風間直樹『融解連鎖-日本の社会システムはどこまで崩れるのか』東洋経済
『東洋経済』誌で労働問題を追い続けている風間直樹さんから、新著『融解連鎖-日本の社会システムはどこまで崩れるのか』をお送りいただきました。ありがとうございます。
>非正規社員の悲惨な状況は何も変わっていない。労働現場の融解は、民間だけでなく、病院など公的な分野にも及び、日本の社会を蝕みつつある。徹底取材で日本の労働現場の実態を明らかにする。
第1部は前著『雇用融解』のフォローアップで、
>第I部 雇用融解 第ニ幕
第1章 深層海流「派遣切り」
第2章 「告発者」たちの憂鬱
第3章 派遣業最大手グッドウィルの破滅
第4章 「労働組合」「派遣会社」は誰のためにあるのか
この第4章に、例の『東洋経済』誌上での福井秀夫氏とわたくしの発言が(やや縮約されて)再録されています。
>労使の非対称性は労働法、労働経済学の出発点からの前提。規制緩和論者は労働市場は独占や寡占ではなく競争があるから良いというロジックだが、企業内部における権力関係という認識が欠落している。労働力という商品は特殊。同じ職場で長く働くことによってその性能が高まっていく。エグジットしてしまうと、まったく同じ価格で売ることは非常に困難だ。現在の職場で一定のボイス(意見)を発することが認められるべきだ。
第2部は、話を広げて住宅問題や医療、公的部門に及んでいきます。
>第II部 融解連鎖
第5章 居住融解――「ハウジングプア」の現実
第6章 医療介護融解
第7章 地域社会融解
第8章 公共現場融解
本書で一番インパクトがあったのは、「あとがき」に出てくる某経済学者の発言でしょう。
>世間からは経済誌の最大の友軍と思われている経済学者から、こと筆者のフィールドにおいては、ここ数年、耳を疑うような発言が相次いだ。雇用労働問題に関して積極的な発言を行っていたある大学教授は、こちらの取材意図を告げ終わるのすら待つことなく、こう言い放った。
「おたくは経済誌なのだから、経済という名を冠しているのだから、『市場主義』が最良だということをちゃんというべきで、それ以外の議論をむしろ批判するキャンペーンを張るべきだ」
ふううむ、「経済という名を冠し」たが最後、市場イデオロギーの宣教師にならなければならないとは、なんとも偏狭な精神であります。こういう大学教授に教えられている学生は幸いなるかなですね。
実をいえば、派遣規制の問題を始め、わたくしは風間さんとはいろいろな点で見解を異にするのですが、「市場主義が最良」という以外の意見を叩くべしという偏狭な思想がはびこるのはいいことではないという点では意見が一致しているようです。
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