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「常時雇用」派遣とは何を意味するか?

本日の日経新聞の経済教室は、先日ご紹介した東京財団『新時代の日本的雇用政策』の執筆者である岩井克人先生と佐藤孝弘氏による「鳩山政権の雇用政策の基軸 技能蓄積と生産性に的を」が載っています。

中身は上記提言の要約ですので、ここで改めて紹介しませんが、その中の一点、派遣法改正をめぐる論点で「常時雇用、定義見直せ」というのは、筋からいうと常用派遣の事前面接禁止にこだわるのよりも数段レベルの高い議論なんですが、ちょっとだけ補足しておきたいことがあります。

この論点については、佐藤孝弘さんがご自分のブログで、やや詳細に説明されていますので、まずそれをご覧いただいた方がよいのですが、

http://blog.canpan.info/satotakahiro/archive/344

ここで佐藤さんが引用されている業務取扱要領の文言は、

>具体的には、次のいずれかに該当する場合に限り「常時雇用される」に該当する。

1.期間の定めなく雇用されている者

2.一定の期間(例えば、2か月、6か月等)を定めて雇用されている者であって、
その雇用期間が反復継続されて事実上①と同等と認められる者。すなわち、過去1年
を超える期間について引き続き雇用されている者又は採用の時から1年を超えて引き
続き雇用されると見込まれる者

3.日日雇用される者であって、雇用契約が日日更新されて事実上1と同等と認められる者。 すなわち、2の場合と同じく、過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者又は採用の時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者

というものですが、「具体的には」というからには、具体化する前の基本的考え方があるはずです。それは何かといえば、業務取扱要領のそのすぐ前に書いてあります。

>「常時雇用される」とは、雇用契約の形式の如何を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている労働者のことをいう。

いいですか。「雇用契約の形式の如何を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている」を具体化すると、上記3つのいずれかになるというのです。

おかしいんじゃないか、と思われるでしょう。1年経った後はどうなんだ。そのあと雇止めされてしまったら、「雇用契約の形式の如何を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている」にならないんじゃないか、と普通の神経を持った人ならそう考えるはずです。

なぜ業務取扱要領のここはこういう表現になっているのでしょうか。

実は答は簡単です。

ここで区別しようとしているのは、特定派遣事業と一般派遣事業だからです。そして、現在までのところ、この二つの類型は、事業を開始する入口でしか意味を持っていません。特定派遣事業なら届出でいいけれども、一般派遣事業なら許可制になる、というただそれだけです。それ以外には、何の区別もないのです。

入口でしか意味を持たない区別だから、つまり入った後では常時雇用の派遣労働者であろうが登録型の派遣労働者であろうが、法律上は何の区別もない、そんなこと一切知ったこっちゃない、という、そういう仕組みであるがゆえに、「雇用契約の形式の如何を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている」という原則を具体化する際に、上記のような普通の神経ならおかしいと思うような3つの要件のどれかに当たればいいなどという仕組みになっていたわけです。

ところが、今回の改正案は、そうではないのですね。入口だけではなく、入った後でも常時雇用かそうじゃないかは法律の適用上重要な区別です。

本日閣議決定された法案の要綱はこれですが、

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000050fd-att/2r985200000050jz.pdf

登録型派遣の禁止の規定はこうです。

>派遣元事業主は、その常時雇用する労働者でない者について労働者派遣を行ってはならないものとすること。ただし・・・

「労働者派遣を行」うというのは、入口だけではなく、派遣を続けている限りずっと「労働者派遣を行」っている状態です。1年経ったら知ったこっちゃない、というわけにはいきません。1年経った後でも、派遣が続いている限り、その派遣されている者が「その常時雇用する労働者」に該当するかどうか、がこの禁止規定該当性という形で問題になり続けます。

これが特に面白い事態を引き起こすのが、今回の改正の重要なポイントである労働契約申込みみなし制度との絡み合いです。

この点については、今週発売された『季刊労働法』228号に載せた「労働者派遣法改正の動向と今後の課題」の一番最後のところでやや詳しく論じておりますが、その基本的考え方は以前本ブログでも書いたことがあります。

煩を厭わず、ここにもう一度引用しますと、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/post-673e.html(常用有期派遣労働者を雇い止めできるか?)

>今回の改正(5年後施行分)によって、いわゆる専門業務(わたしは「専門業務」なる概念には「いわゆる」という接頭辞を付けないで使う気にはなれませんが)や育休代替・高齢者・紹介予定派遣等の場合を除き、「常時雇用する労働者」でない者を派遣することはできなくなります。しかし、この「常時雇用する労働者」の中には、有期労働契約を反復更新する「常用有期」も含まれます。

さて、ある派遣会社が有期契約で反復更新して雇用する労働者を例外業務等でなく派遣しているとしましょう。

1年契約を3回繰り返して3年経ったところで派遣が終了したとします。さて、派遣会社はこの「常用有期派遣労働者」を雇い止めすることが出来るでしょうか。

もし雇い止めできるとすると、この「常用有期派遣労働者」は、「反復更新を繰り返して実質的に期間の定めがないのと同視できる」までには至っていなかったと云うことになります。

しかしながら、そうだとすると、それはそもそも「常時雇用される」の定義である「事実上期間の定めなく雇用されている労働者」とは言えなくなる可能性があります。

雇い止めできると云うことが「常時雇用され」ていないことの現れであると見なされると、これは違法派遣ということになります。

違法派遣と云うことになると、第1次施行分に盛り込まれている雇用契約の申し込み見なし規定が適用されることになります。

つまり、常用有期派遣労働者を雇い止めすると、派遣先が雇用契約を申し込んだと見なされて、派遣先との間に雇用関係が成立してしまう可能性があります。

そうならないためには、もとにもどって、反復更新された常用有期派遣労働者は「事実上期間の定めなく雇用されている労働者」なので雇い止めすることは出来ず、どうしても切りたければ正規の手続きに従って解雇するしかないということになりそうです。

ということは、常用有期派遣労働者は期間の定めがあるといいながら雇い止めできないので、事実上期間の定めのない労働者ということになり、わざわざ上のように条文上で書き分ける実益があるのかという問題が生じます。

無期じゃなく常用有期であることにどういう法的実益があるのかを、派遣法の制度の枠組みの中できちんと説明するのは、こう考えてくるとなかなか難しそうです。

重要なことはこうです。

法律上の文言には、上記現行業務取扱要領の3つのどれかであれば「常時雇用」に当たるなどという規定はありません。「常時雇用」といえば、上記要領のいうように「雇用契約の形式の如何を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている」ということであり、それをこれから派遣事業を始めるという入口ではなく、雇止めされてしまったという出口において、どのように解釈すべきか、という問題は、答は出ていないということです。

少なくとも、入口で許可が必要か届出でかまわないかという判断のためだけに用いられてきた基準を、雇止めされたという出口でそのまま使えるかどうかについては、裁判所の判断はまだされているわけではありません。

いよぎん事件は、わたくしの判例評釈にもかかわらず、登録型だったという判断で終わってしまいましたが、もし最高裁今井判事の意見の如く「常用型」だったのではないかという判断にたって議論を展開すると、異なる判断になった可能性が高いように思われます。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/post-a073.html(いよぎん事件最高裁判決今井功反対意見)

このあたりは、みんな判ったような顔をしてしたり顔でいろいろと云いますが、実は結構大きな問題が潜んでいるのだと、私は思っています。

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