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日本学術会議大学と職業との接続検討分科会報告書案の続き

昨日の

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/post-d1fd.html

の続きです。

>2.学生の就職問題に関連するこれまでの対応

若者を取巻く困難については、その構造的な性格を踏まえた対策を講じることが必要であるが、これまでの対応においてはその点が十分でなかったと考える。以下に大学、企業・経済団体、政府の対応を概観する。

(1)大学の対応

学生の就職問題に対する大学の関心は主に2点に集中してきたと言えよう。1点は、学生の就職支援である。現在、少なくない私立大学が、入学者の定員割れを起こしているが、卒業生の就職状況は、新規の学生募集にも大きな影響を与えると考えられており、経営上の観点からも大きな関心事項である。多くの大学では、この問題に関して、入学後の早期からのキャリア教育や、カウンセリング・面接対策等の就職支援を積極的に展開している。

もう1点は、過熱し早期化した「就活」に学生が巻き込まれることによって、大学の授業が多大な影響を受けることであ。多くの大学教員がこのことを深刻な問題と感じており、大学団体を通じて経済団体に対して就職活動の早期化の是正を求める要望書が提出される等の対応がなされている。

しかしながら、こうしたことは、どちらかと言えば問題の現象面に着目した対応であり、現在の大学と職業との接続の在り方自体の変革につなげようとする対応、すなわち、学士課程教育の本体部分において、職業能力形成の機能を高めようとする取組みは少ないように見受けられる6。

6 職業能力ということに関して、各種の資格の取得が想起されることがある。もとより大学の教育課程を通じた資格取得は一概に否定さるべきものではないが、しかしそれが学士課程教育の体系性の中にきちんと位置付けられていることが重要である。4年間の学士課程教育そのものが、学生に対して、「大学卒業生にふさわしい」職業能力を身に付けさせるものとして機能すべきであり、学士課程教育の本体部分は職業能力形成に役立たないことの埋め合わせとして、資格取得がちりばめられているようなことであれば本末転倒であると言えよう。

(2)企業・産業界の対応

企業が学生に求める能力を高度化させているとの言説があることについては既に述べた。一方で、採用活動の早期化是正の問題については、従来より、日本経団連の倫理憲章によって、学事日程の尊重や、選考活動の早期開始の自粛等が定められている。しかし、厳しい経済環境の中で新卒採用を縮小することが、却って「厳選化」の圧力となり、他社との競争に遅れを取らないために、倫理憲章の遵守を考慮しない傾向が強まっているとも言われている。多くの大学教員がこのことを問題視していることは①に述べた通りである。

一方で、大学教育の在り方に対して、近年、経済団体からの提言が活発に行われるようになっている7。こうした提言が産業界から行われることは、大学教育における職業能力形成の充実を考える上で有意義なことであり、単に大学教育に対する「圧力」として捉えられるべきではない。

しかし、産業界からの提言の多くは、実際の企業の採用活動が、大学教育の成果を重視せず8、かつまた採用活動自体が大学教育に大きな影響を与えていることについては無自覚である。この問題の改善が図られないと、従来の大学と職業との接続の在り方を変革することは困難である。

7 例えば、平成20年4月に日本経団連から出された「競争力人材の育成と確保に向けて」は、人材育成の場としての大学の重要性を指摘して、企業が求める人材像を踏まえた教養教育の充実や、厳格な成績評価の実施による学生の質の担保等を提唱している。

8 理工系の分野では、大学で何を学んできたかを重視する例も少なくないと言われている。分野の特性とともに、修士課程への進学者が多いこととも関係すると思われる。

(3)政府の対応

この問題に関しては、政府においても各種の対応が講じられてきたが、ここでは主に2つのアプローチに絞って述べることとする。一つは、若者の「勤労観・職業観の醸成」9 を目的として、学校教育における進路指導やキャリア教育の充実を図るアプローチである。これについては、従来、主として初等中等教育において施策が推進されてきたが、平成22年1月現在、文部科学省の中央教育審議会において、大学による「キャリアガイダンス(社会的・職業的自立に関する指導)」の実施を法令上明確なものとするため、このための規定を新たに大学設置基準に盛り込むことが審議されている。

もう一つは、社会人や職業人として求められる能力を具体的に同定し、大学教育等の改善に活用してもらうことを企図したアプローチである。主なものに、「若年者就業基礎能力」10、「社会人基礎力」11、「学士力」12 の3つがある。本件審議は、文部科学省から日本学術会議に対して依頼を受けた、大学教育の分野別質保証の在り方に関する審議の一環として行われているものであるが、元来、同省からの依頼は、3番目の「学士力」を提唱した、同省中央教育審議会の答申の問題意識を踏まえて行われたものである。

2つのアプローチのうち、前者については、職業能力形成そのものを対象とするものでないことは明らかである。一方、後者のアプローチは、大学教育の職業的意義の向上をも企図したものではあるが、3で後述するようにその関係性は限定的であり、未だ「大学と職業との接続」の在り方の変革を大きく変えることにつながるものではない。しかし、大学教育の分野別の質保証という課題は、後者のアプローチの企図を大きく敷衍するものであり、大学教育の職業的意義の向上に極めて重要な役割を果し得るものと考える。

9 平成15 年6 月に、当時の内閣の文部科学大臣、厚生労働大臣、経済産業大臣、経済財政政策担当大臣から構成された「若者自立・挑戦戦略会議」が発表した「若者自律・挑戦プラン」より引用。

10 平成16 年 厚生労働省、11 平成18 年 通商産業省、12 平成20 年 文部科学省中央教育審議会

(4)若者の移行問題についての発想転換の必要性

以上に見たように、未だ大学、企業、政府の何れにおいても、従来の大学と職業との接続を変革しようとする自覚的な動きが出ているとは言いがたい。

かつての日本社会においては、若者が学校から職業へのスムースな移行を遂げていくことが長期にわたって自明視されており、移行を支援するスキームの必要性は意識されてこなかった。しかしそれは世界的にも希有なことであったし、最早かつてのような時代が戻ることはないであろう。今後は、むしろ根本的に発想を転換して、若者が学校から職業に移行するのには大きな困難が伴うという認識を自明のものとして、若者に対する支援策を抜本的に再構築しなければならないと考える。

そのために先ず取組むべきこととして、次節において、分野別の質保証を通じた大学教育の職業的意義の向上とともに、現在の就職活動の在り方を改善するための現実的な方策について検討する。

注3の「4年間の学士課程教育そのものが、学生に対して、「大学卒業生にふさわしい」職業能力を身に付けさせるものとして機能すべきであり、学士課程教育の本体部分は職業能力形成に役立たないことの埋め合わせとして、資格取得がちりばめられているようなことであれば本末転倒であると言えよう」という一文などは、昨今の大学の右往左往ぶりに対する鋭い皮肉になっていますね。

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