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2010年1月26日 (火)

日本経団連の定義による「同一価値労働同一賃金」

さて、日本経団連の『経営労働政策委員会報告2010』ですが、66~67ページの「いわゆる『非正規労働者』の処遇改善への対応」という項目で、次のように述べています。

>むろん、企業としては、自社の従業員の処遇に関して、同一価値労働同一賃金の考え方に基づき、必要と判断される対応を図っていくことが求められる。

たぶん、労働法をちゃんと勉強してきた人であればあるほど、この文を読んで仰天するでしょう。だって、世界的にも日本の中でも、労働法の世界における同一価値労働同一賃金とは、同一労働同一賃金では及ばない異なる労働であっても同一価値であれば同一賃金にしろという、よりラディカルな議論だからです。例えば医師と看護師とか。ところが、日本経団連の用語法では、この言葉はそういう意味ではなさそうです。

>ここで、同一価値労働同一賃金の考え方とは、将来的な人材活用の要素も考慮して、企業に同一の付加価値をもたらすことが期待できる労働(中長期的に判断されるもの)であれば、同じ処遇とするというものである。

これは、通常の用語法における同一価値労働同一賃金とは逆に、同一労働であっても(中長期的に)同一価値じゃないから同一賃金にする必要がない、というロジックです。これはこれで、一つの完結したロジックなのですが、それは日本型システムにおける職能資格制における賃金決定原理の一つの軸であって、それを既に世界的に意味の確定している「同一価値労働同一賃金」という言葉であえて表現する意味がどこにあるのか、いささかよくわからないところがあります。

ちょっとググってみても、日本経団連以外にこの言葉をこういう意味で使っている用例はなさそうです。

結局言いたいことは、

>他方、同一労働同一賃金を求める声があるが、見かけ上、同一の労働に従事していれば同一の処遇を受けるとの考え方には問題がある。外見上同じように見える職務内容であっても、人によって熟練度や責任、見込まれる役割などは異なる。それらを無視して同じ時間働けば同じ処遇とすることは、かえって公正さを欠く。

ここは、判った上であえてややプロパガンダ的もの言いをしているのだと思いますが、「同一労働」とは別に外見だけで判断するものではなくて、熟練度や責任、役割も含めたものであることはいうまでもありません。

何が問題なのかと言えば、まさに「将来的な人材活用の要素」、つまり、現時点では外見だけじゃなく熟練度や責任、役割で見てもあんまり差はないけれど、正社員はこれからじっくり育てて高い責任や役割を負ってもらうつもりであるのに対して、非正規労働者はそういうつもりはなくて今現在の仕事をやってもらえばいいという点にあるわけです。

これを、「同一価値労働同一賃金」という言葉で呼ぶのはいかにもミスリーディングに思われます。正確に言えば「同一中長期的人材活用見込み同一賃金」とでも呼ぶべきものでしょう。

そうすると、正社員と非正規労働者は中長期的人材活用見込みが本質的に異なるのだから、そもそも同一賃金を論じ得ないという結論になるのは当然であるわけです。

どの考え方が正しいか間違っているかという議論はここではしませんが、少なくとも議論が混乱するような概念定義をわざわざ持ち込むのはあまり生産的とは思えません。もっと、わかりやすく、何が問題の焦点であるのかを明確にするような言葉遣いをする方がいいと思います。

(ちなみに、私は、日本には同一価値労働同一賃金どころか同一労働同一賃金もいきなり持ち込むことは不可能だと思っていますので、それとはとりあえず別の切り口から均等・均衡問題にアプローチするしかないと思っていますが)

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