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2010年1月12日 (火)

地方分権という「正義」が湯浅誠氏を悩ませる

毎日新聞の「ガバナンス・国を動かす:第1部・政と官」という連載記事ですが、

http://mainichi.jp/select/seiji/news/20100109ddm001010098000c.html

内閣府参与になった湯浅誠氏が取り組んだハローワークのワンストップサービスを妨害したのは何だったのか。マスコミの「正義」からすると、何はともあれ全部「官僚たちの妨害」という図式になるわけですが、実は・・・。

>派遣村の経験から湯浅氏がこだわったのは、ハローワークと自治体、社会福祉協議会に分かれた就労支援や生活保護の申請窓口を一本化する「ワンストップ・サービス」の提供だ。これを年末年始に「全国の大都市圏、政令市、中核市で行う」と記した。厚生労働省の山井(やまのい)和則政務官も了承し、政治主導で支援策が実現すると考えていた。

 ところが、10月20日に見せられた緊急雇用対策の原案に驚かされる。全国展開するはずのワンストップ・サービスが「東京、大阪、愛知で試行する」と3都府県限定に変わっていたからだ。湯浅氏は慌てて地名の後に「等」を付け加えて3日後の発表にこぎつけた。

 支援の規模をしぼろうとする動きの背景には何があったのか

さあ、何だったのでしょうか。

>当初は官僚による抵抗と考えていた。しかし、やがて根深い問題に気付かされる。それは、不況下で増加する一方の生活保護費をめぐる、国と地方のいびつな駆け引きだった。

 生活保護費は国が4分の3、自治体が4分の1を負担する。小泉政権の「三位一体改革」で国は2分の1への引き下げを図ったが、地方の猛反発で見送った。それでも、昨年10月の生活保護受給世帯は過去最多の128万世帯(前年比14万増)に達し、地方財政を圧迫し続けている。

 湯浅構想に、多くの自治体が尻込みした。困窮者が集まる場所で、生活保護の申請まで受け付けたら負担がさらに増えてしまう。負担を抑えるには、窓口を設けなければいいという逆立ちした論理だった。「どうしてもやるなら協力できない」と突き上げられた厚労省も「国が自治体に命令できる時代ではない」と積極的に動こうとはしなかった。

 ワンストップ・サービスは昨年12月、全国204カ所で実施された。ただ、生活保護申請を含む窓口一本化は実現しなかった。「政治主導」のスローガンだけでは打ち砕けない厚い壁を思い知った。

「厚い壁」は、地方分権というマスコミが大好きな「正義」そのものであったわけです。

大変皮肉なのは「突き上げられた厚労省も「国が自治体に命令できる時代ではない」と積極的に動こうとはしなかった」という表現です。ここには、湯浅誠氏のいらだちとそれに同感する記者のいらだちがよく現れています。

しかしながら、もし湯浅誠氏やこの記者の気持ちに従って、厚生労働省官僚が「うるさい、地方自治体の分際で政府の方針にごたごた言うな。さっさと言われたとおりやれ」と「命令」したら、この記事の載った毎日新聞を含むマスコミは、「よくぞ言った。その通りだ」と賞賛するでしょうか。それとも「地方分権の大義を踏みにじる許し難い奴だ」と総叩きにかかるでしょうか。

現在の社会状況下においては、自治事務ではなく法定受託事務であるはずの生活保護業務についても、「「国が自治体に命令できる時代ではない」と積極的に動こうとはしな」いことには合理的な理由があります。地方自治体にゆだねるということはそういうことなのです。

それにしても全国のハローワークが湯浅誠氏の意図に従って行動し、窓口一本化はできなくてもワンストップサービスができたのは、何よりもハローワークが国の直轄機関であったからでしょう。もし、地方分権派の方々の言うとおりに、ハローワークを地方自治体にゆだねていたとしたら、そもそもハローワークで何かすること自体からして、「「国が自治体に命令できる時代ではない」と積極的に動こうとはしな」かった可能性が高いのです。地方分権というのはそういうことなのです。

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コメント

>雇用政策の窓口を地方に一本化して、生活保護、住宅確保、職業訓練、就業支援という一連の流れを、ワンパッケージできめ細かく提供するべきだ。雇用政策のコンセプトは「地方分権」であるべきで、ハローワークも雇用・能力開発機構も解体・地方移管が正しい。

日経BPネットにおける猪瀬氏の主張です。今回のワンストップサービスの現実に、彼ならどのように答えるでしょう。
セーフティネットの拡充とハローワークの地方移管を同時に主張することは、矛盾でしょうか、矛盾ではないでしょうか。答えはすぐに出る類の問いですが、マスコミや一部の識者(驚くべきことに識者と言われる人までが)、このことに気づきません。
なぜそのような簡単な事実を洞察できないのか。
問題は、彼らが就職困難者を就労支援することの困難性および不採算性を、あまりにも甘く考えているということでしょう。この困難性・不採算性を現実に近い形で認知していれば、パッケージ化して地方に丸投げする危険性を同時に認知できるはずですので、簡単に「とにかく地方移管が正解だ。」という発想にはたどり着かないのです。
また、「労働行政を地方移管すればきめ細かいサービスの提供が可能になり、就職率もぐんぐん上がる。」という夢想を持つ人は、このたび東京都で実施した公設派遣村の実態をもって、その現実を学ぶべきです。

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