「労働政策審議会による答申等の尊重に関する意見」及び「出先機関改革に関する意見」
すでに新聞等でも報じられていますが、昨日開催された労働政策審議会において、標記2つの意見書が公労使三者一致で採択され、厚生労働大臣に手渡されたと言うことです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000005i7q.html
>厚生労働省としては、これらの意見を踏まえ、適切に対応してまいります。
いやもちろん、厚生労働省としてははじめからそういうつもりなんでしょうけど、政治的にその・・・なかなか適切に対処しがたい状況等もこれあり・・・。
ということで、以下にその意見書を引用いたします。
なお、三者構成問題については、ちょうど労働政策研究・研修機構において昨年度実施してきました「政労使三者構成の政策検討に係る制度・慣行に関する調査-ILO・仏・独・蘭・英・EU調査」の報告書がまとまったところであり、もうすぐJILPTのHPにも掲載されると思いますので、その際に今までの経緯等も含め、本ブログ上で改めて取り上げてみたいと思います。
まず、「労働政策審議会による答申等の尊重に関する意見」
>昨年12月28日、本審議会が、厚生労働大臣に答申した「今後の労働者派遣制度の在り方について」を踏まえた「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律案」の要綱について、本審議会は、本年2月17日に厚生労働大臣から諮問を受け、同24日に、全会一致で答申した。
しかしながら、今般、政府は、この法律案について、3月19日に本審議会の答申とは異なる形で閣議決定を行い、3月29日に、国会に提出した。このような取扱いは、本審議会の答申が、公労使三者により真摯な議論を積み重ね、ぎりぎりの調整を行った結果であることにかんがみれば、遺憾である。
本審議会が雇用・労働政策の企画立案に不可欠であり、ILOの三者構成原則に基づく非常に重要な意義を有するものであることを踏まえ、本審議会は、政府に対し、労働政策審議会の意見を尊重するよう、強く求める。
次に「出先機関改革に関する意見」
>現在、政府は地域主権改革の一環として出先機関の抜本的改革に取り組んでいる。
これに関し、去る3月23日には、全国知事会に設置された国の出先機関原則廃止プロジェクトチームは、労働局並びに労働基準監督署及びハローワークを地方移管すべき旨を示したとりまとめを行った。今後、内閣府に設置された地域主権戦略会議において、出先機関の抜本的改革について検討するとされているが、これらの点についての、当審議会の意見は以下のとおりである。
1 ハローワークの地方移管について
ハローワークの地方移管に関する当審議会の意見は、平成21年2月5日付け「地方分権改革に関する意見」に記したとおりであり、改めて以下のことを確認する。
ハローワークは、憲法第27条に基づく勤労権を保障するため、ナショナルミニマムとしての職業紹介、雇用保険、雇用対策を全国ネットワークにより一体的に実施しており、障害者、母子家庭の母、年長フリーター、中高年齢者などの就職困難な人に対する雇用の最後のセーフティネットである。
ハローワークの業務は、以下のような理由から、都道府県に移管することは適当でなく、国が責任をもって直接実施する必要があり、これは先進諸国における国際標準である。
① 都道府県域を超えた労働者の就職への対応や、都道府県域に限定されない企業の人
材確保ニーズへの対応を効果的・効率的に実施する必要があること。
② 雇用状況の悪化や大型倒産に対し、迅速・機動的な対応を行い、離職者の再就職を進め、失業率の急激な悪化を防ぐ必要があること。
③ 雇用保険については、雇用失業情勢が時期や地域等により大きく異なるため、保険集団を可能な限り大きくしてリスク分散を図らないと、保険制度として成り立たないこと。
④ 地方移管は我が国の批准するILO第88号条約に明白に違反すること。
したがって、国の様々な雇用対策の基盤であるハローワークは地方移管すべきでなく、引き続き、国による全国ネットワークのサービス推進体制を堅持すべきである。
一方、地方自治体が独自に地域の実情に応じた雇用対策をこれまで以上に積極的に進めることは望ましいことであり、国と地方自治体が一体となって、その地域における雇用対策を一層強化する必要がある。また、我が国のハローワークは主要先進国と比べても少ない組織・人員により効率的に運営しているところであるが、さらに、ハローワーク自身も雇用状況の変化に応じて、業務内容を適切に見直し、機能の強化や効率的な運営を心がけるべきである。
2 労働基準行政、雇用均等行政、個別労働紛争対策等について
労働基準法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法、男女雇用機会均等法、労働者派遣法等の基準の設定及び履行確保のための監督や指導、労災保険における認定業務は、現在国並びに労働局及び労働基準監督署において直接実施している。このような業務については、地域の状況等によらず全国統一的に労働者を保護する必要があること、全国的な問題事案に一斉に対応する必要があること、公正競争の確保の観点からも労働関係の規制の適用には厳密な全国統一性が求められること等から、国の責任によりそれらを担保する形で実施される必要がある。
また、個別労働紛争対策については、国は労働基準監督署をはじめ労働法令の施行機関を有し、都道府県は三者構成の労働委員会を有しており、国と都道府県のそれぞれに特長があるので、現在の複線型の仕組みを活かし、両者がそれぞれの特長を最大限に発揮しつつ連携協力することが重要である。
なお、政府において、事業仕分け的な手法も用いて出先機関の仕分けを行うことを検討しているとも聞くが、労働局並びに労働基準監督署及びハローワークに係る出先機関改革は、労働政策の実施体制の在り方そのものにもかかわるものであり、労働政策に関する重要事項として当審議会において審議されるべきものである。今後、政府においては、このことを踏まえた適切な対処を要望する。
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民社国三党により真摯な議論を積み重ね、ぎりぎりの調整を行った結果であることもかんがみなければ。
労働政策審議会の構成が公労使であって、政労使ではないからこのような問題が生じるのではないでしょうか?
投稿: いたりあん | 2010年4月 2日 (金) 12時55分
現在ハローワークは国の組織なので、全国どこのハローワークでも利用できるし、全国の求人が公開され、紹介を受けることができます。地方移管になると、その都道府県の予算で運営されるので、近隣の地域の方でも、他の都道府県の方はお断りということになるのでは?求人情報も公開しないかもしれません(その自治体の予算で開拓したので)。
実際、最近の「緊急雇用開発求人」では、発注した自治体以外の地域の求職者が採用され、議会で問題になったという話もありました。
ハローワークの地方移管は、誰に何のメリットがあるのでしょうか?
投稿: 地方のハローワーク職員 | 2010年4月 3日 (土) 00時46分