『実証研究 日本の人材ビジネス』(日本経済新聞社)
佐藤博樹・佐野嘉秀・堀田聰子編『実証研究 日本の人材ビジネス』(日本経済新聞社)をお送りいただきました。いつも心にかけていただきありがとうございます。
http://www.nikkeibook.com/book_detail/13382/
これはまずもって分厚い本です。東大の社会科学研究所に2004年度から6年間設置された人材ビジネス研究寄付研究部門の6年間の研究成果を一冊に集約した中身の濃い本です。
この研究部門は、株式会社スタッフサービス・ホールディングスの奨学寄付金により設けられたもので、労働者派遣と請負という人材ビジネスを総合的に調査研究したおそらく空前の研究プロジェクトでしょう。
プロジェクトのホームページは東大の社会科学研究所のHPにあります。本書のもとになった山のような研究報告書もここにアップされています。
http://web.iss.u-tokyo.ac.jp/jinzai/
さて、本書の内容ですが、
序章 人材ビジネスと新しいキャリア形成支援 佐藤博樹
第Ⅰ部 人材ビジネスの経営
第1章 登録型労働者派遣業の経営管理 木村琢磨
第2章 資本系人材派遣企業の取引と経営 高橋康二
第3章 製造業務請負業の経営管理 木村琢磨
第4章 製造分野における請負企業の事業戦略と人事管理の課題 木村琢磨・佐野嘉秀・藤本真・佐藤博樹
第5章 人材ビジネスの規模と生産性 阿部正浩・小林徹
第Ⅱ部 人材ビジネスの人材育成
第6章 製造請負企業における業務請負の適正化と能力開発 木村琢磨
第7章 生産請負・派遣企業によるリーダー配置とスタッフの定着化 佐野嘉秀
第8章 製品開発分野の技術者派遣企業によるキャリア形成支援 佐野嘉秀
第9章 派遣スタッフのキャリア形成に向けて 松浦民恵
第10章 職業紹介担当者の能力開発
第Ⅲ部 企業の人材活用と人材ビジネス
第11章 製品開発部門における派遣技術者の活用
第12章 高齢者介護施設における派遣スタッフの活用 大木栄一・堀田聡子
第13章 コールセンターにおける派遣オペレーターの活用 仁田道夫
第14章 登録型派遣スタッフの人事管理と労働意欲 島貫智行
第15章 企業における人材確保策の多様化と人材ビジネス 堀田聡子
第Ⅳ部 人材ビジネスで働く人々と働き方
第16章 生産分野における若年層の請負・派遣スタッフのキャリア 佐野嘉秀
第17章 派遣技術者のキャリアと仕事意欲 佐野嘉秀・高橋康二
第18章 派遣会社の経営形態と派遣社員の就業実態 高橋康二
第19章 事務系派遣スタッフのキャリア類型と仕事・スキル・賃金の関係 島貫智行
第20章 コールセンター・オペレーター派遣社員の就業意識とキャリアの実態と課題 中道麻子
第21章 派遣営業職活用の現状と課題 松浦民恵
佐藤博樹先生を中心に、若手労働研究者が大量に参加しています。というか、佐藤先生の前書きにもあるとおり、この研究部門自体が若手研究者に研究機会を提供し、この6年間に3名の博士号取得者が誕生したということなので、スタッフサービス社の社会貢献は立派なものがあったといえるでしょう。
ただ、残念ながら、世の中の動きというか世論の移ろいは、こういう地道でしっかりした研究成果に基づいた議論をそれほど好まず、本研究が始まった頃には規制はことごとく撤廃せよという市場原理主義が世にはやったかと思えば、その終了時期には一転して人材ビジネスが諸悪の根源の如く指弾されるという、まあ低いレベルで動いてしまうのですがね。
今後、人材ビジネス業界が現在の嵐をくぐり抜け、社会に貢献する事業として再確立していく上でも、本書にまとめられた研究成果は大変重要な意味を持つと思います。
ちなみに、なぜか同じ本日、国際人材派遣業協会(CIETT)から、「Economic Report 2010 The agency work industry around the world」というパンフレットが送られてきました。
PDFファイルがここにありますので、関心のある方は見てください。
http://www.ciett.org/fileadmin/templates/ciett/docs/Ciett_Economic_Report_2010.pdf
これをみて、とにかく派遣会社と事業所数で日本がダントツであることにびっくりしますが、それより、「3b派遣労働者の動機と満足」で、ヨーロッパでは常用就職するために派遣を使うとか、フランスでは派遣が就業能力を高めるとか、イギリスでは派遣労働者は仕事に満足しているとか、オランダでは仕事の質に満足しているとか、いろいろといいことが書いてあるのに、数の多い日本が好事例に出てこないのは残念ですね。
« 「もちつけblog(仮)」さんの拙著書評 その3,その4 | トップページ | 政策レジーム論によるNIRA報告書「「市場か、福祉か」を問い直す」 »
« 「もちつけblog(仮)」さんの拙著書評 その3,その4 | トップページ | 政策レジーム論によるNIRA報告書「「市場か、福祉か」を問い直す」 »
コメント