朝青龍と労働法
誰か書くかなと思っていたら、弁護士の小倉さんと監督官出身社労士の北岡さんがさっそく朝青龍問題について書かれています。
http://benli.cocolog-nifty.com/la_causette/2010/02/post-80f6.html(「他人に暴行を加えた」という理由で行う懲戒解雇の相当性)
小倉さんが引用する裁判例は大阪地裁昭和49年5月28日労働判例205号35頁で、
>右の申請人の暴行に至る動機、態様、労務委員会当時における会社側の結果の認識および前認定の申請人の酩酊の状況等から考えると、申請人の所為は、会社創立記念日の祝宴における所為としては全く相応しくない非常な行為であるとの非難を免れないが、しかし酒に酔ったうえでの行為であり、意図的に暴行を加えようとしたものとは認めがたく、かつその傷害の結果も偶発的なものと認められるから、申請人に対し、会社就業規則第七四条二号にいう「他人に暴行を加えた」という理由で懲戒解雇に至ることは、その処分に至る事実の評価が苛酷に過ぎ、その情状の判定、処分の量定等の判断を誤ったものというべきであり、結局その処分が客観的妥当性を欠くが故に、就業規則適用の誤りとして、懲戒解雇は無効と解するのが相当である。
もちろん朝青龍は解雇されたわけではありませんが、小倉さんは、
>少なくとも、その脚本家や漫画家は、自らが委員を務める組織に属する特定の労働者に対し、解雇権を振りかざして執拗に特定の「品位」を押しつけようとしたことによって、不要なストレスをその労働者に与え続けたことを反省し、二度とそのようなある種のパワハラをしないようにして貰いたいものです。単独でではないにせよ、解雇権を行使できる立場の人が、特定の労働者との関係で「天敵」と呼ばれることの異常さに気付いていただきたいものです。
と、解雇権を振りかざしたことを問題としています。
北岡さんの方は、
http://kitasharo.blogspot.com/2010/02/blog-post_05.html(朝青龍「退職」と労働法ーニシムラ事件からの示唆)
ニシムラ事件(大阪地決昭和61.10.17 労判486-83)を引いて、
>使用者の右懲戒権の講師や告訴自体が権利の濫用と評すべき場合に、懲戒解雇処分や告訴のあり得べきことを告知し、そうなった場合の不利益を説いて同人から退職届を提出させることは、労働者を畏怖させるに足りる脅迫行為・・・これによってなした労働者の退職の意思表示は瑕疵あるものとして取り消し得る
朝青龍のケースがどうなのかと問うています。
>つまり懲戒解雇に該当しないような事案について、使用者側が「懲戒解雇になるぞ、処分前であれば退職届を受領し退職金を支払ってやる」とする対応は、後日、脅迫を理由に退職自体を取消しうるということです。
それでは朝青龍は「懲戒解雇」相当であったのか。昨日の記者会見を見る限り、当人はマスコミ報道と事実が違うとの主張を繰り返していました。知人男性に対する暴行が仮に事実無根(酔っていたので、何かの拍子に手が当たってしまったなど)であれば、ニシムラ事件と同様の問題状況といえるのかもしれませんね。
事実関係自体が必ずしも明らかではないですし、そもそも相撲力士の労働者性如何という本ブログで何回も取り上げた問題もこれあり、なかなか論じるのは難しいのですが、いずれにしても興味をそそられるケースであることは間違いありません。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_c64e.html(力士の労働者性)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_fd03.html(時津風親方の労働者性)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_bbf0.html(幕下以下は労働者か?)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/09/post-d31a.html(力士の解雇訴訟)
ちなみに本エントリは「雑件」ではありませんので、念のため。
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