中窪裕也『アメリカ労働法[第2版]』
中窪裕也先生より、近著『アメリカ労働法[第2版]』をお送りいただきました。ありがとうございます。
http://www.koubundou.co.jp/books/pages/30373.html
>アメリカでは解雇が自由というのは本当でしょうか? 団体交渉や差別禁止はどのようになっているのでしょうか? 「労使関係法」を中心としたシステムから「雇用差別禁止法」「雇用関係法」へと重心を移しているアメリカ労働法の全体像を明らかにした初めての概説書。待望の改訂です。
初版以降、2000年代半ばまで、労働立法の進展がほとんど見られなかったアメリカですが、ここ数年は法改正や新法の制定が相次ぎ、連邦裁判所での判決も集積しています。それらの動きをフォローし、全体をアップデートにするとともに、ますますダイナミックに発展しているアメリカ労働法の姿を概説する、実務にも役立つ最新版。
この「アメリカでは解雇が自由とは本当か」というのは、オビにも大きく書かれています。
これに対する中窪先生の答えは、312ページの「解雇法理の現状」に書かれています。
>以上に見たような随意的雇用の原則に対する修正は、もちろん州によって、その進展の程度が異なる。いずれの法理についても積極的に採用している州がある一方で、どの例外法理も採用せず、ほとんど昔と異ならない形で解雇自由原則を固守している州もある。
>また、例外法理の中心をなすパブリック・ポリシー法理と契約法理は、ある意味では当然のこととも言える。かつての随意的雇用の原則があまりに硬直的だったのを、法体系の枠内における合理的な推定ルールという、本来あるべき姿に戻したという面が強い。誠実・公正義務によっても、わが国の解雇権濫用法理に比肩するほどの修正は行われておらず、基本ルールとしての解雇自由原則はなお健在である。それを否定して、一般的な正当事由の要求にまで踏み込んだのは、モンタナ州だけである。
>・・・1980年代には、例外法理の発展によって「例外が原則をのみ込むのではないか」と騒がれたが、現在では「例外は例外」という形に整序され、原則としての随意雇用原則が再確認されているような印象を受ける。
それにしても、アメリカ労働法の現実の姿からして、本書の半分強は集団的労使関係法制に、残りの半分強は差別禁止法制に当てられており、現在の日本の労働法学の圧倒的大部分を占める労働条件と雇用契約に関する記述は5分の1強に過ぎません。これはやはりアメリカの特殊性というべきでしょう。
詳細目次は次の通りです。
第1章 アメリカ労働法の歴史
第1節 苦闘の時代(19世紀後半~1920年代)
1 保護立法に対する障害
2 労働組合と法
第2節 労働法制の基盤の確立(1930年代~1940年代前半)
1 ノリス・ラガーディア法
2 ニューディール労働立法の形成
3 労働組合運動の高揚
第3節 現行の労働法体系の形成(1940年代後半~現在)
1 労使関係法の展開
2 雇用差別禁止法の発展
3 個別的労働立法と雇用契約関係
4 アメリカ労働法の視点
第2章 労使関係法
◆A 被用者の権利
第1節 全国労働関係法(NLRA)の構造
1 NLRAの基本構造
2 不当労働行為手続
3 NLRAの適用対象
第2節 組織化活動の権利
1 組織化活動の意義
2 施設内活動の規制-被用者の場合
3 施設内活動の規制-外部者の場合
4 組織化活動と使用者の言動
第3節 支配介入の禁止
1 8条(a)(2)の趣旨
2 使用者の任意承認と中立義務
3 参加制度をめぐる問題
第4節 差別的取扱い
1 8条(a)(3)による差別の禁止
2 差別意思の認定
3 事業の廃止と8条(a)(3)
4 差別に対する救済
第5節 保護される団体行動
1 団体行動権の保障
2 団体行動の範囲
3 保護の限界
第6節 労働組合による権利侵害
1 被用者の権利行使の妨害-8条(b)(1)(A)
2 組合員たることを奨励する差別-8条(b)(2)
3 ユニオン・ショップ協定
4 「被用者」と「組合員」
◆B 団体交渉・労働協約・争議行為
第7節 交渉代表の選出
1 代表選挙の申請
2 選挙と認証
3 交渉単位
4 団交命令による地位の確立
5 使用者の変動
第8節 団体交渉義務
1 排他的代表権限と公正代表義務
2 団体交渉義務の内容
3 団体交渉事項
4 協約成立後の団体交渉義務
第9節 労働協約と仲裁
1 協約違反訴訟と苦情・仲裁手続
2 仲裁尊重の法理
3 個人被用者の協約上の権利
4 ノー・ストライキ条項
第10節 ストライキとロックアウト
1 争議行為の権利
2 スト参加者の地位
3 ロックアウト
4 争議調整
第11節 禁止・規制される圧力行動
1 2次的圧力行為
2 消費者へのアピール
3 ホット・カーゴ条項、縄張り争い、フェザーベッディング
4 組織化・承認要求ピケッティング
第12節 連邦法による先占
1 NLRAにおける先占法理
2 タフト・ハートレー法301条による先占
3 労使関係法の世界
第3章 雇用差別禁止法
第1節 1964年公民権法第7編と差別的取扱いの法理
1 第7編の差別禁止規定
2 個別的な差別的取扱い
3 系統的な差別的取扱い
4 差別的取扱いに対する抗弁
5 アファーマティブ・アクション
第2節 差別的インパクトの法理
1 差別的インパクト法理の形成
2 Wards Cove 事件と1991年公民権法
3 703条(h)による抗弁
4 差別的インパクトの回避と差別的取扱い
第3節 第7編における特別の差別類型
1 妊娠差別
2 セクシュアル・ハラスメント
3 宗教差別
4 出身国差別
5 報復的差別
第4節 第7編違反に対する救済
1 EEOCへの申立
2 EEOCの手続と訴訟
3 救済の内容
第5節 人種・性に関する特別の連邦法
1 合衆国法典42編1981条
2 同一賃金法(EPA)
第6節 その他の差別禁止立法
1 雇用における年齢差別禁止法(ADEA)
2 障害を持つアメリカ人法(ADA)
3 遺伝子情報差別禁止法(GINA)
4 州法の規制
第4章 労働条件規制と雇用契約
第1節 賃金・労働時間・休暇・付加給付
1 公正労働基準法(FLSA)
2 家族・医療休暇法(FMLA)
3 州法による賃金・労働時間・休暇の規制
4 付加給付と被用者退職所得保障法(ERISA)
第2節 安全衛生と労災補償
1 職業安全衛生法(OSHA)
2 労災補償制度
第3節 雇用契約の成立と終了
1 雇用契約と法
2 雇用契約の成立
3 解雇自由原則と例外
4 大量レイオフ、事業所閉鎖における予告
第4節 雇用関係上の権利と紛争、契約終了後の問題
1 雇用関係法のアプローチ
2 訴訟に代わる紛争解決手続
3 雇用契約終了後の問題
参考文献
事項索引(和文・欧文)
判例索引
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コメント
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はじめまして。私はアメリカ・オレゴン州でHRMコンサル会社を経営している酒井ケンと申します。アメリカ労働法に関してこのような書籍が日本語で出ているということを知り、驚きました。現在の雇用法においては、オバマ政権が可決させた医療保険改革法に基づく健康保険会社の今後の動向と企業の取り組み、特にスモールビジネスに与える影響が注視されています。日本の名だたる大企業だっても、アメリカではスモールビジネスの範疇で細々と事業をしているところが多いので、これから影響が出てくると思われます。本書は、日本から取り寄せして、読破してみたいと思います。ご紹介いただきまして、どうも有り難うございました。
投稿: Ken Sakai | 2010年4月25日 (日) 13時24分