« ブロゴポリス | トップページ | 研修生は労働者に非ず? »

職場のメンタルヘルスとプライバシー

既に北岡大介さんの「人事労務をめぐる日々雑感」が取り上げていますが、

http://kitasharo.blogspot.com/2010/04/blog-post_20.html(うつ病チェック、企業健診で義務化へ)

朝日が

http://www.asahi.com/national/update/0419/TKY201004190466.html(うつ病チェック、企業健診で義務化へ 厚労相方針)

という記事を出しています。

>長妻昭厚生労働相は19日、企業が行う健康診断で、精神疾患に関する検査を義務づける方針を示した。労働安全衛生法の改正も検討する。増え続けるうつ病や自殺を防ぐ狙い。都内で記者団に述べた。

 労働安全衛生法は、原則として1年に最低1回、従業員の定期健康診断を行うことを事業主に義務づけている。違反すれば50万円以下の罰金となる。労働者にも受診義務があるが、罰則はない。同法規則が定めている検査項目には、血圧や肝機能、血糖などはあるが、問診も含めメンタルヘルスに関する項目は明示されていない。

 厚労省は1月に「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム」を設置しており、近く中間報告がまとまる予定。中間報告には精神疾患に関する検査の必要性を指摘する内容が盛り込まれる方向だ。同省安全衛生部の担当者は「法改正が必要か、省令改正で間に合うかも含めて検討することになる」と説明している。

 同省によると、2008年度のうつ病を含む精神障害などの労災請求件数は927件で、認定件数は269件。00年と比べると、請求件数は4倍以上、認定件数は7倍以上に増えている。

これは、安全配慮義務が大事かプライバシー保護が大事かという大問題に関わるテーマです。

かつて、『季刊労働法』でこの問題を取り上げたことがあります。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/karoushi.html(「過労死・過労自殺と個人情報」)

>6 労働者の何を保護すべきなのか?
 
 このように見てくると、労働者の健康と安全を保護するための過重労働・メンタルヘルス対策と、労働者のプライバシーを保護するための健康情報保護対策とは、必ずしも整合的であるとは言いきれないということがわかります。もちろん、労働者のプライバシーを最大限尊重しながら、その健康と安全に最大限配慮するのが望ましいことは言うまでもありませんが、限界的な事例では両者の矛盾が露わになることも否定できないのです。
 最初に見たように、脳・心疾患はもともと生活習慣病と呼ばれ、その意味では個人の問題でした。個人の問題である限り、それに関わる健康情報も個人のプライバシーに属すると簡単に整理することもできました。ところが、過労死が社会問題化する中で、それが業務によって著しく増悪した場合には労災補償の対象になったり、民事損害賠償の対象になったりするようになり、その意味ではもはや個人の問題とは言えなくなってきました。使用者にはきちんと労働者の健康管理を実施し、過重労働によって病変が増悪しないように配慮する義務が課せられるようになってきたのです。
 そうすると、労働者の側にも、使用者を労災補償や民事損害賠償の責任に追い込まないために、一定の健康情報を使用者に提供する義務があるのでなければ、バランスがとれなくなります。自分のプライバシーを使用者に明かすのはいやだが、その結果自分が脳・心疾患で倒れたらおまえの責任だから補償しろというのはいかにもおかしいでしょう。
 逆に個人のプライバシーを優先して考え、本人が受診を拒否すれば、使用者は民事上の安全配慮義務を免れるという考え方もあり得るでしょう。昨年10月の第108回日本労働法学会で砂押以久子氏はそういう考え方を打ち出しておられます。これはこれで整合性のある一貫した立場です。
 一方、労災補償は認定基準に基づいて客観的に行われますから、本人の受診拒否によって労働基準法上の補償責任を免れるということはありません。無過失責任とはいいながら、割り切れない感じが残ります。
 この問題をは、企業と労働者の関係をどう見るべきかという哲学的なものに至るのかも知れません。

脳心疾患よりも、メンタルヘルスの方が、はるかに個人のプライバシーのコアな部分に関わります。

やはり哲学的な議論が必要なのでしょう。

|

« ブロゴポリス | トップページ | 研修生は労働者に非ず? »

コメント

必要なのは哲学的な議論ではなくメンタルヘルス疾患にかかった時の雇用を含めた収入の問題ではないでしょうか
うつ病にかかると会社、特に中小企業は様々な理由をつけて解雇します。つまり発病=失職が現状です。行政の水際作戦と称する不正な窓口での阻止など年齢が若ければ生活保護も受けにくい。
現代の日本において主収入者のメンタルヘルス疾患は死を意味するわけです。それでは会社に知られたくないのは当然でないでしょうか。
ここでも問題は日本における雇用を変化させる必要があります。
私は解雇規制撤廃には賛成のほうですが、解雇規制撤廃を実現するには北風ではなく太陽で行わなくてはいけないと考えています。
具体的には法律の解雇規制を撤廃するのではなく職を失っても生活できる収入の保障を国が実視することではないかと思います・
そうすれば必要以上に就職中の会社へ執着する必要が無くなり労働者も解雇に対して反発することはなくなるでしょう。
どうも解雇規制撤廃論者にはともすれば法律の改正を声高に主張して解雇された人が生きていくセーフティネットについてはほとんど言及していない人が多いように見受けられます。そのような方々は解雇規制が撤廃されても自分は絶対安全なエリアに在住されているように思えるんですがね。

投稿: SE | 2010年4月21日 (水) 12時45分

むしろhttp://togetter.com/li/14588で
取り上げられてるような話にもつながってきますね。

投稿: koge | 2010年4月21日 (水) 18時33分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 職場のメンタルヘルスとプライバシー:

« ブロゴポリス | トップページ | 研修生は労働者に非ず? »