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2010年2月 7日 (日)

「うえしん」さんの拙著書評

「考える書評集」で有名な「うえしん」さんが、拙著『新しい労働社会-雇用システムの再構築へ』について、詳しく書評していただいています。

http://ueshin.blog60.fc2.com/blog-entry-1385.html

>この本の読書中の感想は率直にいってややこしすぎて、難渋した。労働法制のあーでもない、こーでもないという議論は頭がこんがらがって、流し読みしやすい私はとても理解がむづかしかったし、言葉をひとつひとつかみしめないととても理解がついていけるものではなかった。

>いまの労働問題を労働法方面から読み解いた本ということになるだろう。いまの非正規問題というのは労働法から読み解いたほうがいいのか、あるいはジャーナリズムから読み解くほうがいいのか、労働法議論のややこしさから違う方面からの報告に逃げ出したくなった。

>まあ、でも労働法から労働問題をよみとくことは労働のあり方、根本をとらえなおす契機になるし、こんがらがった労働のあり方をときほどく大切なツールになる。労働法や規制がこんにちの労働問題や労働のあり方をつくっているという面もあることがよくわかった。

私としては、可能な限りわかりやすく書いたつもりではありましたが、うえしんさんにとってかくも難渋するほどであったというのは、反省すべきことであるかも知れません。

と、普通であれば、いうところでしょうが、私は違う反応をしたいと思います。

確かに現在日本の労働法制は頭が痛くなるほどややこしくてわけわかめな状態です。

拙著は、それをわかりやすく解説することを目的にした本ではありません。

そういう本はけっこう一杯出ています。新書本でも大内伸哉先生の新書はそういう本来新書に期待されているような性格の本です。

しかし、拙著はそういう本ではありません。

わけわかめな状態にある日本の労働法制を、わかりやすく説明してしまっては却って見えなくなってしまうその矛盾を、そのややこしさ、わけのわからなさのゆえんを、そのロジックに沿って、明確に摘出すること、その問題提起を、労働法の世界の外にある人々にも理解できるように説明すること、そういう目的で書いた本です。

わけがわからないことは、わけがわからない人が悪いのではない。と人に納得してもらうためには、そのわけのわからなさのわからなさ具合が分かってもらわないといけない、というパラドックスがあります。

その「難渋」を乗り越えて、わけわかめな労働法制のわけわかめぶりをそのわけわかめぶりに即して理解してはじめて、それに即して現行労働法制を的確に批判することができるのです。

それが我慢できない人は、遥か外堀から全然届かないような見当違いの批判の矢を投げつけて悦に入るしかありません。それでは本当の制度改革、労働法改革はできるはずはないのです。

実は、「うえしん」さんは上のようなことを云われながら、そのあとには長時間労働の問題、派遣と請負の問題、生活給と年功賃金の問題など、ほとんど的確に拙著の問題意識を摘出していただいています。

いちいち引用しませんが、是非上のリンク先をお読み下さい。

こういう本当にきちんと本の内容を読めている人ほど、

>ほとんど本の内容の紹介となったが、読むときはほんとうに難渋して、この文章も読み間違いや勘違いがないかすこし不安なところがあるし、本の中で理解できないところは放ったらかしにしている部分ものこった。まあ、いまの私に理解できるものしか理解できないというのは仕方がないものだ

と、謙虚な姿勢を崩さないのですね。

そして、最後に「うえしん」さんが述べられた次の言葉は、まさにわたくしが心ある読者の方々にそのように読んでいただきたいと念じていたあり方そのものです。

>しかしこの本はいがいにこんがらがった労働問題の整理に役立ったということができるだろう。また新たな認識にも光を当ててくれたということになるだろう。こんがらがった労働問題について頭の整理には、この濱口さんの首尾一貫した論理的な文章が役立つだろう。それにしても労働法やら法律って厚い壁のように感じるが、どうやったら興味をもつことができるようになるのだろう

本当にありがとうございます。「うえしん」さんのような読者を持てたことは、拙著にとってこの上ない慶びです。

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コメント

おおーうえしんさんがここに登場してくるとは予想外

あ、このコメント承認しなくておkです

うえしんです。

私のつたない書評をとりあげていただきありがとうございます。
覚悟していましたが(笑)。

ワケのわからない状態をそのままに記述することは、的外れな批判をなくすために必要というのはまったく納得します。

原因や根本要因をとらえ損なうと的外れな対策に走ってしまうことになりますし、単純なステロ的な理解では方向があらぬほうへいったり、奇怪なほうにねじまがったりしますものね。

マスコミ的な理解ではキケンということですね。

私はいま派遣で飛ばされていますが、三年後の直接雇用義務のためにかたちだけ直接雇用になったり、次回更新時に時給を下げられるため派遣会社にもどったり、派遣が主力な会社なのに偽装直接雇用がまかりとおっています。労働法にふりまわされている感じです。

奇奇怪怪にこんがらがった日本の雇用のありかたをぜひ濱口さんに正してもらうことを願いたいです。やはり正社員の長時間拘束のありかたに手をつけて、非正規のための住宅費、教育費の補助が必要なんではないかと思います。

書評をとりあげていただき、うれしかったです。

本記事に直接は関係ありませんが、以前から疑問に感じていたことがあります。何故分かりやすい説明や言葉を無条件で是とするのか。労働の世界に限らず、世の中は極めて複雑にいりくんだ仕組みで成り立っているはずです。複雑なものを説明しようとすれば、説明も難解になるのは「当たり前」のことのはずです(わかりやすく説明しようとする努力は必要ですが)。むしろ、複雑な事象を、わかりやすくワンフレーズで説明している言説があれば、その理論のどこかが破綻しているのではないかと考えるのが自然なことのように思われるのです。自分の脳みそに汗をかかせて複雑な事象を理解することを放棄した人が、何故か相手の説明を「分かりにくい。」と一刀両断する風潮が蔓延し、例えば偏ったワンフレーズポリティクスを助長します。そのワンフレーズを熱狂的に支持することが、自分の不利益にどのように連なっているかを想像しない人々の群れ。

経済学は物理学をモデルにして構築された学問といわれてますが、自然現象は単純な原理から出発して論理的に説明できるのが望ましいとされ、またそれで成功してきています。
物事が単純に理解できるに越したことはないと思うのですが、経済をバックグラウンドにしてる人の話は、あまりに単純化し過ぎてる気はしますね。
仰るとおりで人間世界の諸々が単純な原理のみで全て説明可能とは思えませんし。しかし、その単純明快な説明ゆえに、惹きつけられてしまう人が多いような気もします。

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