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高木郁郎先生の「仕事と家庭の両立へ」

以前私の講演が載った雑誌『月刊マスコミ市民』の3月号に、高木郁郎先生が「仕事と家庭の両立へ-民主党政権の課題」という講演録を載せておられます。わたくしのと同様、現代社会民主主義研究会での講演です。

高木先生は、最近、OECDの『Babies and Bosses』を『仕事と家庭生活の両立』として監訳されています。OECDがどうとか知ったかぶりする人が、この本や私が監訳した『日本の若者と雇用』などをどこまできちんと読んでいるのか、まことに心許ないところですが、まあ、それはさておき、この文章の中から、いくつか重要な一節を引用しましょう。まずは、セーフティネットについて、「ワークフェア型の生活保障」を主張します。

>セーフティネットを作らなくてはならない一方で、障害や高齢などの条件を考慮しながら、「働いている」ことを基本に制度を考えるべきだと思います。生きている人間は、自律的に暮らしをしていくこと、仕事を通して社会に参加していくことが基本にならなければなりません。また、マクロ経済との関係でも、「働く」ということが国民総生産をのばして、それが生活給付や年金、雇用保険などの財源を保障するわけです。今まで厚生労働省は、お金が足りなくなれば給付の金額を下げるか負担を増やすという「足し算・引き算」の単純なレベルの考え方でした。しかし国際的な議論は、できるだけ就業する人を増やすことによって皆に負担を求めていく考え方です。ネットに引っかかればいいのではなく、ネットから、できる限り、通常の仕事の世界に戻っていくというワークフェア型の生活保障です。

>・・・民主党のマニフェストには、このワークフェアの考え方がきっちり出ていないのです。今日のテーマとも関わりますが「子ども手当がいいかどうか」という議論をする上では、この点は非常に大切です。「子ども手当を給付しますから、自宅で育児をしてください」という議論につながってしまう可能性もあるわけで、それではワークフェア型ではありません。どういう社会を創るのかに関して、「多段階のセーフティネット」とワークフェアという考え方が、民主党のマニフェストにきっちり描かれているとは思えないのです。

>民主党のマニフェストにある「コンクリートから人へ」の「人への投資」はとても重要な観点です。人への投資は、人々が人とのつながりと基本的には仕事を通じて社会に参加する能力を高め、ひいては国民経済生産性を高めるわけで、このことを象徴するスローガンとしての「コンクリートから人へ」非常にいいと思っています。しかし、「人って何ですか」という論議が欠如している、といわざるを得ません。・・・結果として、子ども手当に見られるようにお金がありさえすれば何でも解決してしまうという考え方であるとすれば、私はとてもまずいと思います。

>・・・私は、お金で給付するよりも社会サービスをしっかりと行うことが、とても重要だと思っています。所得を保障するのではなくサービスを保障することでセーフティネットを作る考え方ですが、民主党のマニフェスト全体を見ると、どうしてもお金中心の発想から抜け切れていないといわざるを得ない。

ここではベーシックインカムという言葉は出てきていませんが、まさに宮本太郎先生のいうアクティベーション政策の立場からの、金銭給付絶対主義への痛烈な批判です。

それから、「ナショナルミニマムを解体する危険な分権論」への批判も激しいものがあります。

>また私が見えてこないのは、マニフェストで使われている「地域主権」という言葉の中身です。私は、この言葉は非常に危ないと感じています。・・・最近の「分権推進委員会」の論議や提言を見ていると、ナショナルミニマムを解体する方向性を非常にはっきり出してきています。

>・・・「ミニマムすらやらなくしてもいいから地方に権限を与えろ」という無責任な丸投げ分権論の流れが進む中、民主党が分権論をそう考えているのかがよく分かりません。国の責任を解除した分権論になっているのではないかという気がしてなりません。

以下、OECDの見解を踏まえて、仕事と家庭の両立についての議論が展開されます。

>国際的な大きな流れを見ると、子育てのすべてを現金給付で支援するのは適切ではないと考えられます。現金給付の半分でも全部でも、保育サービスに振り向けるよう提案します。ワークフェアの観点からは、そのくらい思い切った政策が必要でしょう。

>子育ての段階で年齢に従っていろいろなコストが発生します。同じ年齢の子どもに対しては普遍的に、同額あるいは同じサービス給付をすべきですが、年齢を重ねていく子どもにも同じでいいかどうかは、論議が必要だと思います。・・・1歳までの育児休業期においてはすべての対象に対してその期間の賃金を保障する額の高い現金給付を行い、1歳を超えたときはサービス給付に切り替え、さらに義務教育に入った場合は別の水準を用意するというように、子どもの発達に応じた給付のあり方を考える必要があります。

最後のところで、マスコミへの厳しい批判も展開されています。

>最近、腹立たしい思いを強めているのはマスメディアの報道ぶりです。名指しでいわせていただければ、特に劣化が著しいのが「朝日新聞」だと思います。日本を良い社会にしていくための建設的なリード役になるような記事や解説は見あたらなくなりました。両立問題に関しても、あるのは財政にどう響くかという観点だけです

(参考)

『マスコミ市民』昨年11月号に掲載されたわたくしの「雇用システムの再構築へ-民主党政権の課題」はここに載せています。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/mascom0911.html

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コメント

1歳を超えたときはサービス給付に切り替え、さらに義務教育に入った場合は別の水準を用意するというように、子どもの発達に応じた給付のあり方を考える必要があります。
http://www.thomassabosales.com/thomas-sabo-charms.html

投稿: charm club | 2010年7月13日 (火) 14時50分

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