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初学者向け・・・じゃない「初学者に語る労働問題」

New 『日本労働研究雑誌』4月号は、「初学者に語る労働問題」という特集ですが、いやあ、とても「初学者に語る」というよりはかなりハイレベルの文章が並んでいるような・・・。

http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2010/04/

それは、特集を組んだ側もちゃんとわかっていて、「特集趣旨」では、

>本特集が想定する初学者とは、労働問題全般に対して素人というわけではなく、特定の専門分野に熟達している玄人である。

と断り書きをしています。つまり世の中、ある分野の専門家といえども、他の分野では素人みたいなもんだ、というそういう「素人」さん相手の特集なのであって、労働問題何も判らんという一見さんが即読んでなるほど、というような生やさしい文章ではありませんぞ、と。

>本特集の読者は、問題として認識する現象は同じくするものの、専門が異なればそのアプローチや解釈の仕方に大きな違いがあることに驚かれるかもしれない。本特集の読者は、問題として認識する現象は同じくするものの、専門が異なればそのアプローチや解釈の仕方に大きな違いがあることに驚かれるかもしれない。

これはとても重要な点でしょうね。本日都内某所の某会合でお話ししたこととも関わりがあったりします(謎)。

>労働問題研究は、時代の要請と学術基盤の間を架橋していく過程に存在する。時代の要請が先行し学術基盤の熟成を待つ問題もあるし、逆に学術が先んじていて、それが現実の労働問題の解決に資することもある。いずれにしても重要なことは、時代の要請と学術の間のダイナミックな相互作用を促すように、細分化された専門を架橋してゆく知的営みであろう。特定の専門に熟達しつつも異なる分野では初学者であるかもしれない読者に、専門を超えた議論を進めてもらい、労働問題の解決への新たな糸口を見出してもらうこと。これが本特集の企図である。

ということで、是非直接本誌を読んでいただきたいのですが、とりあえず目次を示しますと、

【マクロ経済環境と労働問題】

1990年代以降の労働市場と失業率の上昇
照山 博司(京都大学経済研究所教授)

雇用調整
太田 聰一(慶應義塾大学経済学部教授)

社会的排除――ワーキングプアを中心に
岩田 正美(日本女子大学人間社会学部社会福祉学科教授)

大学の就職支援・キャリア形成支援
上西 充子(法政大学キャリアデザイン学部准教授)

【労働政策】

賃金カーブと生産性
児玉 直美(経済産業省商務情報政策局産業分析研究官)

小滝 一彦(経済産業省経済産業政策局企業法制研究官)

最低賃金引き上げのインパクト
安部 由起子(北海道大学大学院公共政策学連携研究部教授)

【制度的環境(法、規制、監督)】

ヒマからクビへ――法と経済の視点から解雇を考える
神林 龍(一橋大学経済研究所准教授)

労働者とは誰のことか?
大内 伸哉(神戸大学大学院法学研究科教授)

内藤 忍(JILPT研究員)

労働時間
荒木 尚志(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

労働基準監督署は何をするところか
小畑 史子(京都大学大学院地球環境学堂准教授)

【内部労働市場】

雇用区分の多様化
今野 浩一郎(学習院大学経済学部教授)

パートタイマーの基幹労働力化
本田 一成(國學院大學経済学部教授)

派遣のメリット・デメリット
島貫 智行(山梨学院大学現代ビジネス学部現代ビジネス学科専任講師)

日本企業のコア人材のキャリア形成
金井 壽宏(神戸大学大学院経営学研究科教授)

均等処遇と女性人材の活用
大内 章子(関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科准教授)

日本企業のリストラと心理的契約
服部 泰宏(滋賀大学経済学部専任講師)

社員格付制度の変容
平野 光俊(神戸大学大学院経営学研究科教授)

【労使関係】

労働組合の役割――組織率の向上について
村杉 靖男(法政大学大学院特任研究員)

「春闘」の意味と役割、今後の課題
久谷 與四郎(労働評論家)

エッセイとして味わい深いのは、解雇を指す言葉が江戸時代の「ヒマを出す」から「クビにする」に変わっていったことから説き起こす神林先生の「ヒマからクビへ」でしょうが、これはもう全文読んでもらうしかないので、ここでは大内伸哉先生とJILPTの内藤さんの「労働者とは誰のことか?」を取り上げます。

ここでは、はじめに労働者性をめぐる議論の簡単な整理をした上で、自転車メッセンジャー3人の話が3ページにわたって紹介されます。ここはかつて自ら自転車メッセンジャーであった内藤さんの半ば参与観察的ヒアリングですが、その最後のところで、Bさん、Cさんがこう語っているところが示唆的です。

>Bさんは、「(労働者として)保護される立場・・・なのか・・・は個人的には、僕はどちらでもいいと思っているというか、間で見つけてもいいと思うんですけれども」と前置きした上で、今は、労働者として扱われないから、その保護が与えられないという側面と、個人事業主として扱われるけれども、会社と対等な関係に立っていないから、報酬が下がるリスクだけが大きいという側面があり、結局、会社の「いちばん都合のいいところだけを・・・押しつけられている」と考えている。実際、本社の配車係に「お前らライダーは走っていればいいんだと言われたこともある」という。

>Cさんも「僕も会社と対等になってはっきりさせたいですね。・・・請負なら請負で、こっちも歩合率も個別で交渉したりして、そういう歩合なら引き受けませんみたいなことも云ってみたい。・・・むしろ請負契約でも時間の自由度があって、それなりに稼げた上でですけれども・・・そうしたいなと、そうなって欲しいなと思っています」と話す。

これを受けて、大内・内藤さんは、

>ほんとうの問題は、実は、労働者かどうかの線引きをするという発想自体にあるのではなかろうか。線引きをするからこそ、線の向こう側とこっち側のどちらに来るのかについて神経を使わなければならないのである。

>ほんとうに自由に働いていれば、経済的な困窮に陥っていたり、過酷な勤務条件になっていたりしても、自己責任と突き放して良いのか、ここから考えてみる必要がある。労働者という法的な区分けに該当するかどうかに関係なく、働いている人全員が、そのニーズに応じて法的な保護を得られるようにするということも、考えてみる必要はないだろうか。これは、メッセンジャーたちの求めている働く人としての尊厳の問題にもつながっていくと思われる。

と問題を提起します。初学者どころか、個人請負就業をどう扱うかという今日の大きな政策課題に対する重要な提起というべきでしょう。

とかく、「労働者性を認めないのはけしからん!」と叫ぶことに向かいがちな労働運動関係者と、労働の現場をなんら見ることもなく「個人請負は今後、主流なワークスタイルの一つになる 」と暢気にいってるだけの空想的な人々ばかりが目立つ時代ですが、雇用に限らずディーセントな多様な働き方を実現していくということの重要性を改めて考える必要がありますね。

(参考)本ブログにおけるメッセンジャー及び類似職種のバイク便ライダー関係のエントリとしては、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/10/post_b0e1.html(バイク便ライダー)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/04/post_bc1c.html(ソクハイに労組)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_6ae7.html(ソクハイユニオン)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/post_57e9.html?no_prefetch=1(バイク便ライダーは労働者!)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/post-5512.html(バイク便:労働者としての地位確認など求め初提訴)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/post-7067.html(『ノンエリート青年の社会空間 働くこと、生きること、「大人になる」ということ』)

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