清家篤・長嶋俊三『60歳からの仕事』
慶應義塾長の清家篤先生と独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構の雑誌『エルダー』編集長の長嶋俊三さんの共著『60歳からの仕事』(講談社)をお送りいただきました。いつもありがとうございます。
さて、清家先生の高齢者雇用の本も数多いですが、本書は高齢者雇用の現場に詳しい長嶋さんとの「理論と実証の両輪」にまたがった本として、また全体としてやや軽く読める仕上がりの本として、是非多くの方に読んでいただきたい本です。
「理論と実証の両輪」については、「はじめに」での清家先生の言葉を引きますと、
>理論と実証は学問の両輪である。事実によって理論を確かめ、また事実の意味を理論によってくみ取るということだ。
本書が厳密な学術書ではないが、60歳からの仕事と働き方について、そうした理論と実証の両輪を意識して書いた。私は労働経済学者として主に理論を担当し、ジャーナリストの長嶋俊三氏が主に実証を担当した。
高齢者の雇用に関して、その道では有名な雑誌に『エルダー』(独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構発行)がある。長嶋氏は1979年の創刊から現在までその編集者を務めてきた。日本中の現場に足を運び、高齢者雇用の実態を取材し、その現場から企業、社会のあるべき姿を探ってきた。いわば「歩く高齢者雇用事例集」というべき人だ。
私は高齢者雇用に関して、経済学に基づく高齢者雇用理論を統計によって検証する実証分析を行ってきた。本書においてはそうした高齢者雇用理論の視点をもとにして、長嶋さんにこれまで取材された事例から好事例を選び出してもらい、それに私が解説を加える形で、二人の共同作業を完成させた。
ということです。実証の欠如した理論を振り回すえせ学者の横行する昨今、「理論と実証の両輪」ということばは、拳々服膺すべきことばでありましょう。
内容は以下の通り。
65歳まで、70歳まで働く場合
1.同じ会社で働く場合
2.会社を変わって働く場合
3.フリーランスで働く場合
17企業の事例研究付き。
●65歳まで「定年延長」で働く
年功賃金なし、多様な勤務地・勤務形態(イオンリテール、川崎重工業 ほか)
●65歳まで「継続雇用」で働く
定年は形骸化、希望者全員を継続雇用、在宅勤務(樹研工業、昭芝製作所 ほか)
●65歳まで「会社を変わって」働く
高齢の専門家が集結、積極的な中途採用、高齢者向きの仕事(ハクホウ ほか)
●65歳以降まで「フリーランス」で働く
定年なしの営業職、拘束は月2回、現役時代をしのぐ収入(神奈川日本建工)
●「70歳」まで働く
専門能力を活かす、土日を働く、ボランティア(山形屋、加藤製作所 ほか)
ついでに、宣伝しておきますと、「理論と実証の両輪」という意味ではOECDの高齢者雇用報告書も高い理論水準と実務家的実証性を備えたものとしてじっくり読まれる値打ちがあります。
日本版は清家先生が監訳されていますが、世界版はわたくしが翻訳し、いずれも明石書店から刊行されております。
http://homepage3.nifty.com/hamachan/mokuji6.html
また、日本とEUの高齢者雇用政策に関しては、いままでかなりの数の文章を書いてきております。わたくしのHPに所収してありますので、適宜参照いただければ幸いです。
http://homepage3.nifty.com/hamachan/eukintou.html(EU労働法・社会政策(機会均等))
EUの一般雇用均等指令案等の概要について(『世界の労働』2000年2・3月号)
EUの年齢・障碍等差別禁止指令とそのインパクト(『世界の労働』2001年2月号)
高齢者政策の新たなパラダイム-早期退職から年齢差別禁止へ(『総合社会保障』2001年10月号)
障碍者政策の転換-福祉から雇用へ、機会均等へ(『総合社会保障』2001年11月号)
多様な職場の多様な個人、しかし差別やいじめは許されない!(『月刊連合』2002年8月号)
「EUの障害者雇用政策」(2004年7月21日)
「EUにおける年齢差別是正への取組み」(2005年6月13日)
EUの高齢者雇用政策(2005年12月21日)
EUにおける年齢差別禁止への取り組み(『IMFJC』2006年秋号)
EUにおける年齢差別禁止の動向(『エルダー』2008年6月号)
世界の高齢者雇用政策-日本とEUを対比して(『年金と経済』2010年冬号)
http://homepage3.nifty.com/hamachan/jkoyou.html(日本の労働法政策(雇用政策))
高齢者雇用政策における内部労働市場と外部労働市場(『季刊労働法』204号)
超高齢社会の高齢者雇用政策(『LRL』第9号)
定年・退職・年金の法政策(『季刊労働法』215号)
年齢差別(『法律時報』2007年3月号)
経済財政諮問会議労働市場改革専門調査会報告「年齢の壁」(2007年11月14日)
年齢差別のパラドックス(『時の法令』(そのみちのコラム)2007年11月15日号)
年齢の壁廃止の代償(『時の法令』(そのみちのコラム)2007年12月15日号)
雇用対策法改正と年齢差別禁止(『地方公務員月報』2008年3月号)
若者政策に関する研究会報告(2008年4月18日)
世界の高齢者雇用政策-日本とEUを対比して(『年金と経済』2010年冬号)
なお、ここにはまだ出ていませんが、もうすぐ発行される予定の(長嶋さん編集の)『エルダー』3月号に、70歳雇用という特集の中で「これからの新たな雇用システムとは何か」という文章を寄稿しておりますので、刊行されたらお読みいただければ、と。中身は次の通りです。
(1) 日本型雇用システム
(2) 高齢者は非正規でなければならないか
(3) 賃金制度の再検討
(4) 外部労働市場の形成
(5) 教育訓練制度
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