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2010年4月15日 (木)

それはそもそも業務限定に根拠がないと言ってるのと同じ

本ブログでもおなじみの「さる」さんが褒めているのですが、これはいただけません。理屈がただの屁理屈になってしまっています。

http://ameblo.jp/monozukuri-service/entry-10508112248.html(木村大樹氏による「専門26業務派遣適正化プラン」への反論)

http://www.chosakai.co.jp/alacarte/a10-04-2.html(法令を遵守していても法的責任を問われるリスク)

本ブログや拙著の読者は既にご認識の通り、わたくしも専門26業務の適正化などということには意味がないと思っていますが、それをこういう理屈で言ってしまってはいけません。

>一見もっともらしいが、まず誤っているのは、専門26業務という言い方である。その根拠となる労働者派遣法第40条の2第1項第1号では、①その業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務、②その業務に従事する労働者について、就業形態、雇用形態等の特殊性により、特別の雇用管理を行う必要があると認められる業務、のいずれかに該当するもので、政令で定めるものと規定している。

 ①については、一見専門と読めるかも知れないが、その業務を遂行するために専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務とは規定されておらず、その業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務としてあるのだから、専門的な業務であることを求めている訳ではない。加えて、②があり、たとえば、同施行令第4条第15号には「建築物における清掃の業務」がある。

 このことからも明らかなように、法律は専門的な業務であることなど要求していないのである。

残念ながら、これは典型的な「法匪」の論理になってしまっています。

ファイリングは別に専門的な業務じゃないんだよ。ファイリングを迅速かつ的確に遂行するためにには専門的な知識、技術、経験を必要とするかも知れないけれど、普通にファイリングするだけなら別に専門的な知識も技術も経験もいらないんだよ。そういう専門的な知識も技術も経験もいらないような迅速でも的確でもない普通のファイリングであっても、法律の条文では派遣をやってもいいことになっているからいいのだ。全く同じように専門的な知識も技術も経験もいらない一般事務は、それを迅速かつ的確に遂行する場合であってもやっぱり専門的な知識や技術や経験が要らないから派遣をやっちゃいけないんだよ、と。

そもそも、ある業務について派遣をやっていいかいけないかを説明するロジックとして、こんな説明で誰が納得するでしょうか。

みんな内心は嘘つけと思いながらも、「いやあ、ファイリングってのは専門的な業務なんだよね」という理屈で納得した振りをしていたのに、実は専門的な業務なんかじゃなかったんだよ、といわれて、じゃあ全く同じく専門的じゃない一般事務が派遣しては駄目である理屈を、ちゃんと分かるように説明してくれよな!といいたくなるのは自然でしょう。

もちろん、そんな理屈などあるはずはないのです。諸外国の派遣法には全く例を見ない万邦無比の我が国体に匹敵する日本の派遣法の根幹をなしている業務限定方式というやり方が、実のところ全く何の根拠もない代物であったということを、正直に認めることしかないのです。

このように、日本の派遣法は整合的な説明をしようとすればするほど、ぼろぼろと理屈が崩れていくのです。いい加減、もう少し正直ベースで本音の議論をした方がいいと思いますよ。

(参考)

業務限定論の虚妄については、『雇用・労働政策のあり方への提言』の「労働者派遣法改正論議で今検討すべき事」で、次のように論じておりまして、特に付け加えるべきことはありません。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/supportcenter.html

>業務限定論の虚妄

 日本の労働者派遣法制を最も特徴付けるのは、それが派遣対象業務の限定を規制の中核に置いてきたことである。1985 年の法制定から1999 年の改正まではポジティブリスト方式(政令で定める業務にのみ派遣可能)であったし、それ以後のネガティブリスト方式も禁止業務という形で業務限定を行っていた。また、ネガティブリスト方式に転換したと言いながら、旧ポジティブリスト業務については期間制限がなく、雇用契約の申込義務もきわめて緩やかである。
ところが、このような業務限定中心の規制方式はヨーロッパではほとんど例がないだけでなく、EUの派遣労働指令では明確に撤廃すべきものとされている。なぜ日本の労働者派遣法においてこの方式が採られたのか、若干歴史をさかのぼってみよう。
 日本で派遣法構想の当初は業務を限定するなどという発想はなく、雇用契約を期間の定めのないものに限るというドイツ型の制度設計で考えていた。これは、派遣労働者の雇用保護という観点を中心において派遣規制の在り方を打ち出したものであり、趣旨として一貫したものであったが、当時現実に事務処理請負業と称して派遣事業を行っていた企業の大部分がいわゆる登録型であったため、この方針は放棄されてしまった。
 これに代わって打ち出されたのは、労働者派遣事業の対象業務を限定するという国際的に見てきわめて特異なやり方であった。労働者派遣事業を認めても弊害の少ない業務についてのみ派遣を認めるのだという考え方である。1985 年の労働者派遣法は、この考え方を中核として構築されている。この根底にあるのは、労働者派遣法を派遣労働者の保護を中心に考えるのではなく、派遣労働者によってクラウディングアウトされてしまうおそれのある常用労働者の保護を中心に考えようとする発想であった。
 そこで、労働者派遣法においても「労働者の職業生活の全期間にわたるその能力の有効な発揮及びその雇用の安定に資すると認められる雇用慣行を考慮する」( 第25 条) ことが求められるとともに、そのような雇用慣行に影響を及ぼさないような業務、具体的には専門的な知識経験を要する業務と特別の雇用管理が行われている業務に限って労働者派遣事業を認めるという理屈が構築された。専門的な知識経験を要する業務であれば、日本的雇用慣行に縛られず個人の専門能力によって労働市場を泳ぎ渡っていけるであろうし、そもそも日本的雇用慣行の外側の外部労働市場にいるような人々は派遣就労でもかまわないということであろう。しかしながらそれを「業務」という切り口で制度設計することにはかなり無理があった。日本のように個々人の職務が不明確で、会社の命ずることが即ち職務であるような在り方が一般的な社会において、個々の作業を「業務」で切り分けてこちらは認めてこちらは禁止というのは、職場の現実からはかなり無理のある仕組みであった。
 その無理が特に露呈していたのが「ファイリング」なる専門業務であった。当時の産業分類にも職業分類にも、ファイリング業務なるものは見当たらないし、当時の事務系職場において、ファイリング業務が専門的な知識経験を要する業務として特定の専門職員によって遂行されていたという実態にもなかった。実態から言えば、既に事務処理請負業として行われていた労働者派遣事業のかなりの部分が、当時オフィスレディといわれていた事務系職場の女性労働者の行う「一般事務」であったにも関わらず、それでは上記の対象業務限定の理屈付けに合致しないので、現実社会に存在しない「ファイリング」なる独立の業務を法令上創出したのだと理解するのが、もっとも事実に即しているように思われる。これは、実態は一般事務であるものを「ファイリング」などと称して対象業務にしたのが間違っていたという意味ではない。派遣事業の対象にするべき一般事務を対象業務にできないような無理のある業務限定論に立脚したことに、その原因があるのである。この矛盾は、1999 年改正でそれまでのポジティブリスト方式からネガティブリスト方式に移行したことで、一応は決着したということもできるが、今なお法律上は旧ポジティブリスト業務とそれ以外の業務では規制に様々な差がつけられている。
 この「無理」は、その後事務系職場でOA 機器が一般的に使われるようになって徐々に解消していった。派遣法制定当時には「事務用機器操作」はかなり専門職的色彩が強かったが、次第にワープロや表計算、プレゼンテーション等のコンピュータソフトを使いこなすことが一般事務の基本スキルとなっていったからである。こうして、かつては「ファイリング」という架空の専門職を称していたものが、今では実際に行っている「事務用機器操作」を名乗って派遣されるようになった。ただし、24 年前と同様にそれが「専門職」の名に値する業務であるかどうかは別の話である。

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コメント

また取り上げて戴き有難うございます。
木村氏の見解、濱口先生の見解、ともに我々からすれば勉強になります。
本当に派遣法については本音ベースで話をしなければならない時期に来ているのですが、公労使のどこにも我々が属していないのが、非常に歯がゆい思いが致します。
今後ともご指導宜しくお願い致します。

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