クルーグマンの「ヨーロッパに学ぶ」
ヨーロッパの穏健な試みをちょっと口にしただけで、「おぞましき社会主義だ!」と断罪する異端審問官が徘徊する日本のブロゴスフィアですが、アメリカの知的雰囲気も似たようなものらしく、例外的にまっとうな経済学者クルーグマン氏が、ニューヨークタイムズのコラムで、そういう奇形的な連中をからかっています。
http://www.nytimes.com/2010/01/11/opinion/11krugman.html(Learning From Europe )
幸い、さっそくoptical_frogさんが「left over junk」というブログで翻訳を掲載されているので、そちらからいくつか引用させていただきます。
http://d.hatena.ne.jp/optical_frog/20100112/p1(クルーグマン「ヨーロッパに学ぶ」)
>医療保険改革が終着に近づいてきて,保守派のあいだで嘆きといらだちの声がずいぶんあがってる.ぼくが言ってるのは過激な「ティーパーティー」連中のことだけじゃない.もっと穏当な保守派でも,オバマ医療保険でアメリカがヨーロッパ流社会民主主義になっちゃうぞと恐ろしげに警告を発してる.で,ヨーロッパが経済の活発さをなくしちゃってるのはみんなが知ってることだ.
こう言うとヘンだけど,どっこい,みんなが知ってることは正しくないんだ.ヨーロッパには経済の問題がある.ない国なんてあるかね? でも,いつもいつもみんなが聞かされてるおはなし――高税率と太っ腹な社会保障でインセンティブがおかしくなり経済成長とイノベーションが失速してる停滞した経済のおはなし――とはまるで似つかず,実際の事実は意外にも前向きだ.ヨーロッパからえられる本当の教訓は,保守派が言ってることの正反対なんだ:ヨーロッパは経済的に成功してるし,その成功から社会民主主義は機能するってことがわかる.
>じゃあ,どうして大勢の評論家連中はそれとちがう見取り図をぼくらに見せてるんだろう? なぜなら,この国にはびこってる経済のドグマによれば――ぼくが言ってる連中には実質的にすべての共和党員と並んで多くの民主党員のことも含まれるんだけど――ヨーロッパ流の社会民主主義は完全な大失敗になるはずだからだ.で,人間てのは見たいものを見てしまいがちなものだ.
そうですね。人間てのは見たいものを見てしまいがちで、見たくないものはいくら目の前に示されても見えないということは、本ブログで「この国にはびこってる経済のドグマ」にこちこちにとらわれている人々を何回批判しても、そういう人々にはまったく通じないということから明らかでしょう。まさに、「People tend to see what they want to see.」
>ヨーロッパは訓話に出されることが多い.経済を甘くして不運にしてうまくいってない人たちにやさしくしようとしたら,結局は経済の進歩をダメにしちゃうんだぞって引き合いによく出される.でも,ヨーロッパの経験が実際に示してるのは,その真逆だ:社会的公正と進歩は手に手を取って進むことができるんだよ.
この最後の台詞があまりにも嬉しくって、それでこのエントリをたてました。
>But what European experience actually demonstrates is the opposite: social justice and progress can go hand in hand.
この言葉の爪の垢を煎じて飲ませたいような連中に限って、全然ことばが通じないんですけどね。
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