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失業保険と生活保護の間―ドイツの求職者のための基礎保障―

国会図書館の発行している『レファレンス』の2月号に、社会労働調査室の戸田典子さんの「失業保険と生活保護の間―ドイツの求職者のための基礎保障―」が載っています。

http://ndl.go.jp/jp/data/publication/refer/201002_709/070901.pdf

労働市場のセーフティネットをめぐる議論が盛んに行われる中、ドイツの制度について歴史的にさかのぼって詳しく解説している本論考は有用です。

目次は次の通り。

はじめに
Ⅰ ドイツのセーフティネット
Ⅱ 失業者支援制度の成立
1 失業扶助の起源―失業保護と緊急保護
2 職業紹介・失業保険法―失業支援金と緊急支援金
3 失業保険制度の崩壊
4 職業紹介・失業保険法の復活
5 雇用促進法から社会法典第3 編へ―失業手当と失業扶助
Ⅲ 失業者支援制度のゆらぎ
1 失業扶助受給者の増加
2 失業扶助と社会扶助の競合
3 連邦政府と自治体の競合
Ⅳ ハルツ改革―失業扶助と社会扶助の一体的改革
1 失業扶助と社会扶助の統合
2 改革後の給付内容
3 運営機関
Ⅴ ハルツ改革後の課題

むすび

「むすび」で、わたくしがむかし書いた解説の一節が引用されたりして、おもわず懐かしかったりします。問題構造はその時から明らかであったわけですね。

>日本でも、セーフティネットの間を埋めるために、生活保護制度を活用する、新たな制度を創る、などの対策がかねてから提案されてきた。

全国知事会及び全国市長会が共同で設置した「新たなセーフティネット検討会」が平成18 年に提案した「稼働世代のための有期保護制度」は、就労可能な世代を対象とする、最長5 年の期間を定めた保護制度である。制度適用期間中は、現金給付だけでなく、福祉事務所及び関係機関が積極的に被保護者と共に、就労自立のために目標を定め、プログラムを組み、複合的な就労阻害要因を除去し、職業紹介等を行う(98)。連合も、雇用保険と生活保護との中間の「第2 層のネット」として、就労・自立支援と連携した最長5 年間の給付制度を提案している(99)。

濱口桂一郎東京大学客員教授(執筆時)は、「長期失業者や受給資格なき失業者に対して、モラルハザードを回避しつついかにセーフティネットを及ぼしていくか」を雇用保険制度が直面する「最大の課題」と位置付け、「従来の欧州諸国を見習って失業給付の所定給付日数を単純に延長したり、あるいは国庫負担による失業扶助制度を野放図に導入」するなら「欧州諸国が脱却しようとしている長期失業の罠に陥ってしまう」と警告し、「多くの長期失業者が雇用保険制度と生活保護制度のはざまで無収入状態に陥っていることを考えると、生活保護制度についても労働法政策上に明確に位置づけ、失業給付受給終了後の失業者に対する所得保障として積極的に活用するとともに、従来からの生活保護受給者も含めて、その就労促進を制度の中核的要素として組み込んでいくことが考えられる。」と述べている(100)。

失業者支援制度や公的扶助が手厚いために、かえって人々がそこに安住する傾向もあったヨーロッパでは、現在、労働の場に参加させることにより人々を社会に包摂する「アクティベーション」が社会政策の主流となっている。ハルツ改革もその流れを汲むものである。ドイツと異なり、就労世代へのセーフティネットが極めて不十分な日本では、追い詰められ、労働市場に投げ出された人々は、劣悪な労働条件の仕事にも就かざるを得ず、ワーキングプアを形成している。唐鎌直義専修大学教授は、「労働力を窮迫販売する人の登場は、労働市場の競争原理を通じて、失業していない現役労働者の賃金や労働条件を引き下げる方向に作用する。失業者に対する所得保障は、非失業者の賃金や労働条件を守るために制度化された側面を持っている。(101)」と述べている。健全な労働市場の構築のためにも、雇用保険制度と生活保護制度の問題点と可能性を十分に検討した上で、セーフティネットを張り直さなければならない。 
(とだ のりこ)

この問題に関わるわたくしの文章としては、上で引用していただいた『ジュリスト増刊労働法の争点』を含め、以下のようなものがあります。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/juristkoyouhoken.html(『ジュリスト増刊 労働法の争点(第3版)』「116 雇用保険の法的性格」)

http://homepage3.nifty.com/hamachan/seroukakusa.html(『世界の労働』2008年1月号 「格差社会における雇用政策と生活保障」)

http://homepage3.nifty.com/hamachan/shitsugyohoken.html(『季刊労働法』221号「労働法の立法学」シリーズ第18回「失業と生活保障の法政策」)

http://homepage3.nifty.com/hamachan/fujoworkfare.html(『季刊労働法』224号「労働法の立法学」シリーズ第19回「公的扶助とワークフェアの法政策」)

http://homepage3.nifty.com/hamachan/econo1002081.html(『週刊エコノミスト』2月9日号セーフティネットのあるべき姿 支えきれなくなった「家族」雇用保険と生活保護の再構築が急務)

http://homepage3.nifty.com/hamachan/bltsafetynet.html(『ビジネス・レーバー・トレンド』2010年4月号 「労働市場のセーフティネット-雇用保険制度等の展開と課題」)

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先生に「有用」とコメントしていただいて光栄です。ありがとうございました。

投稿: 戸田典子 | 2010年3月28日 (日) 16時43分

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