは雇用が守られるが、ジョブがなくなればそれ以上雇用責任はないジョブ型正社員という発想を広げていくことの方が、企業にとっても労働者にとっても受け入れやすい道ではないかと思いますが、これは書評を超えるので、これだけにしておきます。

書評は以上で終わりです。

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以下は書評ではありません。「反書評」でもありません(笑)。

本書の著者である蟹沢孝夫氏の発言についての、若干のコメントです。

http://blog.goo.ne.jp/kanisawatakao/e/7235549ca302b912803d192dc6dac797(労働政策での小競り合い…。)

>一方、旧労働省出身の濱口桂一郎氏はEU労働法政策雑記帳という火を噴いたブログで、やはり城氏をトンデモよばわり。

この濱口氏はアルファブロガーの
池田信夫氏とも一時期大げんか(子どもの喧嘩かも?)したことでも有名だが、なんつーかこういう人格攻撃は大人のやることではないように思うが、いかがだろう。

子どもの喧嘩とまで人を罵るのですから、それ相応の覚悟はあるのでしょうね(笑)。

労働問題について、きちんと論点を提示して批判したわたくしに、一切中身の議論はすることなく、もっぱら属性批判「のみ」を繰り広げたのが池田氏であることは、本ブログをお読みの方々には既に承知のことですが、蟹沢氏にとっては、属性批判しかしない方が「大人」で、きちんと論点を挙げて批判する方が「子ども」であるようです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/08/post-5545.html(池田信夫氏の「書評」)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/12/3_a7ad.html(池田信夫氏の3法則)

そういう価値判断基準をお持ちであるなら、「大人」らしく池田信夫氏流の「反書評」をしてさしあげるのも一興かとも思いましたが、そんなことをしても何の益もありませんし、読まれるべき書物を読まれるべき書物として世に紹介することは、下らぬコメントよりもはるかに重要ですので、そういう言葉の真の意味での「子ども」じみた所業は池田氏だけに委ねておきます。

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最後に再び書評モードに戻って

本書のあとがきに、ご自分の職業紹介業界について

>だがその実態は、とても「人生のアドバイザー」などではなく、ただの「人売り」商売人であった。

という一節があります。

おそらくこの一節には蟹沢氏の様々な思いが込められているのでしょうが、単純にシニカルな言葉と言うよりは、人材ビジネスが本当の意味での「人生のアドバイザー」になりうることをどこかで願っていることの表れであるように感じられました。

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コメント

そうか、だから「整理解雇要件の緩和」と「解雇における金銭補償の強制」のバーターという話が出てくるのか。

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