松井保彦『合同労組運動の検証-その歴史と論理』
松井保彦さんから、『合同労組運動の検証-その歴史と論理』をお送りいただきました。
松井さんは長く全国一般の委員長として中小企業労働運動で活躍された方で、中基審や中労委の労働側委員として労働行政でもおなじみですが、本書は半世紀以上前の総評の中対オルグ設置から全国一般が形成されていく過程から始まって、日本における合同労組運動の歴史を再検証するとともに、その日本の労使関係に対して有する意義を論じた書物です。
読みどころとしてはやはり、松井さん自身も含む若きオルグたちが各地域で組織化に取り組んでいくあたりの描写でしょう。
>松井 要求の組織化では、最初に手がけるのは賃金問題とは限らない。そこの会社の条件にもよるが、労働基準法の実施ということが案外多い。
西田 そう、広い意味で「権利意識」を持たせるということが中心になる。賃金問題を最初にぶつけることもあるが、一般的には、なんとしても権利意識を目覚めさせることだ。・・・
松井 労働者との話のきっかけは、寝泊まりの条件や仕事とこととか、昼休み時間、夜の時間の過ごし方といったような雑談から始めて、その中からいろんな不満や悩みを引き出し、少しずつ組合の話に織り込んで、そこから要求を決めていくというのが、実際のやり方です。だから、どの要求が最初とは決められないんですよ。
西田 中小企業労働者の問題は、なんといっても”流動性”があるというか、不安定といえる。・・・この場合、組合ができると定着率がきわめてよくなる。”10円向こうが高いから移る”という感覚が薄れていく。組合ができたことで労働者が相互に交流し、その話し合いの中から自信のようなものを作り出しているんですね。
後半はどちらかといえば理論編。50年代から60年代にかけての合同労組が登場していった時代に、石川吉右衛門先生がその法的認知のためにサポートしてくれたという話は、あまりきちんと伝わっていない話のようにも思います。
>・・・そして、”合同労組の法的地位の確立”への発展は、石川先生の合同労組の実態と法理の究明によって確立されたといっても過言ではない、と私は確信しています。先生は、「労働組合法の制定当時に存在していなかったのだから、それをしてなかったからだめというのではない。つまり社会現象だとすれば、そこから発展したものじゃないか。発展したものに、今ある法律をどのように適合させるべきかということで考えなければいけない」と、当時の頑迷な労使関係者と学者に対して、啓発・忠告のような言葉があったことを付言しておきます。
やや通り一遍に聞こえるかも知れませんが、松井さんの最後のことばを引用しておきます。
>・・・すべての労働者とその家族が、現在も将来も安心して生活するための憲法27条(勤労権)に基づいた「権利と待遇の機会均等」が保障されなければなりません。
そのためには、これらの具体的課題を自らの任務とし、また日本の労働運動に責任を持つ連合がその推進に全力を挙げることです。そして連合構成組織のすべてが「未組織労働者の組織化」に立ち上がることこそが、新たな日本の労働運動の幕開けです。
これと、巻頭の菅野和夫先生の「刊行に寄せて」の最後の言葉とが、響き合っています。
>労働組合組織率の長期低下傾向に現れているとおり、正社員のみを組織する企業別組合の限界は誰の目にも明らかになっている。他方、今日の日本の経済社会には労働問題があふれており、組合運動にとってはむしろ好機到来の状況に見える。展望を拓くには組織化への本格的取り組みしかない。中小企業労働者の組織化を目指した総評中対オルグの歴史の検証は、今日的な意義を持っているといえよう。
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